第29話 付き合う(仮)


 「別に、どうこう言っても構わないけど…アンタも私の事が好きだと分かった今、私は絶対にアンタを逃さないから」


 眼が本気マジな初音から、逃げられないと語った俺は…思わず白い天井を見上げた。


 どうしてこうなった…。


 いや、原因は分かっている。


 赤谷のせいだ…二日酔いが治ったら、直ぐに電話をかけまくってやる。


 「て…ことで、私と付き合うって事でいいわよね!!」


 「…条件がある」


 俺がそう言うと、初音は機嫌が悪そうに眉を寄せた。


 「なによ」


 「1ヶ月…1ヶ月だ。まず、1ヶ月付き合ってみて…その後に、もう1度付き合うかどうか、決めるのはどうだ?」


 「アンタ…そう言って、また嫌われるように動くつもりじゃないでしょうね?」


 圧を出しながらジリジリと…近づいてくる、初音に思わず、後退りをしてしまい、ついには壁に挟まれる。


 何でこうも迫力があるんだ…。


 思わずため息を吐きたくなるが…何とか押さえ、初音を鎮める為に、なるべく落ち着いて喋った。


 「流石にそんな事はもうしない、手遅れだからな…」


 俺の気持ちが相手に伝わった時点で、もう諦めた。


 どちらにせよ、付き合ってみれば…俺が本当はどんな人間なのか分かるだろう。


 俺は決して、良い人間ではないということが…。


 「……分かったわ。アンタの条件にのってあげる。ただし!! 変に嫌われようとしたら許さないんだから!!」


 ドン!! 


 「ウオ!?」


 …普通、立場逆じゃね? 男が壁ドンをするんじゃなくて、されるなんてどうよ。


 「分かった…分かったから離れろ」


 顔が近いんだよ…。


 その事に、初音も気がついたのか…頬を少し染め、勢いよく離れた。


 「分かればいいのよ」


 相変わらず、眼の前の事しか見てない初音に、更に頭が痛くなるが…まぁ、なるようになるだろう。


 「今日はもう帰ってもいいか? 早く休みたい」


 まだ頭痛が収まってなく、早く家に帰ってゆっくり休みたい。


 「? ここで休んでいけばいいじゃない」


 「いや、落ち着かないんだが?」


 分かるだろ? ただでさえ、女子の部屋に入った経験が少ないのに、好意を寄せてくれている相手の家で、ゆっくり休めるわけないだろ!?


 「何言ってるのよ、体調が悪いならある程度回復するまで休んでいけばいいじゃない」


 「ぐぅ…」


 正論だけに言い返せねぇ…。


 「それに…もし、事故に遭ったらどうするのよ! 体調が悪いと判断力が落ちるのよ! ゆっくり休んでなさい!!」


 だから、声が大きいんだよなぁ…。


 「んじゃ、そうする」


 痛くなる頭を押さえ…何とか返事をすると、初音は満足そうに頷いたのを確認し、寝室に足を進めた。


 「ベットを使っていいから、さっさと体調を治しなさいよ!」


 「あいよ」


 俺…コイツと付き合ったら、完全に尻に敷かれないか?


 そんな事を思いながら…俺は眠っていた、ベットに入り、意外と早く眠りについた。

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