第30話 手紙


 結局、あの後3時間ほど眠りにつき…起きた頃には頭痛は完全ではないが、頭を押さえる程では無くなっていた。


 ベットから立ち上がり、リビングに行くと初音がパソコンで◯イクラをしているのが見えた。


 (配信をしている奴がいるかもしれないから、一応声は出さないでおくか)


 そう思い、音を出さないように、忍び足でハンガーにかかっているコートを取ろうとすると…。


 「ちょっと…何してるのよ?」


 「うお! 背後に立つな! ビックリするだろ!!」


 いつの間にか、後ろに立っていた初音に…驚き、後ろに下がりつつ、気になっていた事を尋ねた。


 「今は声を出しても大丈夫なのか?」


 「え? アンタそんな事を気にしていたの?」


 「普通に気にする所だろ!?」


 逆に何で気にしてないんだ!? 普通に考えて、男の声が配信に入ったりしたら、問題になるだろ!!


 「まぁ…それもそうね。安心しなさい! 今はミュートしてるから、声が漏れる事はないわ!!」


 何故、腰に手まであてて…自信ありげに言ってるんだ?


 「それならいいんだが…本当に気を付けろよ? お前はもっと自分の仕事を自覚するべきだ」


 万が一にでも、俺の声が誰かの配信にでも流れたりすると…他のメンバーにまで、疑いがもたれるかもしれない。


 その事を初音に、しつこいぐらい言うとティッシュ箱が飛んできた。


 「分かったわよ!! 気をつければいいんでしょ!!」


 「物を投げるな! 危ないだろ!?」


 危な! コイツ…ゲームのコントローラーまで投げてきやがった!!


 「とりあえず、俺は帰るからな!!」


 「ちょっと! 待ちなさーー「バタン!」」


 荷物とコートを腕に抱き…玄関の鍵を開けて閉めた。


 周りを見る限り、それなりに高いマンションみたいだ。


 初音の家の階は8階か…。


 俺はエレベーターを呼び、1階に降りると…自動ドアと、警備員がいる横を通ると、ようやく外に出れた。


 「ここ…何処だ?」


 携帯を開くと、今の時間は昼を過ぎたばかりで…マップでは、タワーマンションが並ぶ、高級住宅街を示していた。


 「うわぁ…早くここから、離れよう」


 俺は、1番近い駅を検索し…それを利用して、無事に家まで着いた。


 しかし、家の中に入ると…見覚えのない物が紙切れと一緒にテーブルに置かれていた。


 紙切れを手に取り、ひっくり返すと文字がこう書かれていた。


 "よう、安曇…俺だ。赤谷だ。


 お前か!!


 今すぐに、電話をしたい気持ちを抑え…続きを読む。


 "まず、謝らせてくれ。お前のした事を無駄にするような事をしてすまないと思っている。


 だが…俺は、杠さんや、初音さんの言葉を聞いて、勿体ないと思った。


 だってそうだろう? お互いに両思いなんだ。お前も高校の時言ってたじゃないか…両思い程の奇跡はないと。


 だから…な? お前は許せないかもしれないが、俺は安曇を騙した事を後悔はしていない。


 もう1度…信じてみたらどうだ?"


 ここで、手紙は終わっていた。


 信じる…か…。


 どうだろうな…。


 「…まぁ、悩んでいてもしょうがないか。俺がやる事は1ヶ月初音と付き合う事だ」


 まさか俺が、再び誰かと付き合う事になるなんて考えもしなかったな…。


 自傷気味に笑い…赤谷の手紙を、タンスに閉まい、手を洗いに足を動かした。

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