第1話 自由の始まり

 俺は女神を名乗る彼女の掛け声と共に異世界に来たらしい。まぁ、何処をいくらみても見覚えが無い場所だから異世界だと思うんだけどね。生憎俺超インドア派だから、外の世界をほとんど知らないって言うアレもあるんだけど。


 俺の飛ばされた場所は、如何にも煌びやかな黄金の装飾がされた宮殿みたいな場所だった。


 目の前には玉座に偉そうに座った恐らく王様であろうお爺さんがいた。


 俺がその存在に気がつく仕草をすると、お爺さんは、まるで決められていた様な台詞を吐く。


「おぉ、本当に召喚された……。あぁ、おほん。ようこそ我が王国、『アインス』へ。 我々はお主を待っていた。そしてお主は今より勇者となる。名を名乗れ」


 おお、おぅ……。情報量が多い。召喚と勇者に関しては事前に知ったけど、此処はアインスって国で俺は何故か名乗らなくちゃいけないようだ。


 俺はいきなり名乗るのも面倒なので暫く考え事をしていると、隣に立っていたアスタルが代わりに名乗ってくれた。


「……」


「はい、私の名はアスタル。勇者の召喚と共にサポート役として召喚された女神でございます。また、此方は寝巻裕也。という名前です」


 そう名乗るとお爺さんは女神セットの事により表情を明るくし、女神の前では偉そうに出来ないのか、突然態度を変えて名乗り出した。


「なんと、女神様もご一緒で。これはこれは失礼。儂の名は、此処アインス王国の王を務める。アインス・ゲオルク・バシレウスと申す。これからよろしく頼む」


 アインス・ゲオルク・バシレウス。すんごい長い名前、これはどうなのか分からないけど、王家や貴族辺りの人って名前長い人多いよね。てかこの人の名前、まるで三兄弟だな。アインスもゲオルクもバシレウスも居そうな名前だもん。いや、実際ミドルネームってそういう意味で付くから居るのは当たり前なのかな。


 さてと、目的は知ってるけど一応聞いておこうかな。


「えーっと、これから何をすれば良いの?」


 うん? 言葉遣いが不味かったかな? 一瞬国王の表情が固まったぞ?


「……おっほん! あぁ、そうじゃな。実は我が国はとある一つの危機に見舞われておってな。そう、魔王という凶悪な存在が我が国につい先日、数千の魔族で宣戦布告してきたんじゃ。

 数は少なかった為、なんとか抑えられたが、これが宣戦布告であると見れば次は数万で襲ってくるかも知れん。そこでどうか……! 儂らを助けてくれぬか? 勇者よ」


 つまり危機から救ってくれって訳ね。やだね。断固断る。俺は疲れるんだ。寝かせてくれよ。しかもそれって完全に他力本願じゃん。勇者? 俺はそれと言う程力持ってないし、つい先日の宣戦布告ってもう猶予無いじゃん。


 焦ってやるのも嫌なので俺は断ろうとすると、それを止めるかのようなアスタルが勝手な事をしてしまう。


「んー、うん。ことわ────」


「畏まりました。私、女神と勇者で貴方達の国を救って見せましょう」


 あらら。どうなっても知らないよ? 俺は絶対にやらないからね。いや、待てよ? 女神も実は凄い力持ってるのかな? だって女神だもんな。これはつまり、女神の仕事って事か。ありがとう。後でお詫びに信仰でもしてあげようかな。


 俺の代わりに承諾したアスタルは静かに此方に首を向け、引きつったにっこり笑顔を俺に見せる。


 あら可愛い。こんな笑顔が隣にいたらきっと幸せでぐっすり眠れるだろうな。


 だから俺も自然な笑顔で返す。


 そうするとアスタルは王様に聞こえない程の小声で俺に訴え掛ける。


「にこーっじゃ無いわよ! 何断ろうとしてるの!?」


「何? 君がやってくれるんじゃ無いの? それはすごーく助かるんだけど」


「あぁもう、良いから話を合わせなさい!」


「えぇ……」


 代わりに承諾したアスタルの言葉によって一気に周りに立っていた兵士や家来が騒めく。

 これで助かるだの、やっぱり勇者はやってくれると思っていただの、自分勝手な奴ばかり。余計にうんざりするね。


「おぉ……、其れは本当かな? ありがとう。ただとは言わせない。もし魔王を倒し、我が国を助けてくれれば、どんな願いも叶えよう」


 どんな願いもだって? それ、先払い出来ないかな?


「どんな願いもか。ならそれを先に叶えてれたら魔王倒しにいくよ」


「はぁ? さ、先に?」


「そうだなぁ……じゃあぐっすりいつでも寝られるような家が欲しい」


「お、おいまだ良いとは言っていないんだが……だが家か。それなら別に願い以前に叶えてやっても良いが……」


「え、マジ?」


「あぁ、最適な環境は我々がお主が望む限り整えよう」


 なるほどね。じゃあ寝るのに最低限必要な物を言っておこうか。


「じゃあ後、幾つか。先ず、家でしょ? それと護衛を数人、出来れば同い年の友達、女神が居るけどメイドも欲しいな。あと、やっぱり布団は最高級で」


「…………。それ、本当に必要なのか?」


「いや、当たり前でしょ。一人で厳しくなんてやってられないよ。もしこれを叶えられないんなら魔王を倒す話はナシだ」


「わ、分かった! 今すぐ手配しよう!」


 そう言う訳で、魔王倒すとかどうでも良いけど、俺はこの異世界でのんびり生活する事を決めた。あとで問題とか起きても女神様が何とかしてくれるだろう。

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