第28話 昨日の痴態


 「絶対に逃さないって言ったわよね?」


 「いや、聞いてないんだが…?」


 聞いたか? いや、聞いていない筈だ。


 逆に、そうゆうを言われる事を、避ける為に…あんな酷いことを言ったんだ。


 いや、違う。


 この言い方だと、まるで自分に魅力があるから、わざと嫌われると…言ってるようなものじゃないか。


 調子にのるな。


 俺はイケメンでもないし、性格が良いわけでもない。


 自分で言うのなら、偽善者だ。


 だから、きっと…これも俺を冤罪をかける為の罠ーー「アンタ、またくだらない事を考えてるでしょ!!」


 「ギャアアアア!!」


 耳が!! 頭が!! 


 耳元で、大声を出された安曇は椅子から落ち…右耳とこめかみ押さえるように、床に転がった。


 「フン! 昨日の事で、アンタの本音を聞かせてもらったのよ!!」


 「は? 本音だと??」


 まさか…アイツ赤谷やりやがったな?


 「そうよ!! 酔っぱらったアンタは、まるで子供みたいで、呂律も回っていなかったし、自分の事を僕って言ったのよ!!」


 「はぁ? 何言ってるんだ? 23になってまで、僕って言うわけないだろ? 自分の事を僕呼びが許されるのは、癒し系のイケメンだけだ」


 俺は酒に強く…確かに今まで、酔っ払うほど飲んだ事はなかったけど、それを簡単に信じられるほど純粋じゃない。


 「ふ〜ん、そう。信じないのね…じゃあ少し、そこで待ってなさい!!」


 初音はそう言うと、リビングからいなくなり…1分もしない内に戻ってきた。


 初音が手に持っているのは…携帯だ。


 「この携帯にはね…昨日のアンタの様子が記録されているわ。もう、勘付いていると思うから言うけど、アンタの友達から琴音に…そして、私に送られてきた物よ?」


 やっぱりアイツ赤谷か!! 今度会ったら覚えてろよ!! アイツなりに、考えた結果だろうが、許せるか許さないかは別だ!!


 「ふふふ…再生っと」


 初音が画面を押し…そこで見たのは信じられない自分の痴態の姿だった。


 『アンタは私…の事嫌いなの…?』


 『ぅぅん、好き』


 は…? 嘘だろ? これが俺なのか…?


 『じゃあ、付き合ってくれる?』


 『それはダメェ』


 『僕じゃ幸せにできない』


 『え…?』


 『僕には、誰かを養える程のお金がないそれに…顔だって良くないし、僕じゃ君と釣り合わない』


 まぁ…そうだな。

それはずっと俺が思っていた事だ。


 『それに…また、誰かを好きになって…期待して…努力して、付き合って、それでも向き合ってくれなくて…もう、あんな苦しみは嫌だよ…』


 そこで、録画は終わっていた。


 心なしか…初音も恥ずかしくなったのか、顔を赤くしているように見えた。


 ていうか、俺はこんな事まで言ってたのか…。


 少なくとも俺は、もう吹っ切れたと思っていたんだけどな…いや、違うな。


 吹っ切れたとしていたんだろうな…。


 これが…自分でも気付いていなかった本心か。


 とりあえず、決めた。


 俺は、もう酒は飲まない。


 「今のを見て、分かったでしょ? 私はもうアンタの気持ちを知ったの」


 「そうだな…」


 赤谷…本ッッ当に覚えてろよ?


 「じゃあ、付き合うって事でいいわね」


 「は? 待て待て待て待て!!」


 思わず止めると、初音は眉を寄せて…不機嫌そうに口を開いた。


 「何よ」


 「録画でも言ってただろ!? 俺とお前じゃ不釣り合いだ!!」


 「知らないわよそんなもの」


 「知らないじゃなくてだな! もし、俺と付き合っている事が知られたら、仕事に影響するぞ!?」


 「煩いわね…顔を出していないんだからバレないわよ!!」


 「いや、1ヶ月くらい前にバレそうになってたじゃねぇか!!」


 「そんな事は忘れたわよ!!」


 コイツ…マジか…。


 未来の事を全然考えてねぇ…。


 「別に、どうこう言っても構わないけど…アンタも私の事が好きだと分かった今、私は絶対にアンタを逃さないから」


 そう言った初音の眼は、本気マジだった…。

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