第9話 押しかけられた


 「やぁ、君ぃ〜来ちゃった♡」


 何故コイツ赤髪の女性が俺の住所を知っているし…。


 脳の整理が追いつかず、玄関の扉を開いたまま、動けずにいると…。


 「お邪魔しまぁ〜す」


 「あっ…おい!」


 俺の横を通り過ぎ…履いていたヒールを脱ぎ捨て、遠慮もなく部屋に入って行った。


 コイツはいったい何がしたいんだ…?


 「ふんふんふん、ちょ〜と汚れてるのが減点だねぇ〜これじゃあ女の子を連れ込まないよ?」


 いきなり入ってきて、何を言ってるんだ?


 「女子が家に入れる予定なんかねぇから」


 「え? 私は入ってるけど?」


 赤髪の女性は、自分に指を差し…俺の前に立った。


 「お前は勝手に入ってきたんだろが…」


 疲れたように、ため息混じりで返すと…何故か、私怒ってます! と…言いたげに両手を腹の横にあてた。


 「琴音」


 「はぁ?」


 「お前じゃなくて琴音って呼んで」


 「え? ヤダ」


 「どうして呼んでくれないぉぉおおお〜呼んでよぉ〜ねぇ〜ねぇ〜え〜!!」


 「ああ、掴むな!!」


 腰にしがみついてくる、赤髪の頭を掴み…遠くに遠ざける事に成功する。


 「理由! 理由を教えてくれないとお姉さんはここから動かないから!!」


 「何なんだよお前…」


 意地でも動きそうにない赤髪の女に、頭が痛くなってくる。


 「別に何でもいいだろ」


 素っ気ないように、そう答えると…赤髪の女は急に、ニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいてきた。


 「おやおやぁ〜? 何か隠してますねぇ〜? 早めに答えた方が身の為だよ〜?」


 脇腹をツンツンと、突っついてくる赤髪の女に腹が立ちながらも…だんだんコイツの性格が分かってきた。


 とにかく面白いことが大好きで、首を突っ込みたがる奴。


 だが、コイツの考えている事は全く読めないのが恐ろしい所だ。


 「ほら早くぅ〜教えてくれないと、近所の人達に君の奥さんです! って言いふらすよ?」


 コイツッ…!


 「ハァ…本ッ当にめんどくせぇ」


 1つの理解した。


 今もニヤニヤと笑みを浮かべている、赤髪の女をまともに相手しても疲れるだけだということを…。


 疲れた俺は、素直に話すことにした。


 「女子を下の名前で呼ぶのは彼女や家族だけだ」


 どうせ馬鹿にしたように笑うんだろ?


 そう思いながら、見ると…。


 「えぇ〜可愛いい〜!! えっ!? じゃあ! じゃあ! 今まで家族以外に女の子を下の名前で呼んだことないんだぁ〜そっかぁ〜!!」


 馬鹿にはしてないようだが、余計な事を言ったみたいだ。


  …って、おい。


 「今まで彼女が出来た事がないように言うなし」


 そう言ったら、赤髪の女の眼が、より眩しくなったように感じた。


 しまった、トラップか…。


 「え? え? 何何何!! 彼女が出来たことあるの!? どんな子!? 君ぃはどんな子がタイプなの!?」


 座っている赤髪の女が、鼻息を荒くし…グイグイと距離を縮め出した。


 俺は、とりあえず近くにあった本で赤髪の女の顔との間に挟み込み…これ以上近くに来れないようにした。


 「何ぃ〜? 恥ずかしいのぉ〜?」


 「うぜぇ」


 距離を縮めようとしてくる、赤髪の女を本で捌く。


 俺が何としても、口を割らないと分かったのか…大人しく座り込んだ。


 「そしたらぁ〜これだけ聞かせて? 君ぃは〜Vtuberって知ってる?」


 ? 何故そんな事を聞く? まぁ、それなら答えてもどうもしないか…。


 「知ってるな。てか、普通に見てるしな」


 「えっ!? 誰!? 誰!?」


 また、近づこうとしてくる赤髪の女に、本を持つと…相手も気がついたのか、座り直した。


 「ハァ…1番見てるのは、梅1.00ホーチュンスだな。他は、時間がある時見てる感じだな」


 「えっ!? ベジタリアンのかわうそは!? あんまり見てないな」


 そう言うと、何故かショックを受けたように力を抜いた…が、直ぐ復活し、笑い出した。


 「フフフフフフ…そうかぁ〜ホーチュンスちゃんのファンなのか〜! そうかぁ〜そうかぁ〜! 言い事聞いたぁ〜!! じゃあ今日はお姉さんは帰るからねぇ〜!! またねぇ〜!!」


 そう言うやいなや、勢いよく立ち上がり…ドアから出て行った。


 そんな嵐のような女に俺は、もう来ない事を祈る事しか出来なかった…。

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