第十一章

 面接した次の日に、亜美は施設の事務局長を訪ね退職願いを出した。カジノ側からは、今いる職場の状況もある為、都合がつく時期で良いと言われていた。しかし亜美は迷惑をかけると分かっていたが、例の一件以来の施設側の態度や同僚達の目もあった為、直ぐにでも辞めたいと告げた。さすがに明日からとはいかないと思ったが、事務局長は以外な態度に出た。

「そうか。いや、ここ最近の君の勤務態度を見ていれば、いずれ辞めるだろうと思っていたよ。次の再就職先は決まっているのか?」

「はい。こちらの退職手続きが済み次第、働けることになっていますし、勤務地の関係で引っ越しもするつもりです」

「だったらしょうがない。二、三日の間に、いま君が担当している利用者の引継ぎを終えないとね。それと残りの有給休暇を全て消化できる日で退職としよう。先方で働く前にも、色々と準備もあるだろう。すぐに介護リーダーと相談して、今日中に引き継ぐ担当者を決められるよう準備しておくよ」

 余りにもすんなりと受け入れられたため、気が抜けた程だ。強く引き留められることはないだろうとは想像していた。それでも多少は嫌な顔をされたり、渋られて引き延ばされたりすることも覚悟していたのである。それなのに有給休暇を消化しろとまで気を回されるとは、思いもよらなかった。しかも代わりの担当者を早急にあてがおうとするなど、早く出て行ってくれと言わんばかりではないか。

 確かにここ最近は、職員の退職以上に利用者の減少が進んでいる。その為皮肉な事に人手不足で忙しい状況ではなくなっていた。だから亜美に代わる担当者を決めることは、以前ほど難しく無いだろう。この施設も遅かれ早かれ潰れるか、大きな介護施設に吸収されるかもと噂されていたが、事務局長の態度を見る限り本当らしい。  

 廃業でも吸収合併にしても、在席している職員の整理が行われる可能性は高かった。それならば亜美の退職は、施設側として願ってもないタイミングだったのだろう。下手に首を切ろうとすれば厄介な事になると危惧していたはずだ。その手間が省けるのなら、有給休暇ぐらい消化させすんなりと辞めて貰った方が、後々揉めることが無いと踏んだのかもしれない。

 だが沈没しかけている施設から早く離れられるのなら、こちらも望むところだ。いちゃもんを付けるような煩わしい事などしたくなかった。それに向こうがそういう態度なら、こちらも後ろめたい想いをせずに気分よく転職できる。

 その後退職までの段取りが正式に決まった時点で、亜美はカジノ側に連絡を入れた。そして引っ越しの手続きや勤務開始日はいつにするかなどを打ち合わせたのである。

 七年以上勤務した仕事場と、慣れ親しんだ住まいから離れるのだ。よってもう少し感慨に耽るかと思ったけれど、そんな事はなかった。新しい職場に移るまでの手続きで忙しかったこともある。しかしそれ以上に、煩わしい職場関係から逃れられる嬉しさの方が勝った。 

 加えて翔の働く職場に近づけることが、とても待ち遠しく感じられたのだ。同じ職場ではないけれど、部署が同じなら顔を会わせる機会くらいあるだろう。そう考えるだけで期待が膨らんだ。

 しかも一度下見をしたが、今度住む寮の部屋は今住んでいるような古いアパートとは比べようもないほど、立派で新しく綺麗な所だった。それで給与が最低でも一.五倍になり、仕事ぶりが評価されれば倍以上稼ぐことも出来るという。

 テレビはバラエティーぐらいしか見ない為、それ程有名人には興味がない。ましてや海外のセレブなど顔や名前すら知らない為、そうした客と接するかもしれないとの好奇心は全くなかった。

 それより介護以外の仕事といえば、福祉系高校に通っている時に深夜のコンビニでアルバイトをした程度しか無い。だから接客という仕事が自分に出来るのだろうか、という不安の方が大きかった。 

 勤務日から二週間程度の研修があり、実際にお客と接するまで勉強する時間があるとは聞いている。それでも自分に勤まるかどうか危惧していたのだ。

 しかし実際に研修が始まり、今後行う仕事内容の説明をされた時点で、亜美はそんな生半可な気持ちなど吹っ飛ぶ程の大きな衝撃を受けることになった。

 無事入寮を済ませた後、研修前にまず制服だと用意されたものが、普通では無かった。事前に健康診断を受け、その際体のサイズを詳細に図られた時は不思議に思ったが、このためだったと気付く。

 身に着けてみると体系が一目でわかるほどフィットし、スカート丈も短くスリットまで入っている。色やデザインも、亜美が今まで身に着けた事の無い程派手だ。テレビでは見たことのある、キャバクラで働く女性達が着るような服装だった。

 同じ寮に入っている同僚らしき女性達の容姿にも、違和感を覚えた。百人以上の入居者がいると聞いていたので、全員がカジノ施設で働いている人達とは限らない。しかし同じ部署に配属された彼女達の年齢は、明らかに亜美より若かった。十代かと思うほどの人もいたが、せいぜい二十代前半までに見える。さらに目鼻立ちがはっきりし、スタイルの良い人がやたら目立ったことも印象に残った。

 亜美も顔の作りだけなら、引けを取らない程度は整っている方だと思う。自分自身は余り見た目に興味が無い。それでも綺麗だとか可愛いだとか言われたこともある為、女性としてそれなりだろうとは自負していた。

 それでも平らな胸と太めの足、そして介護とキックボクシングで鍛えられた腕や足は筋肉で引き締まっている。決して他の女性のような色気などない。しかも今や年齢は三十歳に届こうとしている。

 そんな気を揉みながら最初に連れて行かれた場所は、想像を絶する程の煌びやかな部屋だった。亜美の他にその場にいた女性は五人いた。どうやら制服というのはまんざら嘘では無いようで、全く同じもののようだ。しかし胸の大きな人はより強調され、足が長く細い人はよりなまめかしく見える。

 戸惑っている間に、講師だと名乗った三十代前半の女性が説明をし出した。その後ろには他に屈強な体をした三人の男性が控えていた為、異様な雰囲気をかもし出している。

「ここはカジノ施設の中でも限られた人しか入ることが出来ない、VIPルームです。豪勢な部屋に驚いたかもしれませんが、これでも一番ランクが低い場所です」

 同僚達がどよめく。亜美も声は出さなかったものの、目を丸くした。その様子を眺めていた女性講師は、予想通りの反応に満足したらしく、表情を緩めて話を続けた。

「一口にVIPルームと言っても、いくつかのランクがあります。今日の段階では省きますが、ここは年間で一千万から五千万円程度使われる方々が楽しまれる部屋です。当然常連の中でも、それなりの資産をお持ちの方しか入れません。ただここが最低ランクということは、それ以上のお得意様がいらっしゃることを意味します。あなた達はまだ新人ですので、この部屋に来られるお客様への接待から始めて頂きます。しかしその後の仕事次第では、もっと上のランクの部屋でサービスをする権利が与えられるでしょう。そうなればもちろん基本給だけでなく、歩合も跳ね上がります。最も上のランクで年間百億から二百億円使用される最上級のVIPルームともなると、年収で数千万稼ぐ人もいる程です。ただしそこまでなるには、相当な努力と覚悟が無いと務まりません。お相手するお客様も相当な方達ですから、生半可な接客術では満足して頂けない為当然でしょう。逆に不適切な振る舞いをしてお客様の機嫌を損ねれば、この部屋からさえ追い出されます。そうなれば入ったばかりの寮からも退出しなければなりません。その意味が分かりますか?」

 先ほどよりもさらに騒めいた同僚達だったが、講師は言葉の調子を切り替えた後半の厳しい口調に、皆口を閉ざした。上を目指せば報酬は跳ね上がるが、それだけ厳しい世界だと分かる。以前いた施設では、利用者が喜ばれる対応をしても給与に直接反映することはまずない。その分、お叱りを受けるようなことがあっても急に職を追われることは、余程のことをしない限りなかった。

 それだけ日頃から、常に緊張感を持って客と接しなければならないと分かる。そんな環境で上を目指そうと思うどころか、自分なんかが勤まるのだろうか、と亜美は自信を失った。前の職場環境が嫌になり、給与や待遇面が良いことと翔が近くにいるという理由だけで転職を決めたが、考えが浅かったのかもしれない。やはり甘い仕事など無いのだと、初日から肩を落とした。

 しかし顔を上げて周りを見ると、亜美以外は目が凛凛と輝きやる気がみなぎっている同僚ばかりだった。どうやら自分とはモチベーションが大きく異なるらしい。その上ポジティブな彼女達は失敗することよりも、チャンスを掴んでやるという野心の方が勝っているようだ。そして早くも隣り合う同僚達をライバル視し始めたのか、軽く牽制までし始めた。自分が上に行くためには、他の女性より評価されなければならない。だから蹴落としてでも負けないと思っているようだ。

 それに比べ、亜美は案内された最低クラスのこの部屋で良いから、少しでも長く勤められればそれで十分だと考えていた。年収数千万と言われても、ピンとこない。無理せず食べていければそれだけで満足だ。

 そんな気持ちが見透かされたのか、講師に声をかけられた。

「亜美さん、あなたは余り欲が無いようね。他の人はいずれ上のクラスに這い上がろうという目をしているけれど、そんな気迫が伝わってこないから。でもそういう人は嫌いじゃないわ。ハングリーさも時には必要だけど、それだけでここは勤まらない。綺麗な顔と豊満な体やスタイルで落ちるお客様もいるでしょうが、上に行けば行くほど、あざとさや品の無さを嫌うお客様の方が多いでしょう。最低でも、飛行機のファーストクラスを任されるキャビンアテンダントクラスの能力が必要ですが、そこに女という武器は必ずしも必要でありませんからね」

 他の女性達は、痛い所を突かれたとばかりに顔を伏せたかと思えば、亜美に対抗心を持ったのか睨んでくる人もいた。しかしさらに続く話を聞いて顔が強張った。

「それにここは決して風俗ではありません。日本ではあくまで売春行為を禁じています。ただ自由恋愛という名の元に、VIPなお客様のお誘いがあり、宿泊されている施設へと招かれることもあるでしょう。それを上手くいなすか乗るかは、時と場合によります。断るにはそれだけの技術が、乗るにはそれなりのリスクを負う覚悟が必要でしょう。体だけ求められ後はポイと捨てられることもあれば、安い女だと他の客に広められ、そうした客しかつかなくなることもあるからです。とはいっても簡単に断ってばかりいては、お客様の機嫌を損ねてしまうかもしれません。亜美さんならどうしますか?」

 意地悪い目をして尋ねる講師と、どう答えるかと期待している周囲の目が怖かった。それでも意を決し答えた。

「出来る限り、そのような誘いがこないように振る舞いたいと思います。それでも求められた場合は、誠意を持ってお断りします」

 並んでいる女性の中で最も豊満な体をしていた女性には、鼻で笑われた。恐らく彼女なら焦らしながらも、最終的に夜を共にすることなど厭わないのだろう。

 講師は少し皮肉な笑みを浮かべて言った。

「そうしたことを実際の現場で振舞おうとすれば、相当な話術や接客術が必要となります。それを習得できるかが、今後あなたの人生がどう転ぶかを左右すると言っても過言ではありません。高級クラブのホステス達が、どのような接客をしていると思いますか? この部屋だと銀座クラスに出入りしているお客様と同レベルか、それ以上と考えて貰っても構いません。しかし最も上のランクとなると、まさしく世界的な大富豪クラスのお得意様が来られます。もしかするとどこかの石油王に見初められ、第二、三婦人にならないかというお誘いがあるかもしれません。話に乗れば、一生遊んで暮らすこともできるでしょう。あなたはそれでも断りますか?」

 意地の悪い質問に、周囲もどう対応するか興味津々だったようだが、亜美の答えは変わらない。

「もちろん断ります。私がここで働きたいと思った理由は、お金ではありませんから。ただお客様を怒らせてしまい、首になることは避けたいと思います。ですから誠心誠意頭を下げ、土下座をしろと言われれば、それで済むのなら喜んでするでしょう。研修ではそういう手法を教えて頂けるか分かりませんが、出来る限りしっかり学んだ上で、お客様の前に立ちたいと思います」

 失笑が漏れる中、講師は先程と同じ表情のまま頷いた。

「あなたはそのスタンスで望むわけですね。それが正解かどうかは、その時にならないと分かりません。でもぶれない芯を一本自分の中に持つことは、決して悪い事ではないでしょう。それはお客様に上手く伝わればいいのですが、それはこれからのあなたの努力次第です。しっかり勉強してください。皆さんも自分はどのようなスタイルで、どんな武器を持って挑むかを早く見つけてください。それによってここの部屋で踏み止まるか、上に行くか、それとも追い出されるかが決まります。それを決めるのは、基本的に私達講師ではありません。ここを利用される様々なVIPの方々が判断されることを忘れないでください」

 そのような前置きがあった後、後ろで控えていた男性達がお客の役としてゲームテーブルの席に座り、部屋でのサービスを実戦形式で学ばされた。男性達は飲み物や食事の用意をしろと指示し、その場合はどこに行ってどこで揃えてくるかを教えられたのである。

 VIPルームの端にはちょっとした休憩スペースとしてサロンも設置されていた。客はテーブルだけでなく、そちらに移動して接客係を呼び、会話を楽しむこともあるようだ。

 様々なパターンの要求や状況を想定しての行動も指導され、時には会議室のような別室での座学の時間も設けられた。そこではお客様との会話についていけるよう、政治や経済といった時事問題から地理や歴史の勉強まであった。

 それだけでも頭が爆発しそうになったが、一番困ったのは英語だ。あらゆる国からVIPがやってくる。それでも英語さえ話せれば、大抵は問題ないという。

 しかし中学時代など碌に勉強もしないまま、普通高校を中退した亜美だ。福祉系高校では、介護に必要な科目は真面目に勉強したが、それ以外はからきし駄目なまま、どうにか卒業できた程度である。 

 よって二週間程度の座学でどうにかなるものでは無い。それでも一番豊満な体をして亜美を鼻で笑った女性は元CAだったらしく、流ちょうな英語を話していた事には衝撃を受けた。

 しかし講師は言った。

「この研修期間中に、英語をぺらぺらに話せることを期待してはいません。ただ最低限必要な言葉があることを知り、自分の語学能力が低ければ、それをどのように補うかを考えなさい。海外から来られるVIPは、世界に数あるカジノの中でわざわざ日本を選んでやってくるのです。だから日本語を話す日本女性を、鼻から相手にしないと言うことはありません。しかしコミュニケーションを取りたいと望む相手には、どうすればいいか。そこが腕の見せ所であることを覚えておいてください」

 そう説明されて逃げ道はまだあると知り、少しは気が楽になったものだが、それでもどう切り抜ければいいのかは実践あるのみだという。実際のVIPルームにおける実践研修でも、英語だけでなく聞いたことの無い言語で話しかけてくる客への対応なども行った。そうなると英語を話せる元CAでも、手に負えない。

 もちろんスマホの翻訳アプリを使うケースも学んだ。しかしそれでは余りにも時間や手間がかかり、スムーズな会話は成立しない。そこで必要となるのがボディランゲージだ。身振り手振りで相手が望んでいる事が何かを素早く読み取り、対応しなければならない。これなら亜美と元CAとは、スタートラインが同じだった。

 だが気を付けなければならないのは、国によってやってはいけない仕草やポーズ、日本とは真逆の意味を持つ場合がある。または宗教上の理由から口にしてはいけないものもある為、そうした注意事項は徹底的に教えられた。

 しかし余りにも多い約束事を覚えることが大変で、研修が終わる頃には頭がパンクしそうになった。覚えの良くない亜美は、基本的に朝九時から夜七時まで続く研修後や休みの日でも、部屋に戻ってから夜遅くまで机に向かって復習をした。

 他の同僚達も同じように勉強をしている子もいたが、多くは時々夜に集まりお酒を飲んで、交流を深めていたらしい。中には週に一日ある休みの日に、外へ出かけたりもしていたようだ。

 その為他の五人の同僚と亜美との間には距離があり、一人になることが多かった。しかしレディース卒業後、人とつるむことをできるだけ避けて来た亜美にとって、それはそれで居心地が悪いとも思わなかった。

 人は人、自分は自分だ。こちらは特にライバル視をしている訳でもないが、何故か亜美は他の五人の中心にいた元CAの女性にとって面白くない存在だったらしい。しかしそれでもよかった。

 講師も言っていたが、VIPルームの接客で、数人による連携プレーが必要となるケースはほとんどないそうだ。そこがキャバクラやクラブとは違う点だという。基本は客と接待役との一対一の場合が多いらしい。そうなれば今つるんでいる五人も、いずれは競争相手になる。だから変に仲良くなっておく必要がなかった点は、気楽に思えた。

 そして二週間の研修期間を終え、実際に現場で働く日が来た。その日は現場マネージャーやその他の先輩達も揃い、ミーティングが始まった。

 最初だからということで、亜美達新人は平日の朝十時から夜七時までの勤務時間帯からスタートした。カジノ施設は二十四時間営業している為、勤務は三交代制だ。他は夕方六時から夜中の三時まで、夜中の二時から朝十一時までとなっている。

 一時間ずつ重複しているのは、スムーズに入れ替えを進ませるためと、引継ぎが要する場合に備えての事らしい。その為ミーティングには、前の時間帯で勤務していたマネージャーと女性のリーダーらしき人が同席していた。この場で引継ぎ事項があれば伝え、注意事項があれば事前にレクチャーする為だ。

 昼間からギャンブルしている人は比較的少ないが、ゼロではない。だがやはり最も盛況となるのは、夕食を済ませた夜の時間帯らしい。しかも金曜や土曜の夜はとても忙しくなるという。その次が土日の昼間だ。

 しかし中には曜日など関係なしに、一日中続ける人もいるらしい。だがそうした人も休憩なしにぶっ通しでやるのではなく、適度に休みながら楽しむお客が大半だそうだ。時には一旦ホテルに戻って仮眠をとる人もいれば、外にある食事が出来る施設に入ったり、買い物などをして気分転換をしてから再び戻ってきたりする方もいらっしゃるという。

 それでもギャンブルをする為だけに来ている客の行動は、全く違う。テーブルにほとんど座りっぱなしでゲームにいそしみ、時折気分転換の為にお酒等を頼んで亜美達のような接客係と軽く会話し、簡単な食事を取って休んでは、再びギャンブルにのめり込む。

 そうかと思えば、賭け事も楽しむが接客係の女性とコミュニケーションを取ることを楽しみにしている客もいた。そういう方達をいかに喜ばせながらかつ少しでも長くゲームを楽しんでもらい、お金を落とさせるかが亜美達の仕事となる。

 つまりカジノ側としては、接客係と戯れてばかりいられたら困るのだ。適度に休むのはいいけれど、なるべくギャンブルに集中し熱くなってもらう必要があった。

 もう疲れた、と部屋に引き上げられては戻ってこないこともあるので困る。特に勝っている客程そうだ。勝ち逃げされることが最も痛手となる。だからそういう客ほど接客係が引き留め、もう一度テーブルに座らせゲームを続けさせなければならない。

 ギャンブルは続ければ続ける程、負ける確率が高くなる。ビギナーズラックで数十億円勝つ人もいるが、長くやればほとんどの人は負けるのだ。

 カジノで損をしない為には、その日に使う掛け金を一定額だけと決め、それを超えないよう遊ぶことだという。そして大きく勝った時こそ引き際を見極めることが出来れば尚更いいらしい。

 だがプロと呼ばれるような客を除けば、ほとんどの人はそのように自制などできないものだ。それが出来る人なら、そもそもカジノに入り浸ることなどしないだろう。

 ただVIPルームに来るような客は一味違うらしい。中にはギャンブル依存症に陥っている方もいるようだが、この程度なら使っても良いと割り切って楽しめるお金持ちが多かった。

 その為適度にギャンブルで金を落とし、大きく勝てばディーラーや接客している女性達にチップをはずんでくれるのだ。負けてもそれはそれとして、酒を飲み会話を楽しむ客も少なくない。

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