第5話 のんびり生活1日目 討伐委託
「勇者様、起きてください」
俺は、目覚まし時計に好きなキャラのおはようボイスが入っている様な癒しの声で目を開ける。瞼を開けた時、目に映り込んだ景色は恐らく二次元に入りたいと望む者全てが求めた景色だろう。
俺がいた世界じゃあ、メイド服を着ためちゃくちゃ可愛い女の人に起こされるなど、いくら金があっても叶えられない。そう、これが三次元と二次元の違い。三次元のかわいいは論外である。
最近はシチュエーションボイスとかいう、プレイヤーが既に用意されたシチュエーションの元に景色を妄想しながら、非現実を体験するコンテンツがあるけれど。所詮はその程度にしかならない。
このまま二度寝したい気分だが、そうはいかない。俺は、いつまでも寝ぼけた顔になりながら起きない俺を次は少し心配そうに見つめるメイドを見て、思いっきり上半身を反らし勢いを付け、起き上がる。
「よ、フェアリス。目覚ましサンキュー。最高の目覚めだったぜ」
「勇者様が気持ちよく目覚められたのならなによりでございます」
現在は夜七時。ぴったりで起こしてくれた。流石メイドだぜ。さて、まだ俺は今日の分寝てはいけない理由がある。
それは、誰が魔王を倒しに行くかだ。勿論、護衛である事は決めているが、護衛も数人はいるからな。戦闘経験のない素人視点から品定めしなくては。
俺は欠伸しながら自室を出て、リビングに出ると既に俺を待っていたかの様に、アルクスとツイストが外から帰ってきており、テミッドはいつからそんな姿勢なのか、窓の縁に座りながら黙々と本を読み、ルアナとラフィネは欠伸をする俺に気が付くと、椅子に座りながら軽く手を振る。
「みんなおはよう」
まだ時間は夜だが、俺は皆んなに挨拶すると、まだ慣れていないのかじーっと俺の顔を見つめ、それぞれニコッとした表情で答える。
さて、特に重要な事では無いが、皆んなに一つだけ伝えたい事がある。それは、より勇者である俺と距離を詰める為に、呼び方を変更しようと思う。いつまでも『勇者様』って俺がむず痒いだけだから。
「あー、なんでみんな黙ってリビングに集まってるかぁ分からねえが丁度いい。皆んなは俺を勇者様って呼んでるだろ? それを今日から一気に距離を詰めて、先ずは呼び方を変えて欲しい。前提条件として、これから"様"付けは要らない。てか止めろ」
そういうと早速アルクスは親指を立てながら言う。
「オッケー! ユウヤ!」
攻めてきたねぇ〜。まぁ、これから友達と呼ぶ訳なんだし、なんも遠慮無く呼び捨てにしてくれるお前のそんな所好きだな。
テミッドは、アルクスより遠慮しながら言う。
「じ、じゃあ僕は、ネマキくんで良いかな?」
「おう、これからよろしくな」
ツイストは……。何となく分かってた。
「なら僕は、勇者と呼ぼう。様付けに慣れていないのは分かる。だが、貴族育ちである僕は様付けなんて日常だからね。様と付けて欲しくないのなら、普通に勇者と呼ぼうじゃないか」
「あ、あぁ。まぁ、最初はそれでも良いだろう」
貴族って友達居るのかな? 居たとしても友達同士はなんて呼ぶんだ?
次にラフィネ。お前は情緒不安定なのか? 昼は俺に夜這いしても良いって言ってたくせに今は、脱力女子に戻ってやがる。
「じゃあ私はユウヤくんって呼ぶわ。私より圧倒的に年下なんだから、これ以上に距離詰める方法が分からないわね」
む……年下と言われたのは事実ではあるが、裕也くんだと? いや、別に全く悪くないんだけど、年上のお姉さんに名前を呼ばれると恥ずかしさが出てくる。
あぁ、正直に言おう。俺はラフィネみたいな女性が性癖だと。
ルアナは、相変わらずかな。ツイストの事もツイ君って呼んでたくらいだ。
「じゃあ私は、ユウくんって呼ぶねぇ〜」
「うん、よろしくぅ〜」
最後にフェアリス。
「……? 私もですか?」
「うん」
「あ、……えーっと。ユウヤ様……違う。ネマキさ……うーん」
くぅ〜っ! まだ出会って一日も経ってないけど、大体真面目なフェアリスが、俺の呼び方に口ごもるとかギャップ萌えかなぁ……。
いつもほぼ無表情だけど視線がめっちゃキョロキョロ泳いでいる感じ、相当悩んでんな……。
「ユウヤさん……じゃあ他人っぽいですよね。なんて呼んだら良いでしょうか?」
なんて呼んだら良い? それ俺に聞く? 良くハーレムを望む奴は、『お兄ちゃん』とか求める奴いるけど、アレは流石に神経を疑う。そうだな……。
「じゃあフェアリスも裕也くんで良いんじゃない?」
「裕也……くん、さ……コホン……裕也くん。これでよろしいでしょうか?」
超真顔! いや、真剣すぎる真顔だ。表情が硬っているのが良く分かる。そうだ。一つアドバイスをしてやろう。
「良し、フェアリス。一つ良いことを教えてやろう。俺は様付けは止めろとは言っただけだ。くんはお前にとって馴染みの無い言葉だと思うが、逆にこう思うんだ。『様=くん』だってな。若干のイントネーションが違っても良い。そうすれば気が楽になるんじゃ無いか?」
フェアリスは俺にアドバイスされると、自分の表情が硬っている事に気づかれた事に少しだけ目を見開いて驚く。
「申し訳ありません。では、裕也くん。裕也くん。これで良いのでしょうか?」
裕也くんの語尾が若干の上がっている。まぁ、慣れるでしょ。
「良し、上出来だ」
「ありがとうございます。ふう……。では裕也くん。夜に何故起きたのでしょうか? 確かに夕食の時間ではありますが……その時は時間を指定されなくても私が起こしに行きますし」
「あぁ、それは俺の護衛に話がある。自己紹介でも言ったろ? 魔王討伐は他の誰かに任せるって」
「な、なるほど……」
そう言うと俺は、すぐに護衛の控え室に向かう。夜は訓練せず自由時間らしい。
俺は、控え室の扉を開けると、なんと中には一人しか居なかった。
「あれ?」
「ん? はっ! 勇者様! 何か御用でしょうか!」
どうして一人なんだ? 勇者を守るには一人で十分ってか? ならもう、コイツしかいねえじゃねぇか。なんてこったぁ。
「あの、どうかなさいましたか?」
「お前に決めた!!」
「はぁ!?」
「勇者より命ずる。これより、お前に魔王討伐を委託する事を此処に置く」
「ははぁ、命令承り……いやいやいやいや! 勇者様!? それは流石に駄目でしょう! 私も王国の兵士として勤めている者です。勇者に万が一の事が有れば、なんとしても救出します! 勇者である事を捨てないで下さい!
もし、勇者を止めるというのなら、今すぐこちらの邸宅は王に返却し、その代わりに快適に生活出来るよう資金と住居を手配します」
邸宅を返却? 勇者を止める? 勇者である事を捨てるなぁ?
「どごまでも他人任せだな! 俺はやりたくないと言っているだろ!」
「お前に言われたくねえぇよ!」
俺はとりあえず一旦落ち着き、見開いた目で護衛の肩をしっかり掴み、フェアリスの事を指差して護衛に訴える。
「いいか? 邸宅を返却するという事はだな。アレを見ろ! アレをお前は捨てたいと思うのか!?」
あんなかわいいメイドを手放しても良いのかと。しかしあのメイドは王直属の人間。だからこの兵士はいつでも会うことは出来るだろうが、もし立場が逆だったらどう考えるだろう?
「いや、確かに勇者様いう事は分かりますが、貴方が魔王を倒さないと、我々の国は何れ滅ぶのです!」
俺が魔王を倒す? はっ、笑わせてくれるぜ。俺の能力値を見せてやる。
「なら、お前はこれを見て同じことを言えるか?」
「…………。これは、失礼しました。勇者様」
謝るんじゃねえええぇ、悲しくなるだろおおおお!
──────────────────
それからお互い少し落ち着いてから話を再開した。
「素質Gランクですか……。これは魔王討伐に向いていない以上に、致命的です。知っているか分かりませんが素質とは、身体能力の全体的な成長率を示します。高ければ成長しやすく弱りにくい。しかし、低ければ幾らトレーニングしても上がりにくく、弱りやすい。
しかも素質ランクは生まれから関連している物で、下がる事はあっても、上がる事は絶対に無いのです。下がる主な理由は、怠けた生活。それが最もな理由です」
「それ、俺無理じゃん。スキルも意味無いんじゃん」
護衛は俺の口からスキルという言葉を聞くと、食い入るように聞き出してくる。
「そうだ! スキルですよ。歴代の勇者は何らかのスキルを持って転生されてくるのです。貴方のスキルは?」
「寝るだけで成長し続ける。な? 無理だろ?」
護衛はスキルを聞くと絶句する。それから、頭から捻り出されたアイデアは、最悪な物だった。
「確かに画期的なスキルではありますが、素質がGランクだと、話になりませんね。現実的ではありませんが、最早寝たっきりの状態でいれば或いは……」
「それは絶対に嫌だ! 寝たっきりなんて地獄の様な訓練より絶対キツイ。いやまぁ、フェアリスに介抱されるのは悪くないけど……そういう問題じゃない! とにかく、お前がやれっつってんだろおぉ!?」
俺の致命的な身体能力値、使えないスキルに漸く納得したのか、護衛はもう一度俺に頭を下げる。
「畏まりました。勇者様の代わりに魔王討伐命令、承りました。」
「これを達成出来れば、この世界に勇者は要らない事を、鍛えれば解決するという事も分かるからな。という訳で、お前の名前と能力カード見せろ」
「はい。これが」
Name:
Age:20
Total Rank:C
いやぁ、すげぇ普通。こいつ本当に兵士なのか? まるで西洋騎士みたいななりしてるけど、まさか王様、弱い護衛連れてきてないよな?
「ふーんルイスか……。で? お前は兵士なのか? 階級は? 入隊して何年目だ?」
「はい、私は普段国王の護衛として働いており、入隊と昇級合わせて四年と言った所ですかね」
四年で? 国王の親衛隊に? 基準は分からないが、なかなか凄い人なのでは? でもなんでこんな低いんだ? 普通の兵士の平均値に達しているのは耐久力のみ。逆にそれ以上の物が無い。
「なんでそんなに低いんだよ」
「いやぁ、それが国王の護衛にまで昇級したものの、緊急時や国王の外出時にしか出動しないもんですから。勝手にランク落ちちゃうんですよねぇ」
なんてこったぁ。昇級すれば強くなれるけど、逆に厳しい訓練ばかりだった物が自由になったのが逆手になったか。恐らく訓練していた頃の方が強かったんだろう。素質がEランクが訓練サボればこうなるわな。
「なら今日から。昇級前いや、それ以上になるまで猛訓練するぞ! 明日、俺は昼くらいに起きると思うから朝練やっといて」
「え、普通そこは朝も付き合ってくれないんですか!?」
「お前の普通を押し付けられても困る。あくまで俺の生活基準は変わらん」
「は、はぁ」
と、いう訳で護衛に魔王討伐を任せることに成功した。明日から本番だが、楽しみで仕方が無い!
チート級の力手に入れたけど世界救える自信が無いので友達作って平和に暮らします Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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