第7話 杞憂とパーティリーダー決定
「いやー、大量だったな」
馬車に揺られるフィニスへの帰り道、俺は達成感に顔をほころばせた。
なにせ、フロアボスから出現した
気が付けばそこに在る……といった不思議な現れ方をするそれには、金銀宝石からガラクタまで様々なものが詰まっており、ときおり貴重な
ダンジョンアタックの醍醐味といっても過言ではないロマンが詰まっているのだ。
今回の中身は貴重な
今度は四人で戦って突破すれば、遠慮も憂いなく地下六階に潜っていくことができるだろう。
「さて、先輩方。新人の働きはどうだった?」
「なんというか、ケタ違いでした……」
「すごすぎて、びっくりした」
「ごはん、おいしい」
レインだけ評価が怪しいが、おおむね良好という事でいいんだろうか。
「役に立ったならよかったんだが。俺みたいなのが、急にパーティに入ってくるとやりにくくないか?」
実は、少しばかり得意げに先輩風を吹かしすぎた……と、反省している。
駆け出しには駆け出しのやり方がある。試行錯誤しながら経験を積みたい時期に、俺のようなランク違いの人間がいると、きっとやりにくいに違いない。
今回であんまり……という反応なら、ここで抜けるのも彼女たちの為だろう。
「あたしは全然。すっごい楽しかった!」
「考えすぎですよ、ユークさん。その、逆に頼りっきりになってしまって申し訳ありません」
「ボクは、ユークと、一緒がいい。いろいろ知ってて、面白い」
「そ、そうか……?」
たじろぐ俺の服を、レインがつまむ。
「ユーク、いま、抜けようとしたでしょ? ダメだよ」
「え? そうなの? なんで?」
「何か、失礼がありましたか?」
次々と服をつままれて、ギクリとする。
そんな目で見ないでくれ。
「いや、君たちが嫌じゃなかったらいいんだけど」
女の子ばかりの駆け出しパーティに、いきなり元教官でランクも年齢も違う俺が入るというのは、彼女たちの矜持や冒険心を傷つけやしないかと思っただけなのだ。
そんな俺の心情を読み取ったのか、シルクがポンと手を叩いて恐ろしい提案をした。
「では、ユークさんにパーティリーダーをしてもらいましょう」
「へ?」
「これまで、わたくしが暫定でリーダーのようなものをしていましたけど、きちんとしたリーダーはいなかったんです。パーティ名すら決まってなかったくらいですから」
「いや、だからって……なんで俺?」
たじたじとする俺の手を取って、ダークエルフが美しく笑う。
「だって、やっぱりユークさんはわたくしたちの先生ですもの。マリナが突然先生をパーティにといった時は驚きましたけど、きっと精霊の導きに違いありません」
その精霊は無謀と慢心の精霊じゃないだろうか。
さすがに入って一日の俺にパーティリーダーをというのは、無茶な導きだと思うぞ!
「あたしも賛成! ユークなら大丈夫!」
「うん。経験豊富、だし」
「おいおいおい……」
「『クローバー』はユークが入って初めて、思いついた名前なんだもん。今日、結成したようなもんでしょ?」
マリナの言葉に、シルクとレインがうんうん、と頷く。
これは、逃げられそうにない。
「本当にそれでいいのか?」
「もちろん! ユークなら安心だよ!」
あんまり男を簡単に信用するもんじゃないぞ、マリナ。
ただ、この娘たちのこういう危なっかしさをフォローするには、リーダーって立場はありか。
この先、出会うであろう危険から多少なりとも遠ざけやれるかもしれない。
「……わかったよ。でも、リーダーとして不足だと思ったらいつでも言ってくれ」
渋々といった俺の返事に、三人娘は手を叩き合って喜んだ。
* * *
フィニスに戻って、二時間ほど。
ギルドに『パーティ名申請』を行い、依頼の達成を行った。
報酬は、それほどでもなかったが……持ち込んだ
「おつかれさまー!」
平服に着替えたマリナが
なかなかいい飲みっぷりだ。
「お疲れ様。無事依頼達成できて何よりだ」
「ユークさんのおかげですね」
「うん。あの連続魔法は、すごかった……!」
レインが、おずおずと俺の前に揚げエビを盛った皿を動かす。
「ん?」
「これ、おいしい。食べてみて」
……うっかり涙が溢れそうになった。
料理を横取りされることはあっても、分けてもらえることなど今までなかったのだ。
「ありがとう」
「おいしい、でしょ?」
「ああ」
小さく笑うレインに感謝しつつ、忘れないうちにと小袋をテーブルに出す。
依頼達成報酬と
「シルク、報酬の取り分はどうしてたんだ?」
「一括してわたくしが管理していました」
「へ?」
これは意外だった。
個人志向の高い冒険者にはあまりない方式だ。
「お小遣い制だよ! あ、でもこれからはユークもいるし、変えたほうがいいのかな?」
「そうですね。先生がリーダーになったのですし、お任せします。一括管理なさるならわたくしの口座から全額引き出して参りますが?」
「いや、ちょっと意外だったな……どうしようか。ちなみに、何か理由があってそうしてるのか?」
俺の質問に、シルクが頷く。
「いずれ、拠点を購入したいと考えておりまして。いつまでも宿暮らしをするのも気が休まりませんから」
「ああ、なるほどな……」
それで意識的に節約をしているということか。
「そういう事なら、今後も一括管理ということにしよう。パーティ金庫に預けたらどうだ?」
「そうですね。正式にパーティ登録もしましたし、そう致しましょう。でも、よいのですか?」
「俺が入ったからって何もかも変えることはないさ」
実際、今回のクエストではほとんどアイテムの消費はしなかった。
時間のある時に自作して、余剰分を売却したりすればこれまでのように赤字になったりすることもないだろう。
「それじゃあ、改めてよろしくな」
そうジョッキを掲げたところで、酒場の入り口から叫ぶような声が聞こえた。
何かトラブルだろうか。
「やってられるか! オレは抜けさせてもらう!」
どこかで聞いたようなセリフが、酒場に響いた。
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