第8話 サイモンの誤算と勘違い(サンダーパイク視点)

(※『サンダーパイク』のリーダー『騎士』サイモン視点です)




 ……どうにも、状況が悪い。


 仮加入した新メンバーのせいだろうか?

 やはり、出発前にもう少し連携をつめるべきだったかもしれない。


「バリー! 西通路から魔物モンスターの増援だ! 頼む!」

「馬鹿言うな! こっちも手一杯だ!」


 まずい、このままでは魔物モンスターの攻勢に耐えきれない。

 押し切られる。


新人コルク! 足止めしろ!」

「出来るわけないだろ!」


 新メンバーは、Bランクの『レンジャー/シーフ』。

 役立たずで金食い虫な赤魔道士ユーク以上の働きができるはずだが、今のところ役に立ってはいない。

 いや……それにしても、だ。今日は魔物が強すぎる。


 この『オーリアス王城跡』迷宮は、これまでに何度も潜っている場所だ。

 僕たちの最高到達点は17階層。

 それなのに、何故か今日は第4階層などで足止めを食っている。


「なんか、おかしいぞ! 魔物モンスターが強すぎる!」


 戦士のバリーもかなり押されている。

 相手は鰐頭の狼──鰐頭狼ダイルウルフの群れで、これまで何度も戦ったことのある慣れた相手のはずだ。

 だが、以前と明らかに強さが違う。素早く、硬く、鋭い。


「どうなっている。魔物モンスターが以前より強くなっているのか?」

「何言ってんだ……あんたら? なんでそんな実力でここに潜ろうって思ったんだよ……?」


 新人のコルクが、妙な顔をしている。


「きゃあーっ!」


 鰐頭狼ダイルウルフの一体が、前衛を抜けてジェミーに噛みついていた。

 こんなに簡単に突破されるなんて!


「くッ! ジェミー!」


 助けに行きたいが、目の前には三体の鰐頭狼ダイルウルフがいる。

 背を向ければ、あっという間に飛び掛かられてしまうだろう。

 だが、早く何とかしなくては……ジェミーは噛みつかれたまま振り回され、すでにぐったりしている。


「カミラ、回復魔法を!」

「もう魔力がありません!」


 そんなバカな!

 まだ潜ってそんなに経っていないんだぞ?

 いつもなら5階層までは余裕をもって潜れていたのに!


 何故だ? 

 何が違う?


 あの役立たずが抜けて、積極的に動ける攻撃手が増えている分、戦闘は有利になるはずだ。


「こなくそォ!」


 戦斧をぶん回したバリーが牽制して、なんとか壁になってくれている。

 今のうちに後ろの鰐頭狼ダイルウルフを叩く!


「コルク、援護しろ!」

「やってるよ!」


 動かなくなったジェミーを離して、僧侶のカミラに襲い掛かろうとしていた鰐頭狼ダイルウルフに突進する。

 横薙ぎの一撃が、鰐頭狼ダイルウルフを捉えた。


った!)


 そう確信したが、渾身の一閃は鰐頭狼ダイルウルフを仕留めるには至らなかった。

 以前であれば、これで仕留められていたはずなのに!


 ……だが、鰐頭狼ダイルウルフを後衛位置から追い払うことはできた。

 今がチャンスだ。


「撤退しよう!」


 まだ息のあるジェミーを抱え上げて、階段に向かって走る。


「コルク、殿しんがりをたのむ! 矢で牽制して足止めするんだ!」

「無茶苦茶言うな! おれを殺す気か!」


 リーダー命令も聞かず、コルクは僕の隣を並走する。

 後ろではバリーとカミラが、鰐頭狼ダイルウルフに追われていた。

 何度か追いつかれながらも追い払いながら走る。


「ハァ、ハァ……何とか、逃げ切ったか」


 階段エリアにようやく辿り着き、一息つく。


「ジェミー、大丈夫かい? ……ジェミー?」


 抱えていたジェミーを床に下ろすと、彼女は浅い息をして青白い顔をしていた。


「カミラ、回復魔法はまだ使えないのか?」

「瞑想して魔力を回復しますわ。少し時間をください」

魔力回復薬マナポーションはどうした?」

「持っておりません」


 やはりおかしい。

 カミラの魔力がこんな階層で底をつくなんてことは今までなかったし、いつもなら魔力が減れば魔力回復薬マナポーションを飲んでいたはずだ。


「ガフッ……ヒュー……ヒュー……」


 血の塊を吐き出して、ジェミーの呼吸が浅くなっていく。

 今にも止まりそうなくらいだ。


「そうだ、治癒の魔法薬ヒーリングポーション! 誰か持ってるだろ?」

「持ってねぇよ。そういうのはあの雑用係の仕事だろ」

「なら、コルク! 持ってないか?」


 僕の問いに、渋々といった様子で狩人が小瓶を取り出す。


「ありがとう。さぁ、それを僕に渡してくれ」

「あのさ。これはオレの金で、オレが準備した薬だ。アンタらにくれてやる道理はねぇんだぞ?」

「何言ってるんだ!? 仲間が死にかけてるんだぞ!」


 コルクがため息まじりに差し出した小瓶を受け取る。


「仲間の命がかかっているのに、どうしてそんな態度になれるんだ?」

「加入時に消耗品は自己負担でって言ったのは、あんただろう? 当たり前みたいに言うなよ」

「くそ……! とにかく今はジェミーだ」


 傷口に治癒の魔法薬ヒーリングポーションを振りかけて、カミラの魔力回復を待つ。

 後は運頼みにしかならない。


 ──数時間後。


 何とかジェミーを助けて、フィニスに戻ってきた頃にはもうすっかり日が落ちていた。

 『サンダーパイク』結成以来、こんな事になったのは初めてのことだ。


 それもこれも、この新メンバーが自分勝手で不甲斐ないせいで起こったこと。

 リーダーとして一言、ビシリと言っておかなくてはならない。


「コルク、君の態度は仲間としてふさわしくないよ」

「ああ、お前らなんかこっちから願い下げだ。新進気鋭の『サンダーパイク』がどれほどのもんかと思ったら、自分の実力も把握できねぇ連中だとは思いもしなかったぜ」


 自分の実力不足を棚に上げて、恥ずかしくないのだろうか。

 これならまだ役立たずのユークの方が慎み深いくらいだ。


「今後もウチでやっていきたいなら、そんな発言はするべきじゃない」

「……」


 一息置いて、コルクが怒鳴った。


「やってられるか! オレは抜けさせてもらう!」

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