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部屋に戻るとミシェルは窓を開ける。潮風が吹き抜け蒼の髪を、純白のヴェールを、白いワンピースの裾を、揺らしていく。
「…………」
大きく息を吸い込み、言葉を持たない旋律を奏でた。キールドはベッドに背中を預けて瞼を閉ざし、聴き入っている。
「…………」
ふと気付けばキールドは眠っていた。
「……あどけない寝顔」
艶々の肌はまるでうまく殻がむけた時の茹で卵のようだ。
「おやすみなさい、キールド。良い夢を」
いつもそうしてくれるように、額(ヒタイ)に唇を落とす。
「…………」
窓の外は茜色に染まっている。ふと、コンコン。とノックが響いた。居留守をしようものなら激しく扉を叩かれるので、渋々扉を開くと――。
「ご機嫌よう」
赤いドレスを纏った女が立っていた。数時間前に見たのは矢張り鳴きまねだったのか。と思うほどに清々しい表情を浮かべている。
「貴女に用はないわ」
そう言って扉を閉めようとすると、割り込んできた片足に阻害された。
「わたくしは貴女に用があるわ。キールド様は?」
「昼寝の最中よ」
「好都合ね。一緒に来てちょうだい」
「無理な相談ね。キールドに怒られてしまうわ」
「其の前に返って来れば済む事よ」
「でも――」
「貴女に謝りたいの。仲直りのお茶会をしましょう」
「信用できないわ」
「……そうよね。無理もないわね……。妬みもあったのよ。わたくし、歌には自信がありましたの。でも貴女の歌声を聴いた瞬間に、音を立てて其の自信が崩れ去ってしまった……。此れでも、貴女の歌声が素晴らしいと認めているのよ?」
「そう。ありがとう」
「だから――」
「お茶会へはいけないわ」
「……じゃあ、気が向いたら来てちょうだい。其の時はキールド様と一緒にいらっしゃいな。貴賓室を借りているの」
「ええ、分かったわ。気が向いたら行かせてもらう」
「ではご機嫌よう」
優雅な一礼を残して赤いドレスの女が去って行く。
「…………」
日が暮れるのはあっという間で、すっかり外の世界が暗くなった頃。
「……まだ、眠っているのね」
キールドの寝顔を覗き込む。
「きっと疲労しているのだわ」
窓の外とキールドの寝顔を交互に見る。
「……ごめんなさい」
出歩くには大分早い時間だが、そっと部屋を出て行った。
「……!」
部屋を出て数歩進んだ瞬間、背後から伸びてきた腕がヴェールの上からミシェルの口を塞ぐ。あっという間に視界が霞み、膝から崩れ落ちた。
「とっとと運びなさい」
近くの物陰で様子を窺っていた赤いドレスの女が言うと、ミシェルから意識を奪った屈強な男は米俵のように担ぎ上げて歩き出す。コツコツコツ。と響くヒールの音に気付く者は誰も居らず、散った花弁の如く白いヴェールがはらりと落ちた。
「つくづく、醜いわね」
赤いドレスの女は雑にベッドの上に投げ捨てられたミシェルを見下し嗤う。
「こんな醜女のどこが魅力なのかしら」
「女って事しか取り柄がねぇですね」
深海魚のような顔立ちをした男が嗤う。
「貴方に言われたらお終いね」
近くの棚に置いてあった短剣でミシェルのワンピースを切り裂き、干物のように乾上がり貧相な素体を晒すと更に嗤いが深くなる。
「何よ、この子。まるでミイラみたいね。気持ち悪い。胸なんか乳首しかないじゃない。肌はカサカサだし、兎に角気持ち悪いわ。よくこんな細さで生きているわね。……あんなに美しいキールド様が醜女を好きな筈がないわ。美しいキールド様にこんな醜女は釣り合わない。キールド様に相応しいのはわたくしだけ。……ああっ! なんて忌々しい!」
細い首筋スレスレに短剣を突き刺した。
「キールド様がこんな醜女と小作りをしたですって? 冗談じゃない。こんな醜女が受け入れられて、世の男達が欲する美貌と肉体美のわたくしが受け入れられないのはおかしいわ。わたくしの邪魔をする罰よ。やっておしまい!」
ベッドから数歩離れると屈強な男がギシギシベッドのスプリングを軋ませながら這い上がり、某のような両足を割って入り、四つん這う体制で股間の割れ目をピチャピチャと音を立てて舐め始めた。指先でパックリ割れ目を開くと瑞々しいプラムのような色をした柔らかな肉が顔を覗かせ、舐めれば舐めるほどに桃色に色付いていく。
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