第五章
そんな時、亜美は翔に助けられたことで久しぶりに身近な異性に関心を持った。そして徐々に好意を抱くようになったのである。見た目からすると、彼は決して亜美のタイプではない。背は高めで姿勢は良いが、どちらかというと他の介護士同様に笑顔は絶やさないけれど、細見の体からはオスとしての力強さが感じられなかった。
その為あのセクハラ事件が起こるまで、彼のことなどまるで眼中になかった。六歳年上ということもあり、ただの先輩としか見ていなかったこともあるだろう。
しかし人は見た目では判らないものだと、亜美はこの時改めて実感した。助けられたことで興味を持ち、彼の情報をかき集めてみると、色々驚かされることが多々発見されたからだ。
例えば細身に見えた体も、実は脱ぐと筋肉質で逞しい事を知った。所謂細マッチョなのだが、それだけではない。柔和な顔をしているが、合気道では四段の腕前だと耳にした。
亜美が施設に入ってくる前の話だが、利用者の親族で
その場を見ていた人に言わせると、魔法かマジックを見ているかのようだったと口を揃えて教えてくれた。まるで暴れ牛をいなす闘牛士のように、相手が興奮すればするほど彼は涼しい顔をして冷静に受け流したらしい。そして最後には倍くらいある大男が息を切らし、手も足も出なくなったという。
力で対抗するのではなく、突進してくる男の力を利用して跳ね返す、または投げ飛ばしたりしたようだ。時には関節を取り抑え込んだらしい。ただそんな彼の姿を見たのはその一度切りだったという。
その場に居合わせた人は皆、その時初めて彼に逆い怒らせてはいけないと思ったそうだ。そしてその噂を耳にした利用者や従業員達もまた同様に、その後しばらく翔の前では大人しくなったらしい。
それでも時間が経てば、亜美のように翔の強さを知らない人が出てくる。セクハラをした一ノ瀬もまた、その噂を聞いていなかったのかもしれない。
けれど底知れぬ迫力に気圧されたのか、一ノ瀬は彼の言うことを聞き、二度とおかしな真似をすることは無くなり、今ではとても素直になった。
そこでムキムキではないけれど、明らかに亜美より強い男だとさらに関心を持って調べた所、彼とは色々な共通点がある事を知ったのだ。彼の家庭も複雑で母親は事故で亡くなっており、祖父母と伯母に育てられたと聞いた。そして祖父母も亡くなり伯母との二人暮らしになった挙句、今は介護施設に入居している彼女の世話をしているという。
彼は一人っ子だったらしく、また伯母夫婦にも子供がいなかった為、彼が彼女の面倒を一人で看ているようだ。亜美には兄がいるし経済的にもまだ恵まれている方かもしれない。しかし伯母と父という違いはあるが、育ててくれた身内の世話をしている点は同じだ。
しかも詳細は周囲の人も知らなかったが、伯母に頭が上がらない彼は毎月最低一回以上のペースで面会しているらしい。その上アルツハイマーで、彼の事が時々判らない状態だというのに通い続けているという。そこで共感を覚えたのだ。
亜美と父とは会話が出来る。しかしそこに意思の疎通があるか、心が通っているかと問われれば、答えはNOだ。そうした事情を知った上で改めて彼の様子を、まるでストーカーのように観察したことにより判ったことがあった。
それは亜美と同じく表面上笑っていても、それが心の奥底から滲み出る感情表現では無い点だった。彼も自分の感情や心を殺し、愛想笑いという仮面を被っているに違いないと感じたのである。
その仮面の下に隠れている心理は、亜美よりもっと複雑なものがあることも伝わって来た。だから余計に彼の一挙手一投足に目が離せなくなり、いつしか周りからも気づかれるようになった。
「あなた、もしかして立川さんの事が好きなんじゃないの?」
と、何度言われた事か。しかし多くの同性が口にする次の言葉は、皆同じだった。
「あの人はやめておいた方が良いわよ。悪い人ではないと思うけど、なんか訳ありって感じがするから」
彼は利用者や同僚達に対しいつも快活な笑顔を見せ、人当たりの良さには定評があり頼られている。
しかし基本的に余計な事を話さないため、無口で静かな一面を見せる彼は、時折見せる表情の消えた横顔や気配により、周囲の人達を寄せ付けない空気を生み出すことがあったからかもしれない。
さらには一点を見つめ何やらぼんやりしている目の奥に、得体のしれない暗い影が見え隠れする瞬間がある。彼をよくよく観察していた亜美には理解できたけれど、他の人はそこまで知らずとも何か感じるものがあったのだろう。
それでも亜美は彼の事を知れば知るほど気になり、そして好感度はどんどんと大きくなっていった。そこでより彼に近づこうと、お昼の食事や仕事終わりの飲み会などを口実に、勇気を出して何度か誘ってみたのだ。
しかし異性に興味がないのか、人と深く交わることが苦手なのか、やんわりとだがことごとく断られた。しかし思い詰めたら一途な亜美は、決して諦めなかった。
過去のトラウマから長い間、異性に心を寄せることなどできなかった自分をその気にさせたのである。溜まりに溜まったダムが一気に決壊したかのように、彼への想いは止まることを知らず、上手く避けられれば避けられる程、心が燃え盛っていった。
だがそんな想いを無視するかのように、ある時彼が突然施設を辞めるという噂を耳にしたのだ。
そこで直接彼に理由を問い出した。もしかすると、自分のストーカーまがいの行為に嫌気が差したのかもしれないと危惧したからでもあった。
「施設を辞めるって本当ですか? それは私がしつこくつきまとったからですか?」
しかし彼は首を傾げて答えた。
「君に付きまとわれた覚えはないよ? ただ一ノ瀬さんの件でお礼がしたいと何度か誘ってくれただけだろ。でも俺は仕事上、当たり前のことをしただけだから、そんな必要は無いと断ってきた。でもそれが逆に深野さんの気を悪くさせたかな。だったらごめん。でも辞める理由はそうじゃない」
どうやら亜美の想いなど、全く気付いていなかったようだ。そんな彼の様子に落胆したが、それ以上に別の事が気になった。
「だったらどうして辞められるんですか? もう十五年以上ここで勤めて来られたのに、何故ですか? 介護の仕事が嫌になったのですか?」
亜美の質問攻めを、彼はやんわりと受け止めた。
「いいや、介護士の仕事は続けるつもりだ。今度の職場でもその資格が必要だからと言われているからね。でもそうか。ここに来てもう十七年目になるんだな。長かったと言えばそうだけど、あっという間だった気もするよ」
遠い目をした彼の表情から、懐かしく思う気持ちと寂しさが垣間見られた。しかしその奥には彼独特の、暗くて哀しい影がちらついていたことに気付く。
亜美はさらに尋ねた。
「今度の職場って、別の介護施設ですか? この職場が嫌になったのですか? それとも満足できなかったのですか?」
彼は少し考える素振りを見せた後、顔を上げて答えてくれた。
「厳密に言えば、ここのような介護施設とは少し違うと思う。どうせ後になって判ることだから言うけど、去年Y地に新しくできたIR施設があるだろ。そこで高齢者のお客様を相手にする仕事があって、介護福祉士の資格者を募集していたらしい。そこから声がかかったんだ。でもここが嫌になったから転職するんじゃないよ」
「だったらどうしてですか?」
「ごめん。それは色々あってね」
そう言い残して彼は施設を去っていったが、後に言い淀んだ理由が判明した。どうやら今の職場より給与面などの経済的な待遇が、はるかに良かったようだ。
それでも彼は当初断ったという。しかし結果的に転職を決めたのは、彼の伯母の入居していた介護施設が倒産してしまった為らしい。
介護業界は年々増える高齢者の奪い合いもあり、厳しい競争にさらされている。その為廃業や統廃合することは珍しくない。ただ利用者は増える一方であるため、施設自体は潰れても代わりに受け皿となる他の施設を手配しておくのが一般的だった。彼の母親も別の施設へと移るという。
しかしその為には、決して安くはない追加費用が発生したらしい。だから今の状態でも経済的な余裕が無いらしい彼には、伯母と自分の生活の為にも、お金が必要だったのだろう。その為止む無く転職を決めたとの噂が流れた。
理由が理由だっただけに、周囲は誰も引き留められなかったようだ。それどころか給与は一気にアップするらしいと聞いた同僚達の中では、嫉妬する者が続出したのである。
それなら彼と同じように転職すればいいと思うのだが、それは簡単でないという。なぜならIR施設で募集している条件がとても厳しいらしい。経験年数だけでなく、人柄やその人物における周囲の評判、そして犯罪歴はないか、素行が悪くないかなどの調査も行われると聞いた。それはIR施設内にはカジノがある為、世界各国からセレブ達も多くやってくるからだという。
セキュリティーや接客時におけるおもてなしの観点などから、雇い入れる従業員の審査は相当厳重に行われるようだ。その分給与はかなり良い事から、競争率は激しいらしい。その為条件をクリアした上で、ある程度のコネが無いと入社出来ないとの噂もあった。中途採用なら尚更だという。
そんな高い壁を乗り越え、しかも先方からスカウトされたのだ。彼に対して羨望の眼差し以上に、妬む人間が多かったことも頷ける。
だがどうしても彼の傍にいたかった亜美は、施設を去る直前まで
「この施設には立川さんが必要です。辞めないでください!」
と、言い続けた。しかしその願いも虚しく、彼は亜美の前からいなくなってしまったのである。翔が施設を去った後はしばらく仕事に身が入らず、家に帰れば枕を涙で濡らす毎日だった。
そうした日々が一カ月ほど続いた頃、施設ではトラブルが相次いだ。しかも皮肉な事にこれまでは翔がいたおかげで、大事になる前に防げていたことを皆は気付かされた。
例えば亜美も経験したセクハラ問題などがそうだ。今度は一ノ瀬でない別の利用者が、入浴サービスを受けている最中、施設に入所したての若い女性介護士の体を触ったという騒ぎが起きた。
亜美の時とほぼ同じ状況だったが、違ったのはそこに翔がいなかったことである。被害を受けた介護士は、上司に苦情を申し立てたものの、事を荒立てたくなかったのかしばらく放置されたのだ。
そのせいでセクハラが収まるどころかエスカレートしたため、その女性はやむを得ず利用者本人に直接抗議したらしい。ところが逆切れした相手から暴力を振るわれ、顔に傷を負ってしまったのだ。それが警察沙汰となり、施設は大騒ぎとなった。
そんな事件と並行し、他の介護士が利用者に虐待していた事実も発覚した。さらには施設の職員同士で妻子を持つ男性管理職と中年独身女性介護士との不倫が公となったのだ。しかも男性の妻が施設に怒鳴り込み、相手の中年女性と掴み合いの喧嘩を始め、ここでも警察が介入する程の騒動に発展した。
施設では、過去にも大なり小なりの問題は発生していた。それでもどうにか事を収めてきたが、ここに来て職員の対応能力の限界を超えたのだろう。
それは翔が居なくなったことによる影響も大きかった。目立って表に立つことはなくとも、かつては裏で様々なトラブル対応のアドバイスや後方支援をしていたらしい。施設としてはいつの間にか彼に頼り切っていたようだ。その為他の職員の能力では、カバーしきれなかったことが露呈し始めたのだろう。
収拾できずに事態が長引く間、職員の手が回らない為無関係な利用者に対するサービスまでが低下していった。嫌気が差した人々は、当然のように施設を利用しなくなる。そうして残ったのは、問題を抱えた高齢者ばかりとなっていく。
そうなれば、辞める介護士も増え人手不足に陥り始めた。するとさらにサービスは低下し、利用者を怒らせる。そうした悪循環から抜け出せない状況の皺寄せは、当然亜美にも振り掛かった。そして休みも碌に取れないまま、残業続きで疲れ果てていく中、更なる問題が起こったのだ。
それは辞めた介護士の代わりに担当を引き継ぐため、利用者の部屋へと伺った時の事である。周囲には親族らしき人達が数名いた。その中の一人で利用者の孫らしき女性が、かつて亜美が中退した高校の同級生だったらしい。ぼんやりとした記憶を手繰り寄せ、その子は確か周囲からユリと呼ばれていたことを思い出す。
そして厄介な事に、彼女は亜美の過去を知っていたらしい。だから眉を顰め言ったのだ。
「こんな元ヤンの介護士なんかにお祖母ちゃんの世話をさせたら、酷い目に遭わされるよ。ただでさえここって、介護士による虐待問題が起こった所でしょ。前の担当者が良くしてくれていたからこの施設にいるって言っていたけど、これを機会に移ったらどう?」
すると彼女の父親で、利用者の息子らしき男性が言った。
「それは本当か? もしかして少年院か刑務所にでも入っていたことがあるのか?」
亜美は即座に否定した。
「前科なんてありません。確かに昔は馬鹿な真似をしていた時期もあり一度高校を中退しました。しかしその後は心を入れ替え、福祉系高校に入学し直し介護福祉士の資格を取っています。そしてこの施設に就職することが出来て、今年で八年目になります」
姿勢を正し、真っすぐ相手の目を見ながら誠意が伝わるように話したつもりだった。
しかし男性は頭の上から足先まで、舐めるように視線を向けてから、ユリと何やら小声で話し始めた。どうやら昔どのようなことがあったかを確認しているらしい。時折二人はこちらをチラチラ見ていたが、良くない話をしている事は確かなようだ。
ベッドから上半身だけ起き上げ話を聞いていた女性の利用者の表情からは、困っている様子が伺えた。これまで直接彼女の世話をしたことはなかったけれど、施設内で何度か顔を会わせており、挨拶くらいはしたことがある。確か数年前から利用しているので、亜美の働きぶりや評判はそれなりに知っているはずだ。
自分で評価するのもなんだが、新人だった頃ならいざしらず、他の介護士達と比べてもここ数年では、利用者達から褒められることの方が多かった。感謝されることはあっても、叱られるような失敗などした覚えもない。
だからだろう。利用者は亜美の事を
引き継ぎで受け取った書類によればこの利用者は足が悪く、当初はデイサービスのみの利用から始まったらしい。しかし家庭での介護が大変だったのだろう。途中から施設に寝泊まりさせる、お泊りサービスの利用がかなり増えたと書かれている。注意事項としては利用者本人に問題はないけれど、時折訪れる親族のクレームに注意との記入があった。別に珍しくないことなので気にしていなかったが、こういうことかといきなり思い知らされた。
こそこそ話が続いていた為、相手の出方を伺うしかないと待っていると、ようやく先方の答えが出たらしい。男性が口を開いた。
「やはり不安要素を抱えたまま母を預けることはできないので、別の担当者に変わってもらえませんか」
その後ろで笑みを浮かべているユリの顔を見て、思わず頭に血が上りそうになったが、何とか堪えて返事を返した。
「私の一存では、ご要望にお応えできるかどうかお答えできません。なので、上の者に相談して参ります。少しお時間がかかるかもしれません。お待ち頂くことは出来ますか?」
「なるべく早くしてくれ。こっちも暇じゃないんだ」
苛々とする男性に賛同した他の親族達も頷いていた。その中で利用者だけが、申し訳なさそうに頭を下げてくれた。そんな様子から彼女も子供達に迷惑をかけていると思っているのか、肩身の狭い思いをしていることが伺える。ここで担当変更などできないと撥ね退ければ事態はさらに悪化し、何より利用者が気の毒だ。
亜美は頭を下げて退室し、急いで事務室に向かった。そこで上司に当たる女性の介護職員のリーダーと事務局長に、事の経緯を説明した。
しかし何故利用者の親族が担当を変えろと言い出したのか、その理由を伝える際には言葉が詰まった。高校に再入学してから今まで、周囲の人間には誰にも語らず、自身の中でも封印してきた過去について語らねばならなかったからだ。
それでも勇気を出し、必要最小限の範囲で説明した。だが案の定その点について様々な質問がなされた。
「その昔の同級生だった女性が言うような悪さとは、具体的にどんな事を指しているのかね」
「採用時にも確認されているから前科は無かったはずだし、そうした噂も聞いたことが無いけれど、本当なの?」
「前科はなくとも、そう疑われるようなことはしたのか?」
上の人達はただでさえトラブルを抱えていた為、更なる問題が起こらないかと心配したのだろう。その上人手不足に陥る中、再び別の担当者に振り分けなければならない煩わしさも手伝ったのか、口調が厳しくなっていた。
しかし今重要なのは、親族の要望通り担当変更を受け入れるのか、それなら誰に担当させるのかを早々に決めることだ。今更亜美の過去をほじくり返している時間など無い。
相手の質問をはぐらかしつつ、その旨をやんわりと口にしたところ、的を射た指摘を受けたからか事務局長が逆上し始めた。
「そんなことは分かっている。しかしそもそも顔を出して挨拶した程度で担当変更を申し出られるなど、滅多にあることじゃない。そこを解決しないと、今後また同じような事が起こるだろう。だから聞いているんじゃないか。質問に答えなさい!」
ここで十年近く我慢し続け、貯めていた堪忍袋の緒が切れた。久しぶりだったが、体は覚えていたようだ。レディースの頃、様々な場面で相手を震え上がらせた経験は伊達じゃない。長年禁じていた癖が出た。亜美は首を斜めにして眉間に皺を寄せ、視線を上下させながら睨み、ドスの効いた声で怒鳴ったのだ。
「さっきから下手に出とったら調子に乗りやがって。がちゃがちゃ煩いじゃ、ボケ! こっちがどんな悪さをしてきたか、今更聞いてどうするつもりや、ワレ! 態度が悪いと追い出すんか、おお? やれるもんならやってみい! ただでさえ人手が足りへんからって、こっちは碌に休みも取ってへんのじゃ。せやのに残業も押し付けられて、一杯一杯やっちゅうのに、文句一つ言わんかったら頭に乗りやがって。辞めた奴の担当を押し付けられても、嫌な顔一つせんと受けたったのは誰やと思っとるんじゃ! ああん?」
突然の豹変に、事務局長とリーダーは言葉を失っていた。一度沸点に達した怒りは簡単に収まらない。亜美はさらにまくし立てた。
「第一、この施設自体がこんな状況になったのは誰の責任やねん? お前らの危機管理と対処能力が欠如しとるから、次々と起こるトラブルに対応できへんのとちゃうんか。問題が起きてもすぐに対応せんと先延ばしにして逃げとるから、余計こじれたんやろうが。おお? その皺寄せを、現場におる介護士や利用者達が被っとるんとちゃうんか? せやからみんなこの施設からおらんようになったんやろうが。ああん? 立川さんがおった頃は、こんな問題なんて起らへんかったやろ。あの人やったら騒ぎが大きゅうなる前に、手を打っとったはずや。それで被害を最小限に抑えていたやろうに、あんたらはそんな有能なベテラン介護士に、長い間頼りっきりやったんとちゃうんか。せやから他所に引き抜かれて、苦労しとるんやろ? 正直に言えや。てめえ達が不甲斐ないから、今残っとる職員が辛い目に遭うんじゃ、ボケ! それを早く認めろや。自分らの甲斐性なしを棚に上げて、よう言えるな、ワレ! 担当させとうないって利用者の家族が言うとるんじゃ。こっちは別にやりとうて、引継ぎを受けたんとちゃうからな。お前らが困って頼んできたから、仕方なしに引き受けただけやろうが。人のアラばっかり探っとる暇があったら、さっさと代わりの担当者を連れてさっさと行って来いや。まあ、誰が引き受けてくるか知らへんけどな。皆今の仕事で精一杯やから、間違いなく嫌がるはずや。どうせこっちへ回してくる前にも散々断られたんとちゃうんか。担当する奴がおらへんのやったら、相手の好きなようにさせるのも手やぞ。向こうは余所の施設に移りたいって言うとるんじゃ。丁度ええ機会やないか。もうこちらでは対応できませんって言ってこいや。それやったら担当してくれる奴を探す手間も省けるやろ。さあ、どうするか早く決めんか。たらたらしとると、さらに問題が大きゅうなって、手に負えへんようになっても知らんからな」
この時点で亜美が担当するという選択肢は完全に消えている。そうなれば、後はどうとでもすれば良かった。
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