第9話 祝いの席と感謝の心
「なんか、大騒ぎだね」
「ああ」
騒いでる連中が自分の元パーティだなんて言い出せない。
何をやってるんだか、あいつらは。
もう表立ってトラブル処理をする俺がいないんだから、少しは自重してほしいところだ。
ま、知ったことではないが。
『サンダーパイク』はまだ騒いでいるが、放っておいて三人に向き直る。
「それで、明日はどうする? 休養日を作ったほうがいいか?」
「はい。依頼達成したら二日間の休みを作るようにしています。もちろん、先生にお任せしますが」
「シルク、また先生になってるぞ」
「あっ……」
口を押えて顔を赤らめるシルク。
「追々でいいから慣れてくれよ。それじゃあ、明日と明後日は休暇ってことで」
「ユークは、どうするの?」
「そうだな、俺は軽く市場を見て回って……消耗品を補充かな。
拾って来た『祝福された灰』を使って聖水も作ってしまおう。
いろいろと役に立つアイテムだしな、あれは。
「ユーク、錬金術師、だもんね。ちょっと、羨ましい」
レインがふんわりと笑う。
少し酔っているのかもしれない。
錬金術師というのは、実はあまり冒険者に向かない。
というのも、その能力のほとんどが
しかも、知識を得たり、道具を揃えたりと初期投資がそれなりにかかる。
大器晩成型の不遇ジョブ、というのが正直な評価だろう。
なにせ、その能力のほとんどが消耗品に依るので金がかかる。
『金食い虫』などと揶揄されてパーティで煙たがられることも多く、錬金術師のほとんどは冒険者ではなく商店や冒険者ギルドで働いていたりすることが多い。
ただ、錬金術師でないと使えない
……俺のように。
「次の仕事をどうするかは三日後でいいか? 明後日でよけりゃぶらぶら探しておくが」
「ダメですよ、しっかり休まないと。先生がそう言ったんですからね」
指をぴんと立てて、俺を注意するシルク。
やっぱりリーダーはシルクがするべきじゃないだろうか。
「わかったわかった。じゃあ、三日後の朝、ここで。もし用事があったら、西通りの『踊るアヒル亭』に言伝をしてくれ。そこで寝泊まりしてるから」
「そこに行けば、ユークに会える?」
「どうだろうな。何か用事か?」
マリナが首を振る。
「ううん。暇だったら遊びに誘おうと思って」
「マリナ、いくら俺が知った人間だとしても、男にはもう少し警戒した方がいいぞ? 俺が悪い奴だったらどうするんだ」
「悪い男はそんな風に注意しないよ?」
「……」
思わず言葉に詰まる。
それはそうなのだが、何か違う気がする。
「まあ、機会があったらな。それに、これからいくらでも一緒に冒険に出られるだろ」
「それもそっかー」
納得してくれたようだが、どうにも危なっかしいな。
ため息をついていると、俺の事をツンツンとレインがつついた。
「ね、あれ……ユークじゃない?」
見上げると酒場の大型スクリーンに、『今日の注目配信』と銘打って、配信が流れていた。
スクリーンに映し出されるのは、赤い冒険装束を着込んだ俺。
「ホントだ、ユークが映ってる!」
椅子から半ば立ち上がるようにして、スクリーンを凝視するマリナ。
そのスクリーンの中では、赤魔道士が
画面の下に表示されている視聴数は……5000オーバー。
「は?」
思わず、目を疑う。
〝配信〟してからまだ半日ほど。それでこれは少しおかしい数だ。
『いやー、すごいですね。ジョブは赤魔道士でしょうか? ペインタル廃坑跡の新人殺しとも言われる
『いやいや、びっくりしました。不遇職といわれる赤魔道士がこんな戦い方ができるなんて、新鮮です。配信パーティは〝クローバー〟というそうですが、耳にしたことないですね』
『上位ランカーのパーティはほぼ把握しているんですけど、私も聞いたことがないです。もしかすると、新たな風を吹かせるかもしれませんね!』
『今後も要チェキ! ということで……本日の注目配信でした!』
冒険者ギルドの公認パーソナリティが軽くまとめて、スクリーンは次の映像を映し出す。
呆然としたまま、俺は
「視聴数、最後は6000超えてましたよ……。さすが先生です」
「俺も驚いた。つまずきやすいところだし、駆け出しが見てたのかもしれないな」
「でも参考にならないよ。ユークがすごすぎて」
確かに、俺のマネをしようと思ったらそれなりに修練を積む必要があるだろう。
だが、
「飲みなおそ?」
レインが俺のジョッキに
「お祝い」
「今日は祝うことがいっぱいあって大忙し! 全部ユークのおかげだね!」
「ああ、そう言ってくれると嬉しいよ」
満開の笑顔を浮かべるマリナにつられて、俺も笑う。
こんなに楽しい気分になるのは、本当に久しぶりだ。
ジョッキをマリナと打ち鳴らしながら、俺は別の事も考えていた。
(……むしろ、マリナのおかげだよな)
あの時、受付カウンターにマリナが現われたからこその
そう思うと、感謝の気持ちが大きくなってくる。
先ほどの配信解説でもあったが、赤魔道士というのはあまり好まれるジョブではない。
数自体が少なくて、周囲の理解も乏しいし、強化や弱体といったスキルも地味な印象が先行して敬遠されることも多々ある。
それを、マリナはちょっとした知り合いであるというだけで、このパーティに誘ってくれたのだ。
そして、この三人は二つ返事で俺を受け入れてくれた。
「みんな、ありがとう」
思わず漏れた言葉に、三人が目を丸くする。
「どうしたの? ユーク。お礼言うのはあたし達の方だよ?」
「ユーク、何かあった、の? だいじょぶ?」
「気になることがあるなら、言ってくださいね?」
おっと、心配されてしまった。
思わず苦笑してしまったが、これを話すのはまたの機会でいいか。
いずれ、彼女たちが壁に立ち止まったとき……きっと、この気持ちを伝えよう。
そして、一緒にそれを乗り越えるために俺はもっと強くなろう。
そう心の中で誓って、ジョッキを一気にあおった。
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