第4話
一夜明け、駅前にある商店街の端で、私はそわそわとしながら佇んでいた。辺りにはクリスマスソングが流れ、カップルたちが寒さに託け、身を寄せ合って歩いている。私はそれを横目に、足を擦り合わせて寒さをしのいでいた。
冷気が針のように肌を突き刺す年の瀬、オシャレにも限度が出てくる。それでも、コートの下に胸元ざっくり開いたセーター着て、ショートパンツにブーツを履き、せめてものアピール……のつもりだったのに。
「受験前に風邪ひいたらどうすんだ?」
モッズコートを着込んで猫背気味にやってきた賢太郎に、開口一番、怒られた。
「大丈夫。賢太郎にあっためてもらうから」
「どういう意味だ!」
賢太郎はふいっと顔を背けて、ずんずん前を進んでいく。どんな顔をしてるんだか、見なくても分かる。
「耳まで真っ赤だよ」
「寒いんだよ」と振り返りもせずにすかさず切り返し、「バカか」と吐き捨てるようにつぶやく。そういうところも、やっぱり、かわいい、て思っちゃうんだ。ガサツで不器用で、そのくせ、ど真面目で遊び心なんてありやしない。表情だっていつもツンツン尖らせて、一見、無愛想で。
でも……お人好しってくらい優しいの、私は知ってるんだ。
「待ってよ」と私は早足に駆け寄って、賢太郎の歩幅に合わせた。「てか、珍しいよね。賢太郎から誘ってくれるなんて。『実家帰る前に時間くれ』なんてさ、ドキドキしちゃった」
「昨日、渡しそびれたものがあっただけだ」
照れ隠しみたいに刺々しく言って、「ほら」と賢太郎がポケットから取り出したのは――。
「お守り!?」
まるで猫みたいにとびついて、私は賢太郎の手からお守りを掠め取った。
「受け取り方……」と、不満げにつぶやく賢太郎の声はそっちのけで、私はじっとお守りを見つめた。
桜の花びらの刺繍がはいったそれには、『学業成就』と仰々しい字体の文字が縫われていた。裏返せば神社の名前が。そこは合格祈願で有名な神社。ここから電車で何度も乗り換えして四十分。今日、帰る前にお参りに行けないかと調べて、遠いから諦めていた。受験前のこの時期なんて、相当混んでいるはず。そんなとこまで、私のために行ってきてくれた。お守りそのものより、それが何より嬉しくて、泣きそうになってしまった。
「ありがとう」ぎゅっと両手でお守りを持ち、天に捧げるように高々と掲げて頭を下げた。「これで無事、受かりそうです」
「そらよかった」
ちらりと横目で見れば、賢太郎が八重歯をのぞかせ、にっと子供みたいに笑っていた。
「それが無くても、お前はちゃんと受かると思うけどな」
さらりとそんな言葉を吐いて、賢太郎はぽんと軽く私の頭を撫でる。それだけで、私は胸いっぱいに満たされてしまう。やっぱり、好きだ――て思ってしまう。
――バカだよね。
やめてしまえば、楽なのに。これ以上、好きでいても苦しむだけだって、もう分かっちゃったのに。なんでやめられないんだろう。
まるで、中毒だ。
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