第11話 敏腕メイドの過去



「ありがとうございます!」


 嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。

 

「ケリーは、もともとミーア王女の衣装係だったから、洗練されたセンスの持ち主だと思うよ。それに、昨日は化粧でわからなかったけれど、君の本来の姿が素敵なんだろうね」


 褒め殺し! ナゼルバート様、天使かな?


「滅相もないです。それより、ケリーが王女様の衣装係だったというのは?」

「ああ、彼女は卓越したセンスを買われて、メイドにもかかわらず王女の衣装の手配を一部任されていたんだ」

 

 そんな優秀な人が、なんで、私なんぞを着飾っているの!? 恐れ多すぎるんですけど?

 慌てふためく私の疑問は、ナゼルバート様の次の言葉で解決する。

 

「王女殿下が駄々をこねたせいで、ケリーはクビになってしまって……」

 

 王族の衣装係ともなると、普通の貴族以上に形式に沿った模範的な服装を用意する必要がある。ケリーたちもそれを意識して、時と場所に応じた衣装を提案していたそうだ。

 しかし、ミーア王女がそれに難癖をつけた。

 

 聞けば、「式典の服をもっと派手にして!」とか「背中と胸元の大きく開いたセクシーな服が着たい!」とか、かなりの無茶振りをしたらしい。

 

「それはさすがに駄目でしょう」

「そうなんだが、怒った王女が衣装係に文句を言い、一番身分の低かったケリーが責任を取らされて職を辞した。それで、偶然現場を目撃してしまった俺が、彼女を雇うことに決めたんだ」

「なんと」

 

 ナゼルバート様は、やっぱり優しい人だ。そして、優秀なケリーが路頭に迷わずに済んで良かった。

 王女殿下は度々暴走しては、使用人をクビにしているようだ。私が考えている以上に我が儘な人らしい。


「ところで、近いうちに、王宮から昨日の件で沙汰があると思うのだけれど……内容によっては、君が不利益を被るかもしれない。俺のせいで、本当に申し訳ない。できる限り、君が困らないように手配するつもりだ」

「そんな、謝らないでくださいよ」

「しかし……!」

 

「じゃあ、もし不利益が出たら、この服と靴をもらえませんか? 私、自分の服って持っていなかったんですよね。いつも、祖母や曾祖母のお下がりだったから。それだけでいいです、あとは自分でなんとかやっていきますので」

「いや、そんなわけには……!」

「やっぱり、服を強請るのはがめついですか? すみません、調子に乗りました」

「そうじゃなくて……」

 

 なぜだろう、ナゼルバート様がため息をついている。

 やはり、服と靴が欲しいというのは、欲張りすぎただろうか。既製品とはいえ、公爵家で出されるような衣装だから、かなりお高いのかもしれない。

 

「とにかく、アニエス嬢が平穏な生活を送れるよう、向こうに掛け合ってみるから。エバンテール侯爵家にも、君を受け入れるようにと連絡してある」

「ありがとうございます」

 

 頑固なうちの一族が、一度言い出したことを撤回するとは思えないけれど。

 とりあえず、私は素直に頷いた。

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