第10話 キナ臭い依頼とママルの警告
二日間の休暇を終えて早朝。
冒険者ギルドに向かった俺は依頼ボードを眺めて唸っていた。
「うーむ」
「どうされたんですか?」
新たな依頼票を張り出しに来たママルさんが、唸る俺に苦笑する。
「三人の経験になって、なおかつ
「なかなか欲張りましたね」
「ああ、経験はともかく実力としてはBランクでも行けそうな気がするんだよ。俺の補助があればBランク依頼でも行けると思うが、俺の名前でBランクを達成しても嬉しくはないだろうしな……」
さらに唸る俺を、ママルさんがまた笑う。
「やだ、本当に先生みたい。シルクさんが先生って呼ぶの、わかる気がしますね」
「ママルさんまで! よしてくれよ」
そもそもその発端となった『冒険者予備研修』の教官役だって、ママルさんが押し付けた依頼だというのに。
「じゃあ、これどうかしら」
「Cランク依頼か。内容的には……ん? なんでこれがCランクなんだ?」
渡された依頼票に書かれた内容は『ヨームン滝の丸石の納品:4つ』と書かれている。
ヨームン滝はフィニスから一日くらいの距離にある、オルダン湖畔森林の奥にある滝で、その滝つぼにある丸石は魔力を込めると水晶の様に透きとおる性質がある。
金持ちが<
しかし、依頼のランクとしてはせいぜいDくらいだ。
都市から離れることを覚え始めた駆け出しが、野営の練習がてらちょっと足を延ばすくらいの軽い依頼のはず。
となれば、考えられるのは……。
「オルダン湖畔森林に異変が?」
「はい。どうも大型の魔獣が住み着いたようで、Dランク冒険者に依頼を出しても失敗することが多いみたいで……。今回の依頼は確実性を重要視したいのでCでお願いしますと言われました」
依頼のランクはA~Fランク。
Aに近づけば近づくほど依頼難度は高く、受けるために必要な
逆に、依頼者もそれ相応の報酬を提示しなくてはいけないし、ギルドに支払う依頼手数料も高くなる。
「期限も一週間と短いですが、どうしますか?」
「む」
キナ臭さはあるが、普段Dランク相当の仕事でCランクの報酬と
いい仕事だとは思うが、返事は三人が揃ってからの方がいいだろう。
「それ、剥がし持ちしていいかな?」
剥がし持ちはいい依頼をとりあえず剥がして手元に置くことを指す。
グレーな行為であまり褒められたものではないが、「いい依頼は早い者勝ち」という冒険者ギルドのシステム上、検討中という体で依頼を先に剥がしておいて、仲間と相談するというのはよくあることであり、ギルドも目をつぶっている。
「ギルド職員にそれ聞くのはアウトですよ」
苦笑しながら依頼票を渡してくれるママルさん。
軽く会釈して、見回すと丁度マリナ達三人が入り口に現れたところだった。
「あ! ユーク!」
子犬のように駆け寄ってくるマリナに苦笑しつつ、件の依頼票を見せる。
「いい依頼があるんだが、どうだ?」
「よし、引き受けよう!」
どうしよう、マリナってやつは少しばかり頭が弱いのかもしれない。
「ユークがいいって言うなら、いいよね?」
「そうですね。何と言っても今は先生がリーダーですし」
「異議、なし」
「では、受諾処理をしてきますね」
すぐそばに居たママルさんが、俺の手から依頼票を抜き去ってカウンターへ歩いていく。
「おいおい、いいのか?」
「いいよ。オルダン湖畔森林には一回行ったことあるしね! でも、なんでCランクなんだろう?」
まずはそこを話し合うべきなのだが……。
「魔獣が出るらしい。今からでもキャンセルするか?」
「いえ、
「ユークがいれば、安心」
その信頼の厚さはどこから来るんだ……。
受けようと言ったのは俺だが。
「じゃあ、装備を整えてきてくれ。一時間後にここに集まろう」
「装備だけでいいんですか?」
「冒険道具と食料は常にストックしてるから問題ない。一時間後なら昼前の乗合馬車に間に合う」
「わかった! できるだけ急ぐね!」
俺の言葉に頷いた三人が、ギルドの入り口に消える。
それを見送った俺に、ママルさんが受領証を差し出した。
「はい、受領証。頑張ってくださいね」
「もしかして、狙ってました?」
「ふふ、実は。〝クローバー〟の次の配信を待つ声もちらほら聞こえますよ」
結局、例の
いまや『タブレット』と呼ばれる配信視聴用の
……少しばかり悪目立ちが過ぎたかもしれない。
「まいったな」
「私も楽しみなんですよね、実は」
「ママルさんまでそんなことを」
小さくため息をついて、受領証を受け取る。
「まあ、あの子たちの為にも配信はしますよ。例の魔獣の正体とか、冒険者ギルドにも有用なんでしょ?」
配信が励行されているのは、なにも娯楽の為だけではない。
冒険者が
オルダン湖畔森林の謎の魔獣の情報、可能であればそれの討伐を動画内に収めれば依頼達成以上の
そうすれば、受けられる仕事の幅が広がって、マリナ達はさらに躍進できるはずだ。
「あと、一つだけ」
「?」
「噂になっているからかしら、素行の悪い人たちが時々ユークさんの話をしています。気を付けてくださいね」
「……わかった。ありがとうママルさん」
そう返事をして、背後の気配に、気をつけながら俺も冒険者ギルドを後にした。
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