第116話 芋くさ夫人の弟は今……
強力に照りつける灼熱の太陽に、草木も生えない乾ききった広大な砂漠。
ポールは今、そんな不毛の大地に立っている。
隣国ポルピスタンに留学して早一年、今日は学期末試験の日だった。
両親が逮捕された際、行き場をなくしたポールはデズニム国王妃ラトリーチェの提案により、彼女の祖国へ留学させてもらえることになった。
ピッタリした白いタイツに別れを告げて向かった異国の学校。同行するのは信頼する伝書鳩のポッポだけだ。
勉強して、賢くなって、いつか王妃殿下に借りを返すのだと、ポールは張り切って登校した……のだが、隣国の学校は鍛え上げられた体を持つ、脳筋共の集まりだった。
(トッレさんがいっぱい!)
ポールの第一印象は、それだった。
授業のうちの半分以上が武術訓練で、学期末試験は過酷な地でのサバイバル。
色白でほっそりしたポールの体は、次第に留学先の仲間たちと同じく、日焼けしてムキムキしたものに変わっていった。
ポールは根性だけはあるのだ。今では人差し指だけで倒立だってできてしまう。
最初は「モヤシ眼鏡」などとポールを馬鹿にしていた同級生たちも、徐々にポールを認めていった。
そして今、まさに、一年の締めくくりである試験が砂漠で行われていた。ポルピスタンは乾燥した気候で、場所によっては広大な砂漠が広がっている。
危険なので、今回ばかりはポッポを寮母に預けてきた。試験の内容が「クラスで協力して、巨大アリジゴクを倒せ」というものだったからだ。
(ポルピスタンの試験、無茶苦茶すぎる!)
ポールの魔法は「空中浮遊」なので、アリジゴクの罠には嵌まりようがないが、戦闘には向かない。
(こんなとき、お義兄様やトッレさんなら……いや、全く参考にならないな)
二人の魔法は個性的すぎる。
(今回は「火柱」や「油」、「針山」や「睡眠」の魔法を持つ仲間に任せて、僕は穴に落ちた生徒の救助に専念しよう。以前よりは、浮遊の高度を出せるようになったし)
ポールの作戦は功を奏し、試験中に助け出した多くの仲間から感謝された。
(仲間と一緒に大仕事をこなし、皆からお礼を言われる日が来るなんて)
エバンテール家にいた頃には、考えられないことだった。
(僕だって、やればできるんだ)
試験はもちろん合格で、この体験は、タイツのせいで人間不信に陥っていたポールに新たな自信をつけた。
事実、ポールは成長し続けている。
※
試験後、寮に戻ったポールはポッポと合格の喜びを分かち合い、いそいそと勉強机に向かった。
(ケリーさんにも、合格を報告しなくては!)
王妃よりも、姉よりも、まずは片思いの相手。ポールはいつだってぶれない。
(スートレナには強力な恋敵のコニーさんもいるんだ。離れた場所で暮らすぶん、僕は筆まめにならなくては! 一日一通、ケリーさん宛てに恋文を送り続けるんだ……! 今度の長期休暇では、必ず彼女に会いに行くっ!)
恋愛初心者のポールは斜め上の方向へ突き進んでいた。
しかし、ここには「おい、落ち着け」と、彼を止める者はいない。
そしてケリーはポールの熱すぎる想いに気づかないまま、手紙を領主夫妻への定期報告だと勘違いして受け取り続けていた。
毎度ケリーから手紙を渡されるナゼルバートとアニエスはもちろん、手紙にちりばめられたポールの恋心を理解しており、二人は毎回ひっそりと、なかなかに難易度の高いポールの恋を応援している。
ポール本人は、まさか自分の恋文が姉夫婦に筒抜けだとは気づかず、明日も明後日も恋文を書き続ける予定でいるのだった。
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