第2話 悪役令嬢、メイドを雇う

 サイド:エイミー=オールディス




 ――どうして私の家は貴族なのに貧しいのだろう


 答えは簡単、下級貴族な上に3・17の政変でお父様が領地を奪われたから


 ――どうしてお父様とお母様と妹は、貴族としての最低限の生活をしているのに……私だけはいつもお腹を空かせているのだろう


 答えは簡単、お母様は継母で、私は要らない子だから



 




 と、まあ――そんな感じで。

 いつも私はボロを着ていました。


 眼鏡だって何年も新しいものを買ってもらっていませんし、食事もまともに与えられていません。


 些細なことで折檻を受け、体中にアザをこさえる毎日でした。


 お母様に平手で殴られて――お母様の爪が伸びていないことや、指輪をつけていないことを安堵するような日々でした。


 ただ、それだけのありふれた話です。

 どこにでも転がっている、ありふれた不幸です。


 そんなある日、12歳になった私は聖教会に修道女見習いとして生活することになりました。

 まあ、親からすると体の良い厄介払いですね。

 孤児院も運営している教会ということで、公の慈善事業が主な仕事となります。


 そんな不幸な私ですが、引き取り先の神父様はとても優しくしてくれました。

 新品の服を買ってもらったのは初めてでしたし、食べかけではない食べ物を与えられるのも初めてのことでした。

 修道女と言えば扱いが酷いことは常識でしたし、身に降りかかった幸運に舞い上がりました。


 何より、神父様は私にいつも笑顔を向けてくれたのです。

 誰かから、そんな風に正の方向の感情を向けられたのは初めてのことでした。


 涙が出るほどに嬉しかったです。






 ある日の夜――。


 私は神父様の寝室に呼ばれることになりました。


 半分は、まさかという気持ちです。


 もう半分は……やっぱりという気持ちでしょうか。


 ――違和感は、最初の日から感じていました。


 似たような境遇の、寮の同部屋の子たちは、いつも神父様に怯えた様子を見せていました。

 あるいは、首に絞められたような内出血をしている子も多かったです。


 そして、神父様の部屋に呼ばれて……帰らない子もたまにいるという話ですね。


 そう、神父様は10歳~14歳の私たちの性を貪っていたのです。

 それも暴力的な方法を交えて。


 聞こえないフリをしていただけで、色んなところから悪い噂が私の耳に入っていました。

 なので、恐らくは、それは私の実家も知っているはずです。


 なんのことはないのです。

 美味い話なんてないのです。


 私に向けられた初めての好意の笑顔、それはただの薄汚い性欲なのでした。


 そうして、私は教会から逃げ出しました。








 ――貴族としての品性と品格を忘れてはいけません


 今は亡き……継母ではない、本当のお母様の口癖でした。


 だから私は、ネズミや蟲と一緒に残飯を漁っても、盗みだけはしませんでした。


 と、それはさておき、貧民街に逃げ込んで分かったことが一つあります。


 ゴミ捨て場一つにも縄張りがあり、物乞いの場所にも縄張りがあるのです。


 世の中には明確にヒエラルキーがあります。

 その中で、最弱である浮浪児たちの社会にもヒエラルキーがあるのです。

 必然的に、ルールを知らずに目をつけられた私はリンチに遭うことになりました。


 浮浪児たちに囲まれ、足蹴にされ、必死に頭を守りながら……思います。


 ――人間の中で、私よりも下の身分の者はいない


 お母様……?

 こんな私にも品性は必要なのでしょうか?

 生きるために品格は必要なのでしょうか?


 そう問いかけても、誰も答えはくれません。

 ただただ、次から次へと鉄槌が振り落とされるばかりです。


 ――それでも正しく生きないと


 人間と、動物を分ける境目は理性と品性です。


 堕ちるところまで堕ちたとしても、暴行されて眼鏡が欠けたとしても、そこの一線だけは超えてはいけないのです。


 貴族としての誇りだけは……。

 それがお母様の言葉であり、ただ一つの残った絆なのです。








 と、そんなドン底の生活をしていたある日、とある噂を聞きました。


 名家のご令嬢が、没落貴族の子供を使用人として募集しているとの話です。



 ――これが最後の生きるチャンスだと思いました



 そうして、ふらつく足で私はエリントン家の屋敷の門を叩いたのです。


 










「男爵家の家柄ね。私が求めていたのは……世継ぎに関係のない娘等なのだけれど、貴女は長女……志望動機は?」


 屋敷の一室で私にそう語り掛けたのは、珍しい風貌の女性でした。

 黒髪に淡い紫の瞳。

 黒髪は東方では珍しくもないという話ですが、紫色の瞳は生まれてこの方見たことも聞いたこともありません。

 しかし、その凛とした佇まいと身なりは……私とは違って本物のご令嬢でした。

 まあ、侯爵家の方なのですから当たり前なのですが。

 それと、一切崩さない張り詰めたようなその表情と声色からは、どことなく冷たい印象を受けますね。


 ――例えるなら氷の彫像


 ぞっとするほどに美しい人だな……そんな風に思ったのは初めてのことです。


「生きるためのお金です」


「それはどうして?」


 促されるままに、これまでの私の経緯を説明していきます。


 自分でも中々にハードな半生だったと思いますが、ご令嬢の表情は一切変わりません。


「理解したわ。ああ、それと同情はしないから。採用基準は役に立つか立たないか、当家にふさわしいかどうか……それだけよ」


 しかし、どうしてご令嬢が直接使用人の面接をしているのか、そこが理解できません。


 ご令嬢の両脇には銀髪の執事さんに、茶髪のメイドさんが立っています。

 二人ともこれまた美しい顔立ちで、背筋もシャキっと伸びていますね。


「ところで、失礼だけど貴女のその恰好と汚れ……」


「あの……すいませんでした」


「何故謝るの?」


「お風呂もずっと入ってませんし、自分では分かりませんが臭いも酷いし、汚れも酷いです」


「確かに臭いは酷いし、汚れも酷いわね。それは事実よ」


 変わらぬ冷たい声色で、そう告げられました。


 ――だから、出ていけ


 その言葉が続くことは、もう分かり切っていました。


 立ち上がり「失礼しました」と一礼します。

 そのまま出入口に向かうと、やはり冷たい声色で後ろから声がかかりました。


「お待ちなさい、どこに行くつもりなのです?」


「私のせいで……皆さまが不快になるかと」


「ええ、確かに不快ね。それは事実よ」


 もう一度、頭を下げて「失礼しました」と言おうとしたところで、ご令嬢はパンと掌を叩きました。


「ブレイト。エイミー嬢に湯浴みを」


 私を呼び捨てにしない? 嬢と……つけた?

 

 この方は……ここまで堕ちた私を未だに人間扱いしてくれるの?


 困惑する私に歩み寄り、「こちらに」と手を差し伸べてきたのは銀髪の執事の方でした。


 近くで見ると、月並みながらやっぱり綺麗だな……と。

 そんな言葉しか出てこないような、中性的な顔の執事さんでした。


「替えの服は……申し訳ありませんがメイド服しかありません。それでよろしいでしょうか?」


 嘲笑でも嘲りでもなく、悪臭を放つ私に対し――ニコリと笑ってブレイトさんはこの手を取ったのでした。

 





 とにかく、凄いお風呂でした。

 昔に住んでいた男爵屋敷とは違って、本物の上流階級の世界を垣間見た気分です。

 しかし、私にこびりついた汚れは凄くて、湯船と浴槽を真っ黒にしてしまいました。

 ですが、私が着替えも終えた後に、ブレイトさんは浴室の惨状を目の当たりにしてのに「気にしないで」と優しく笑ってくれたのです。

 あまりの情けなさに恥ずかしくて死にそうになりましたが……それはさておき。

 どうやら、これから使用人としての実技試験が行われるということらしいです。


 ――ここで落ちると後はない


 張り切っていかないと……と、そう思っているところで、頭がクラっとして倒れそうになりました。

 やはり、3日も何も食べていないと力が出ませんね。





 

 と、まあそんなこんなで。

 私たちが集められた控室には、20人程度の女の子がいました。

 貧乏下級貴族の3女や4女であれば、上級貴族のメイドとして家を出されることも珍しくはありません。

 でも、この人数……と、私はゴクリと息を呑みます。

 どうにも、政変でどこの家も事情が悪くなっているようですね。


「……それでは次はエイミー嬢。ドアを出て突き当りの部屋に向かってくださいませ」


 さきほどの面接室で立っていたメイドさんに促され、私は言われた通りにドアから出ます。

 廊下を歩いていると、絨毯の端にキラリと光るものを見つけました。


 銀貨が一枚落ちている? 


 誰かが落としたのかな? と、そう思い、私は花瓶の置かれている台に、拾った銀貨を差し置きました。


 しかし……実技試験とは一体何が? 

 そう思いながら、恐る恐る先ほど指定された扉を開きます。

 そこでは、普通に大掃除が行われていました。






 



「全然なってませんよ、やり直しです」


 昼食を前に、ニコニコ笑顔でブレイトさんは全員に向けてそう言ったのでした。

 

 ちなみに……このお屋敷は長らく使われていなかったということで、引っ越しの最中だったということですね。


 そうして、新規に雇い入れるメイドの動きの審査も兼ねて、この顛末ということらしいです。


 それで、やり直しを命じられたからには、昼食後に私たちは再度のお掃除をすることになりました。


 ――みんな必死です


 それぞれがそれぞれの事情を抱えていることは想像に難くありません。


 勿論、私も必死です。


 昼食後、かれこれ3時間ほどでしょうか。

 それぞれに割り与えられたエリアの掃除が終わりました。


 執事のブレイトさんは「掃除完了」の報告と共に、屋敷中を見て回ります。


 そして私たちは一旦広間に集められたわけですが、そんな面々に向けてニコニコ笑顔でこう言いました。


「全然なってませんよ、やり直しです」


 全員の顔が引きつりましたが、やむをえません。


 と、再度、分担されていた掃除のエリアに向かおうとした時、私はフラリと倒れ落ちそうになりました。

 やはり、かねてからの栄養不足が原因でしょう。


 そこで、私の肩をブレイトさんが支えてくださったのです。


「貴女は休んでいても良いのですよ? 事情がありますから」


「事情をご存じであれば、だからこそ、私は……」


 言葉を受けて、ブレイトさんはクスリと笑いました。


「まあ、少し休んでいきなさい。体調不良を推して頑張っても合否には影響しませんから」


 含み笑いと共にブレイトさんは私にソファーに座るように促します。


 頑張っても合否に影響がない……? どういうことなのかな? 

 そういう風に思っていると、ブレイトさんは私の隣の場所に、霧吹きで何かを吹きかけました。


「何をなさっているのでしょうか?」


「アルコール雑菌ですよ。私もソファーで休憩しようかと思いまして」


「あるこーる?」


「簡単に言うと、強い火酒は汚れを落とすということです。奥様からの聞きかじりの知識ですがね」


「なるほど……」


 変わった知識もあるものなのだな、というのが正直な感想です。

 と、そこで私はずっと気になっていたことをブレイトさんに問いかけました。


「ところで、先ほどからどうしてつま先立ちなのでしょうか?」


「埃を踏む面積を……極力避けようと思いましてね」


「歩きづらくないんですか?」


「大丈夫ですよ、ほら見てこのとおり」


 そう言うとブレイトさんは、その場でつま先立ちでくるりと一回転をなさいました。


「バレリーナみたいになっていますよ?」


 ブレイトさんは基本的に一挙手一投足が優雅です。

 更に綺麗な顔立ちなので、何をやってもサマになります。


「はは、バレリーナですか。それは良い――エレガントですからね」


 そうしてブレイトさんは私の隣に座り、コホンと咳ばらいを一つ。


「どうも、昔から知らない人が触れたものを触るのが苦手でしてね」


 ブレイトさんは右手で、左手に嵌めた厚手の白手袋を指さしました。

 手袋は執事の身なりの一部としてやっているわけではない……と、そういうことなのでしょう。


「それでは……あの……お花を摘む際はどのように? まさか……毎回あるこーる消毒をなさるのですか?」


 聞くべきかどうか迷いましたが、気になったからには仕方ありません。


「はは、そんなことをするわけがないでしょう?」


「と、なると……普通にお花を摘むと?」


 ブレイトさんは押し黙りました。


 そして大きく大きく息を吸い込んで彼はこう言ったのです。

 


「空気椅子です。ギリギリのところで死守し、肌には一切触れさせません」



「す……筋金入りなのですね!?」


 トイレで……空気椅子でプルプルと震えているブレイトさんを想像すると、笑いが込み上げてきました。


「でも、どうして先ほどブレイトさんは私の手を取ったのです? あの……潔癖症のようですのに」


「ああ、だから、知りもしない人に振れるのが好きじゃないだけですよ」


「ん……? 私は知らない人でしょう?」


「言い方を変えましょうか。これから共に働くかもしれない人は……知りもしない人ではありません」


 そうしてブレイトさんは、優しい微笑を浮かべました。


 そこで「キャー」と使用人希望者たちから悲鳴が上がりました。


「どうしましたか?」


 咄嗟に駆け付けたブレイトさんに向けて、希望者の一人が泣きそうになりながら口を開きます。


「さっきは気づかなかったのですが、棚の奥に……ネ、ネ、ネズミの死体が!」


「この屋敷は長らく使ってなかったという話ですからね、しかしネズミの死骸ですか……それはゆゆしき事態ですね」


 ブレイトさんは潔癖症ですから、ネズミの死骸の処理は苦手でしょう。


 ひょっとすると、ここは私が良いところを見せるチャンスなのではないでしょうか?


 そうして、すっと立ち上がると――


「皆さん、死骸には触れないでください。私が処理します」


「え、ブレイトさん……どうして? 潔癖症ではないのですか?」


「潔癖症だからですよ。汚すぎるものは……自らの手で確実に排除する主義なので」


 それはこの屋敷のお嬢様に抱いたのと同じ印象――ゾっとするような美しい表情でした。

 

「ん? エイミー嬢……どうしましたか?」


「あの、少し……雰囲気が」


「ああ、処理(・・)の時の私の表情は険しいらしいですからね。これは失礼」


 そうしていつもの微笑に戻ったブレイトさんは、トングのような道具でネズミの死骸をどこかへと持っていきました。

 ゴミ置き場か何かに行ったのだろうと思います。






 そして――。

 夕暮れになって2回のやり直しの挙句、私たちはようやく掃除に対して「了」を貰いました。


「それでは、少し個人的な野暮用を終えた後、お嬢様と協議の上で合格者を発表しますので、皆様は朝にいた控室に戻って下さいな」


 それだけ言うとブレイトさんは踵を返してどこかに去っていこうとしました。


「個人的な野暮用とは……どちらに行かれるのですか?」


「決まっているじゃありませんか。熱湯風呂に入って、雑菌をぶっ殺してくるのですよ……あ、これは失礼。私としたことが言葉遣いが荒くなってしまいましたね」


 本当に汚れが嫌いなんだな……と思いました。

 むしろ、汚れに対して憎しみすら持っていそうな……と、まあそれは良しとして。



 控室に戻る際中、廊下を歩いていると視界が真っ暗になりました。

 今日だけで既に何度もなっているのですが、つまりは……フラリときたということですね。


 ガシャーン。


 壁に手をつこうとしたのですが、勢い余って……台の上の花瓶を押す形になりました。

 必然的に、廊下は割れた陶器の破片と水で大惨事となります。



 ああ、採用試験は落ちたな……と、私は脱力しながらそう思ったのでした。



  





 ――控室。


 合否を伝えるために一人一人が別室に呼び出されていきます。

 名前を呼んでいるのは面接の時に見たメイドさんなのですが……やはり、美しいと息を呑んでしまいます。


 と、いうよりも、この屋敷で見た人間は、お嬢様を筆頭に誰も彼も人間離れ(・・・・)しているような容姿です。

 どことなく妖しさや怖さすら伴うような……あるいはそれは妖艶と形容しても良いのかもしれません。

 やはり、本物の上流階級となると顔からして違ってくるのだなと、そんなことを思います。


 そうして、次々に部屋から人間が消えて、最後に私が残されました。


 恐らくなのですが……試験の点数順に呼ばれたということなのでしょう。


 それで、花瓶を割るという一番分かりやすい失点を犯した私が最後であると、そんなところなのでしょうね。 


 と、そこでドアからブレイトさんが入ってきました。


 そのまま一直線にブレイトさんは私のところに向かって来て、ポンと私の肩を優しく叩いてきました。


「エイミー嬢……いや、エイミー=オールディス。これからよろしくお願いしますね」


「え? よろしくお願いって……?」


 どういうことですか? そう聞こうとすると、ブレイトさんはやはりニコリと微笑を浮かべます。


「貴女が20名中……唯一の採用ということですよ」


「え、でも……私、花瓶を割ってしまいましたし」


「これはお嬢様が考案した意地悪な試験でしてね。貴女方に掃除をさせましたが、そこには意味はありません。試験は午前中に終了していますよ」


「……午前中に?」


「ええ、どの道、家事全般は一から仕込むことになりますからね。現時点での動きなんてどうでも良いのです」


「……と、おっしゃいますと?」


「本当の試験は最初に終わっています。今朝、控室から出る時に落とされていた一枚の銀貨があったでしょう?」


「はい……確かにありました」


「貴女以外は全員が自分のポケットに入れましたよ。そこで合否判定は終了です。全員が貧しい境遇で、喉から手が出るほどに銀貨は欲しい。そして――品性は一朝一夕では教育ができないものですから」


 あ……と、私は思わず息を呑んでしまいました。


「で、でも……銀貨一枚といえば小銭ではありませんよ? もったいなくないですか? 盗まれたってことですよね?」


 その問いかけに、ブレイトさんは悪戯っぽく笑ってこう応えました。


「だから、掃除をしてもらったでしょう? 引っ越しの大掃除、人を集めたらどれくらいの金銭がかかるか分かりますか?」


「えと、ちょっと……分かりません」


「銀貨にして人夫の一日の費用相場は銀貨2枚です。対して私たちが使ったのは銀貨1枚となりますね」


「……」


「大人数を集める際は仲介人に半分差し引かれるのが相場ですね。つまり、一日に受け取る報酬の相場は銀貨一枚です。昼食代のことを考えると適正以上に報酬を渡したと考えております」


 一石二鳥の上に、経費も削減……。

 お金持ちが、何故にお金持ちなのか、その理由の一端が見えたような気がします。 


「まあ、ウチのお嬢様はそういう方ですので。ともかくおめでとうございます。今日からここは貴女の家ですよ」


 そうしてブレイトさんは懐から指輪を取り出し、私の右手の薬指に嵌めてくださいました。


「これは……?」


「指輪です。これはお嬢様の……私たちの身内であることの証明となります。ああ、これから君は私の直属の部下になります。困ったことがあればいつでも私に頼ると良いですよ」


 ブレイトさんはそう言うと、初めて見せた笑顔と変わらない笑顔を見せてくださいました。


「……どうしました?」


 不覚にも、涙が溢れそうになりました。

 それはこの家に就職できたことの安堵からではなく……いえ、それもあるのですが、理由はもう少し違うところにあります。つまりは――


「いえ、何でもありません」


 ありがとうお母様。


 ――貴族としての品性を忘れるなという……貴女の教えが私を守ってくださったようです

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