第十二章

 VIPルームで出されるものは全て無料だからということもある。いくら飲んでも食べても、基本的にお金を支払う必要が無い。ただランクに応じて、部屋に用意されている酒の種類や食べ物は違う。

 最高級クラスなら、ドンペリだろうがキャビアだろうが、あらゆる高級な物をタダで注文できるらしい。その為ランクから外れたレベルの飲食を求められた場合は、お金を支払って貰わなければならないケースが稀にあった。

 例えば亜美達が働く最も低いランクの部屋で、超高級ワインなどの注文を求められればお断りするか、上乗せのサービス料が必要となることを説明しなければならない。

 よって部屋で提供できるレベルがどのような物かは当然として、何がそれを超えるのかという知識も必要だった。聞いたことの無い銘柄の酒を持ってこい、と要求された時などは安易に分かりましたと答えてしまえば、トラブルの元となる。後からそのお酒にはお金がかかりますと説明すれば、

「その女は、分かりましたと言ったじゃないか。それは注文を受けたと言うことだろう。俺がここでいくら使ってきていると思っているんだ。さっさと持ってこい!」

と、怒り出す客もいるからだ。

 本人はVIPルームに招かれている上客だと思い勘違いし、さらにその上のランクがあるなどと思わない身の程知らずの客は一定数いる。自分だけが特別扱いを受けていると錯覚し、威張り散らす質の悪い態度を取る人が、一番低いVIPルームには多いそうだ。

 けれど上に行けば行くほど、そういう客は少ないらしい。しかし全くいない訳でもない所が厄介だという。とはいっても、VIPであることには間違いない。なるべくこのカジノ施設を気に入ってもらい、何度も訪れより多くのお金を落として貰う必要がある。そう言った意味で、カジノにいるディーラーや従業員と同じく接客係は、決しておろそかにできない大事な仕事だった。

 しかし元はパチンコ店を営んでいた家に生まれた亜美としては、素直に受け入れることが難しかった。客層は違っても、ギャンブルに嵌っている人であることには違いない。

 もちろんカジノはパチンコなどと比べて、胴元の儲けとなる控除率が極端に低いことは、研修で学んだ。そう考えると客にとってはよりフェアだと言えるが、それでも賭け事であることは同じである。続ければ続ける程、負ける可能性が高まることも変わらない。

 さらにギャンブル依存症にかかった客がその後どうなるかは、多少なりとも知っている。幼い頃に良く店で見かけ、亜美を見かければ優しく声をかけてくれたおじさんが、やがて悲惨な末路を辿ったケースも身を持って経験していた。

 その人は家族に黙ってお金を持ち出しては店に通っていた為、各パチンコ店で入店拒否するよう親族から申し出を受けていた方だ。それでも無理に入ろうとするので、店の従業員が制止しようとするが言うことを聞かず、大きな声を出して騒いだのである。

 そこで穏便に済ませるため、父は止む無く入店を許可して持ち金が無くなれば帰るだろうと、パチンコ台に座らせたこともあった。

 しかしやがてそれが彼の家族の耳に入り、厳重な抗議を受けてトラブルになったのだ。さらには面倒な事に、全く懲りずどこからか調達して来たお金を持って店へやってきては従業員と揉め、挙句の果てに喚き散らして店の入り口のガラスを割るなど大暴れし、警察へと連れて行かれた。

 その後は全く見かけなくなったが、噂ではギャンブル依存症だと診断され、そうした方が入る施設へと矯正入居させられたと聞いた。しかもその後、夜間に施設からお金を盗み出して抜け出し逃走する途中、車道に飛び出して轢かれて亡くなったのである。 

 一度依存症にかかった人がそこから抜け出すことは、相当な困難を伴う。長年地元に根付いた経営をしていた亜美の家の近所でも、そうした客が何人か住んでいたからこそ、幼い頃から苛めの対象となった一面もあるのだ。

 こちらからすれば商売としてやっているだけだが、客の親族からすれば人の家から金だけでなく、穏やかで平和な暮らしを奪い去る敵に見えるのだろう。

 亜美は新たな転職先での仕事内容を、知れば知るほど苦しんだ。ギャンブルの世界から遠ざかろうと家を出て、その結果父が被害に合い奇しくも憎んでいた稼業は潰れた。

 兄は今でもそうした業界に関わっているが、あくまで生活の為であって、好んで働いている訳ではないはずだ。そこで亜美は兄のようにならない為にも手に職を付けようと、高校に再入学してまで介護福祉士の資格を取ったのである。

 それなのに翔の後を追って新たな世界へ飛び込んだ場所が、皮肉にも敬遠していたはずの業界だった。しかも施設の仕組みを知るにつれ、肝心の彼と会うことは叶わないことも分かってきたのだ。

 なぜなら第一にVIPルームにいるスタッフは、基本的に決められた部屋以外の場所への移動や入室が禁じられていた。一言でVIPルームと言っても場所は一か所だけではない。

 亜美達は配属された場所には部屋が四つに分かれ、それぞれの部屋と行き来出来るドアがあった。しかし部屋は独立しており、別の部屋へ移動するには専用の会員カードが必要だった。

 VIPルームに入るための専用カードとは別に、それぞれの部屋へ入ることのできる資格を設けており、同じVIPの中でも入室が許可されている人とそうでない人が分かれているのだ。

 VIP毎に異なるカードは、使えば使う程マイレージやIR施設で食事や買い物など使用できるポイントが付く。そうした特典もグレードによって差があり、曜日によって二倍や四倍など貯まったり、ある程度使うとボーナスポイントが付いたりするケースもあるという。

 そのカードにより客の行動が全てITで情報化されていて、それがリピーターを生むために使用されているそうだ。ただITシステムに依存している為、システムなどが故障すると何もできなくなり、トラブルになることもあるという。

 話を戻すと基本的には世界中のカジノにおけるVIPルームの多くも、バカラだけを扱っている部屋、ルーレットやスロットマシーンだけの部屋などと分かれているらしい。

 他にはクロッブスや中国発祥と言われるシックボーといったゲームを扱っているところもあるという。このカジノ施設でも、そうした部屋が設置されていた。もちろん各ランクに合わせて別々のルートを通り、他のVIP客とは顔を会わせることなく入場できるようになっている。

 つまり一言でVIPといっても一括りにはせず、ランク毎の通路と部屋が存在していることを意味していた。だからどれだけ複雑な構造となっているか、新人の亜美などには全く判らない。

 ただ寮から従業員専用の通路を通り、控室に入るルートのみ知らされただけだ。そこもまた情報管理やセキュリティー対策の一環として、他のVIPルームに配属されているスタッフ達とは、顔を会わせることがないように作られている。

 そんな入り組んだ施設が、他のアトラクション施設や巨大な展示場などのIR施設を加えた、全体の三%以内というごく小さなエリアで存在していることが不思議に思えた。限られたカジノ施設の中でさえ把握できないのだから、他の施設など分かるはずもない。その為事前に説明を受けてはいたけれど、カジノで働く男性職員がいる寮がどこにあるのかも不明のままだ。 

 よって全く別のVIPルームで、しかも別のVIPルームで働いているらしい翔と顔を会わす機会など、まず無いと考えて良かった。つまり同じカジノ部門で同じ施設内にいることは間違いないらしいが、これまでと同様に話す事など叶わないのだと絶望した。

 しかもIR施設内で働く社員用食堂はあるものの、カジノ部門の職員だけは原則利用が禁止されている。その為勤務時間中の食事は、施設内の食堂から事前に出前注文しておいたものを、決められた食事時間に決められた控え室で食べることを義務付けられていたのだ。

 さらには同僚ともなるべく食事時間をずらし、できるだけ情報交換をする機会を少なくさせる程の徹底ぶりだった。亜美にとっては一人で静かに食事を取る方が気楽ではあったものの、翔と会う機会を削がれただけでなく、ここまで管理されている職場環境が息苦しく感じた。

 しかし最も戸惑ったのは、休憩室に来るVIP客の接待を実際に始め、土曜の夕方からの夜勤に初めて入った時のことである。それまでは平日がメインだった為、お酒を飲む客は比較的少なく、黙々とゲームに夢中だったり、時々亜美達に声をかけて会話を楽しんだりする程度の人がほとんどだった。

 だが夜ともなると、昼間に見かけた時は紳士だと思っていた客でさえ目が血走り、亜美達をそれこそキャバクラで接待する女性にように扱う人が一気に増えた。

 その上勤務が夜中の三時までだと知っている常連客の中には、自分が宿泊しているホテルへと誘う人も出て来たのである。話には聞いていたけれど、現実にそうした情景が目の前で行われていると、さすがに体が強張った。過去の嫌な思い出がフラッシュバックするからだ。

 幸いと言っていいのか同じ時間で働く女性達の多くがグラマラスで妖艶な雰囲気を持っていたため、女性らしくない体つきの亜美が誘いを受ける機会は少なかった。

 それでもゼロではない。中には亜美が好みだという外国人客も僅かだがいた。おかげで言葉が通じないことを良い事に、やんわりと断る術も少しずつ覚えていくことが出来たのである。

 だがやはりVIPの中でも一番下のレベルだけあってか、外国人よりも日本人客の方が割合的に多いこともあった。そこでは下品な話題に巻き込まれたり、足や腕を触れたりもした。

 外国人だと、時折着物を着て欲しいという要望がある。丁半博打の部屋で遊んでいた客の多くが、日本の和服姿に刺激を受ける為らしい。

 丁半博打とは、昔の時代劇やヤクザ映画などで見られる程度で、現代日本ではながらく禁止されていたギャンブルだ。基本的にはサイコロを二つ、ツボの中に入れて出た数字の合計が丁、つまり偶数か半、つまり奇数かに賭けるという単純なものである。

 これはすでに数多く先行している海外カジノ、特に韓国やマカオ、シンガポールとの差別化を狙い、日本の独自色を出す為の目玉として導入されたらしい。

 VIPルームで主にバカラやクロッブス、シックボーがあるのは、控除率が低いけれども勝負が早くつくからだ。控除率が低いと客が大勝ちする可能性が高くなる。だが短時間で何度も出来るため、結局長くやる羽目になるところがミソだった。 

 ギャンブルは何度も、そして長く続ければ続ける程負ける確率が高まる。よってカジノ側はそうしたゲームをVIPルームで行うことにより大きな収入を得ていた。丁半博打はその条件にも最適だったらしい。

 加えて丁半に賭ける人数が整わないといけないルール等を独自に改定し、ゾロ目など特殊な役を使って倍率が上がるようにもしていた。それだけではない。他のカジノでは無い日本独自の伝統的なゲームであることを最大限に工夫し、脚光を浴びる仕掛けを施したのだ。

 例えばディーラーとなる壺振り師を、着物を着た黒髪の日本女性にやらせていた。さらには映画さながらの有名なシーンを再現させ、タトゥーの入った片腕をはだける見せ場を作ったのだ。

 もちろん刺青は偽物のシールだったが、時代劇というソフトを利用し、日本におけるカジノクールジャパンの代表的なギャンブルに仕立て上げたのである。それが大いに受けたらしい。

 後進国である日本のカジノなど、今更作っても世界のVIPからは見向きもされないと目されていたが、その予想を大きく覆したという。しかも丁半博打は、興味半分で押し寄せる客がメインの会場で行わず、VIPルームのみに設置したことも成功の要因だったらしい。

 それなりにお金を賭ける限られた人達でなければ味わえないと分かると、世界のカジノ好きがこぞって日本へと訪れるようになったそうだ。

 IR施設のたった三%の敷地面積しかないカジノの収益が、全体の六~八割を占めるといわれるが、そのカジノにおける売り上げの七~八割をもたらすのが、VIPルームに出入りするハイローラーと呼ばれる富裕層達だという。

 IR施設の中に国際会議場や文化事業に関する箱物など、下手をすれば赤字を出してもおかしくない施設が、そこかしこに建てられ維持できるのは、カジノがあるからと言っても過言では無いらしい。すなわちIR施設が成功するには、世界中に存在するハイローラー達をいかに呼ぶこむことが出来るかにかかっていたのである。

 ハイローラーとは米国のスラングで、「賭け事で大金を賭ける人、向う見ずな勝負をする人、金遣いの荒い人、浪費家」などの意味を持つそうだ。現在国際的なハイローラーで多いのは、中国人らしい。

 そして「ジャンケット」と呼ばれる仲介人が、そうした人種を世界中からかき集め、カジノへと送り込むのだという。

 「ジャンケット」とは“”もてなす“と言う意味を持ち、文字通りハイローラー達のマネージャーであり、コンシェルジュやエージェントのような機能を果たすそうだ。カジノ施設を紹介し、宿泊施設やレストランを手配するのはもちろん、プライベートジェットを使っての国の移動や、空港からの高級リムジンでの送迎、観光ガイドなど滞在中の様々な身の回りの世話をするという。

 だがそれだけのことをするには、当然大金が動く。そして中には非合法な行為をする者もいるらしい。その為日本のIR法では、これらの「ジャンケット」に対する規制が厳しく設けられていた。

 なぜならジャンケットは、カジノ運営会社に高額の保証金を積みながら、ハイローラー達に金を融資する役目を果たしていたからだ。そして客がカジノで負ければ負けるほど、カジノ側から数%のマージンが手に入るようになっていたため、あらゆる手段を使って金を落とさせるよう仕組んでいたのである。

 しかしそうした行為は、国際的なマネーロンダリングの温床ともなり問題となっていた。その為世界のカジノにおいて新規参入組である日本は、ジャンケットの排除を謳った法案作成を余儀なくされたという。よって国外からハイローラーを招くことが困難になった。

 それでもカジノ側は彼らのような上客を掴まなければ、IR施設の運営自体が失敗に終わる。その為あらゆる手をつくし、日本独自の文化や食などを使って彼らの好奇心を煽る必要があった。

 その一つが丁半博打だ。そうした努力が実ったのか、元々日本という国の持つ潜在的な魅力が彼らを刺激し、ある程度のハイローラー達を独自に掴むことができたらしい。

 もちろん日本のカジノは、観光で来る外国人客をメインターゲットとしていた為、一番広い施設にも様々な工夫を凝らしている。

 例えばアニメなど日本独自の人気キャラクターを使ったスロットゲームの設置や、各所に配置されたディーラーに有名キャラのコスプレをさせたり舞妓や着物姿を着せたりするなど、外国人客を呼び寄せるアイデアを盛り込んでいた。

 そうした日本文化に興味を持った客への要望に応えられるよう、亜美達の控室にも十数種類の着物やコスプレ衣装が揃えられている。ただ着物の着付けも研修で習い、一人で着替えられるようになったものの、外国人客からはせいぜい片腕を出してくれと言われて済む場合が大半だった。

「ファンタスティック! ベリービューティフル!」

などと叫び、白い柔肌を見て喜ぶ外国人客は多かった。だが日本人客はその程度だと喜ばない。調子に乗り、

「もっとはだけろ。どうせなら、もう片方の腕も出してくれ」

という単なるスケベなおっさんが出てくるのだ。

 着物で両腕をまくり上げれば、胸まではだけてしまう。そうなれば単なる風俗のサービスだ。そうした場合は丁重に断り、時には男性の従業員から注意してもらった。

 カジノ側としても客に喜んでもらいたい反面、接客が儲けの手段ではない。多少のチップは出るだろうが、せいぜい数十万円だ。それよりも早くゲームへ戻り、何百万とお金を使って貰う方が有難い。だからサービスが気に入られ過ぎて、ゆっくり休まれても困る。その為男性スタッフも、過剰にならないよう止めに入るのだ。

 それでも大勝ちして気分が大きくなった客が、札束ならぬゲーム用のチップをばらまく人もいた。VIPルームで使っているチップと呼ばれるコインは、最低でも一枚十万円からする。それを気に入った女性の胸元にいれたり、スリットから出ている足の間に挟んだりするのだ。そうして気を引き、お持ち帰りを企む輩が必ずいた。

 その手の誘いは夜の時間帯に訪れる客がほとんどだった。それでも上には桁外れのVIPがいて、ここにいる客はその最低クラスだと教えられている為、その程度の誘いに乗るものはほとんどいない。

 後に亜美達が知った事は、カジノの客の九十九%以上が観光ついでに小遣い程度のお金を落とす、国内外の一般人客という現実だ。次には年間一千万~五千万円程度を使う小VIPが0.1%程度いて、その上のVIPクラスになると年間十億~二十億使う人々が0・01%程度存在するらしい。

 だがさらにその上には、年間百億から二百億円もの巨額を投じる大富豪達がいるという。全体では二百人程度らしいが、日本人もその中に二~三名含まれているようだ。そうした僅かなVIP客が落とすお金により、カジノだけでなくIR施設は支えられていた。

 夜勤が当たった日は、亜美も憂鬱になったものだ。もちろん何度も辞めようかと思った。それでも給与が良い事と、この程度の嫌なことは施設でも経験してきたため、何とか我慢が出来たのだ。

 それにこんな仕事をしていていいのかと悩む反面、なかなか会えずにいる翔と離れるのは嫌だった。難しいとは分かっていても、いずれどこかで顔を会わす可能性がある。

 ここを辞めてしまえば、それこそ翔と会うことなどまず無理だろう。それならせっかくここまできて、少しでも希望が残る場所にまで辿り着いたのだから、僅かな希望でもすがりつきたかった。

 少なくとも今の仕事場で評価され、別のVIPルームへ移るようにと声がかかれば、もしかすると会えるかもしれない。逃げ出したい思いがある一方で、そんなささやかな期待が捨てられずにいたのだ。

 そんな亜美に対し、働きだして三カ月が経った頃に声がかかった。派手さはないものの、これまで高齢者やその親族を相手にそつなくこなしてきた経験による接客術や、笑顔を絶やさず真面目にコツコツと相手をして来た姿勢が評価されたらしい。

 元CAが色気で稼いだチップの額には及ばなかったものの、亜美が頂いたチップは、それまでいた先輩達を追い抜いて二番目の多さだったからだろう。

 おかげで歩合を含めた給与が、当初と比較すると三倍に跳ね上がっており、明細額を見て驚いていた次の日だった。ミーティングが始まる三十分前に、控室の奥にあるマネージャー室へ来るよう言われたのだ。

 指示された時間通りいくと控室には誰もおらず、部屋のドアをノックすると中に招き入れられた。そこで椅子に座っていたマネージャーが言った。

「今日から君は別のVIPルームへ行ってくれ。そこへは彼女が案内する」

彼が指さした先には見知らぬ女性スタッフがおり、席を立って挨拶した。

「私は第二VIPルームの休憩室担当リーダーをしています。そこは今までより一段グレードアップした、年間で最低億単位のお金を使われるお客様が休まれる場所です。私について来てください。詳細は向こうで話します」

 亜美はそのまま何の質問も受け付ける隙すら与えられず、今まで開けたことに無いドアを通り、歩いたことの無い見知らぬ通路を抜けてある部屋に辿り着いた。

 そこはこれまでいた場所と明らかに異なる控室があった。中には数人の女性スタッフもいて、皆が着ている制服らしきものさえ、これまでとは全く質が異なる上品なスーツだった。亜美は今日から新たな職場で働くことに戸惑いながらも、これまでの仕事が評価されたと徐々に喜びが湧いてきた。

 しかし世の中、それほど甘いものではないことをその後痛感させられたのだった。

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