第3話 のんびり生活1日目 身体能力測定

 さてと、遂に異世界生活1日目だ。女神様はなんだかんだ言ってるけど、それはどうでも良いとして、一緒に暮らすメンバーの自己紹介は終わった。


 俺が次は何しようかと考えていると、アルクスが一つだけ気になる事があると俺に質問する。それは、転生時に殆どの、というかこの世界全人類は身体能力をランク表示するシステムがあるらしい。

 王城にある能力測定器が対象の大体の身体能力をランク付けし、カードとしてコピーしてくれるという。またこれが身分証明書にもなるという。


 身体能力のランク付けは、基本的にGランクからSランクまで有るらしく、限界突破した一握りの人間がSS、SSS、そしてEXまで上がる模様。


 アルクスは転生者が世界のシステムを知らない事は当然と思っているのか、何処からか引っ張ってきたホワイトボードにそれを書く。


「身体能力のランクの目安はこんな感じ」


Gランク:一般人の平均以下であり、相当な怠け者でないとこの領域まで下がらない。


Fランク:一般人より若干劣っており、普段から身体を鍛えない者に多い。


Eランク:一般人レベルの平均値。軽い運動、毎日の外出や家の中で家事等をしていればこの程度。


Dランク:一般人の平均以上。少しばかり筋力を付ける為に週三のペースで運動している健康体。


Cランク:トレーニングに合わせて、通常から戦闘等、激しい運動をしている。兵士の平均値。


Bランク:戦闘と訓練で身体を鍛え、兵士長ならばこれ程無いと笑われる。


Aランク:幾千の戦闘と修羅場を乗り越えてきた者が到達するランク。この王国では兵士の中に数人程度。


Sランク:最早生まれながらの才能。戦闘では敵無しの力を持ち、どれだけの死地を潜り抜けたのか不明と言えるほど。


SSランク:伝説級の強さ。歴代の勇者に最初からこんなランクを持っていた人もいたとか。


SSSランク:これだけで英雄と呼んでも良い。このランクに到達した者はこの世界にただ一人のみ。


EXランク:異次元並の強さ。SSSランク同様、全身体能力をEXに揃えた、過去に勇者が居る。最早化物である。


「こんな感じかな」


 なるほどなるほど、つまりAランク以上は人間やめてるって訳ね。EXに到達した勇者とかもう絶対チートだろ。不正を使ったに違いない。

 それで、この話を俺にしたアルクスは俺に測定して来いって言ってんの? ははっ、まさか俺が勇者だからって期待してるんじゃないだろうな?


「EXの異次元って何だよ……」


「いやぁ、俺も実際には見た事無いし、噂によると魔王を一撃で葬ったって聞くし、異次元としか言いようがないかなーっと」


 あ、そら異次元だわ。何ともこれ以上抗議する必要も無いくらい異次元だな。うん。


「で? それを俺にして来いって言ってんの?」


 俺の質問にアルクスは、ポケットから説明のあった身体能力測定結果を示すカードを見せつけ、その趣旨を話す。


「おう、俺たちも一応コレ、持ってるしあんまり期待してないけど、見ておきたいかなーって」


 期待してないのかよ。俺が逆に期待してるのかな? って期待しちゃったよ。


「って事は、そのカードのメイドのフェアリスやルアナお嬢様も持ってんの?」


 そう聞くと、当たり前かの様にフェアリスはスカートのポケットから、ルアナは鞄の中にあると言う。


「はい。勿論、所持しております。この国では生まれてから一回目の測定をし、二〇歳になってから二回目の測定を行います」


「今は鞄の中にあるけど持ってるよぉ〜。アレは身分証明書にもなるからねぇ〜」


「俺、十八なんだけど。もしかして測定出来ない?」


「いいえ。特に戦闘に毎日の様に出掛ける兵士であれば、自分で申請するか、月に1回必ず再測定を行います。また勇者様は、転生時に必ず測定する筈ですが……」


 あぁ、転生したら急に魔王倒せ言うから早急に話終わらせたんだっけ。あの後測定もあったとはなぁ……いやぁ、どうしよ。このまま王城戻ったら、測定しに来ただけってのに、王様に訓練をしに来たのかって勘違いされたらどうしよ……。


 俺が測定に行くべきか、行かないべきか悩んでいると横からツイストがまるで人を馬鹿にするかの様なニヤリとした表情で話しかけてくる。


「勇者君、何を悩んでいるんだい? 測定しに行くのに何か問題でもあるのかい?」


「いやぁ、王様に魔王討伐を断った上に、訓練も拒否って来たんだよね。測定って身体能力の測定じゃん? つまり、訓練もしていない勇者なんて弱いに決まってんじゃん」


「なるほど。つまり勇者君は、測定しに来ただけの自分が面倒事に巻き込まれないかという心配をしているんだね?」


「まぁ、そんなとこ」


 俺の思っている事を見抜くツイストはふむふむと頷くと、なんと絶対に怪しまれない方法があると言って、測定に同行してくれる事になった。


 一体どんな策なのやら、ここでツイストの性格の悪さが出るか、それとも気遣いの心が出るのか。メンバーのより深いところを知れる良い機会だ。


 そうして、俺とツイストは家を出て、王城へ向かう。


「所でどんな策なんだ?」


「ははっ、策なんてものじゃ無いよ。これは実際誰にでもある事でね。測定に行かなくちゃいけない時でも訳アリでどうしても行きたくない人にとっての最適な方法なんだ。それはとっても簡単。『ついでに測定』だ」


「ついで? 大体想像出来るけど、結局同じじゃ無い?」


「うん。同じだよ。でも少しだけ方法が違うだけとっても安全になる。大体の訳アリって、測定時にいる監視官が怖いだとか、王城に入る以前の問題で、兵士といざこざがあったりだとかで近付きたくすらしたくない人が居るんだ。そこでついで測定。因みに測定器ってどんなのか想像出来る?」


「ん? あぁ、全身をスキャンするとか?」


「まぁ、大体合ってるかな。そこまで巨大な装置とかでスキャンする様な物ではないけれど、測定器に数秒間手を置くだけで、勝手に測定してくれるんだ」


 めっちゃハイテクじゃん。身体測定とか必要とせず、手を置くだけで楽ちん測定か。


「それで? ついで測定とは?」


「一人ではなく、二人以上で。一人で測定のつもりで測定器の前に立ち、一人目の測定が終わった後についでに二人目が測定する。この時、特に申請とか必要無いんだよ。あくまで申請ってのは、使用許可と順番待ちの時に使われるからね。

 だから、一人が使用許可の申請が下りれば、次の二人、三人目は、申請を必要とせずに測定が出来る。だから、わざわざ嫌な場所に行く必要は無い。測定器の前で待ってれば良いって訳」


 俺はこの方法とツイストの説明に一つだけ引っかかる所があった。それだと、『測定器の前にいる監視官が怖い』の解決しなくね?


「え、結局測定器の前じゃん。監視官に睨まれるだろ」


「いや? 監視官はあくまで不正の監視をするだけだからね。使用許可が下りて、一人目が終わった自転車で監視官は退室する」


「測定器に細工とかは? される心配無いの?」


「それは無理だ。監視官がいないの測定器は見たところ何の警備も無いけど、セキュリティは万全。用途以外の使用の仕方をするとすぐにブザーが鳴るし、ハッキングなんて以ての外。凡ゆるネットワークからあの部屋だけ完全に遮断されるからね。下手な真似はできない。

 だから一人目が終わった時点では、誰もいない測定室で安心できるって訳」


 そいつはマジですげえな。てか異世界にもネット環境がある事にもっと驚くわ。普通魔法とかじゃ無いの?


「ほえー、いやー、なんかごめん。全くツイスト性格悪く見えねぇわ。こんなにも親切に教えてくれるなんてよ」


「ははっ、まだ会ったばかりだろ? もし嫌な所が有れば遠慮なく言ってくれ」


 俺はオーケーと言って、漸く王城に入り、俺は颯爽と測定室前に行く。そこは何とも静かで無音過ぎると言っても過言では無い程で、誰一人とも待っている間、出会う事は無かった。


 恐らく此処でどうせ面倒事にやっぱり巻き込まれるってのがイベントっつーもんだけど、ほんと平和。なんの問題もない。


 そうして待つ事十分。ツイストが一人、測定室前に来て、測定室の扉を開け、俺も後ろに続いて中に入る。すると、測定室の別の扉から監視官らしき二人が左右の扉から入ってくる。確かにアレは怖い。どちらもスキンヘッドで黒肌に黒服。そしておまけにグラサンつけてやがる。


 そして肝心な測定器とは言うと、無駄に広い白い壁に囲まれた立方体の部屋の中央にポツンと、床から伸びる1本の細い柱の機械で、あからさまに『此処に手を置け』と言っている様な正方形の液晶に手形の枠が表示されている。


「じゃあ、僕からやるよ。使用許可の申請は僕がやったからね。使用許可が下りたからって、申請した本人がやらずに他の人に順番を譲る事は出来ないんだ。まぁ、僕のランクも少しは変動していると思うし? やる意味は無くは無いからね」


 そうしてツイストが先に液晶に手を置くと、やっぱり無駄に広い部屋に小さな測定器からピピピーと小さな音が響く。それはたったの五秒にも及ばない速さだった。


 測定が終わった音がなると、細い柱の機械から測定結果の記された、しっかりICチップが埋め込まれた恐らくプラスチック製のカードが射出される。


「ほら、これが僕の身体能力。どう?」


 ツイストは俺にそのカードを見せつける。


Name:Twistツイスト

Age:22

Total Rank:C


Strength筋力:D

Durability耐久力:E

Reagent反応力:D

Magic魔力:C

Quality素質:C


 お、おぉ……。全部英語に見える……。それに総合がCランクって事は、貴族は者やっぱり勉強とかしっかりしてるっぽいねぇ。


「へぇ〜、こんなふうに作られるのかぁ。Cランクってそこそこって所か?」


「まぁ、そうだね。因みにこの総合ランクってところは、測定結果の最も高いランクが基準に表示されるから、たった1つの能力が飛び抜けて高くて、他は最悪でも総合は最も高いランクが表示されるんだ」


「なるほどね」


 さぁて俺の番だ。俺は転生前も寝てばっかりだったからなぁ。絶対高く無いと思う。

 するとツイストの測定が終わったからか、すぐに監視員は部屋の外は出て行った。いくらセキュリティが万全といえど、やはりどうなんだろうな。

 ただこれなら密かに王様に報告される心配もないだろうと、ツイストの言う通りにしてよかったと思う。


 俺は内心ウキウキしながら液晶に手を触れると、またピピピーと静かな音が響き、カードが機械から射出される。


 さぁて、さて?


Name:Yuuya Nemaki

Age:18

Total Rank:F


Strength筋力:G

Durability耐久力:F

Reagent反応力:F

Magic魔力:G

Quality素質:G


 わぉ、この測定器容赦無いなぁ……。GとFしか見えないんだけど? まぁ、予想はしていたけど、予想以上だなこりゃ。


「どれどれ? はははっ! これは面白い。これが勇者の能力かい? 確かにこれは訓練しても意味が無さそうだね。ここに素質ってあるだろ? この能力は、全体の成長速度を示すんだ。だから逆に素質が低い人は、一度大きく成長しても続けないと直ぐにランクダウンしてしまうんだ。

 僕が見た中では素質はAランクが最大だと思うけど、Gランクは話にならない。勇者君が国王の訓練を拒否したのは良い判断だった。もし続けていたら、訓練したのに測定結果が変わらないって僕以外に笑われる所だったよ! あっはっはっは!」


「うるせぇ! 人の能力を笑うんじゃねぇよ」


「ぷっくっくっく……ごめんごめん。でもこれで勇者君の身分証明書は完成だ」


 よっしゃあ! これでもっと異世界生活を充実させてやるぜ!

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