一筋の光明
「いまからでも、間に合うか……⁉」
勢いよく指を滑らせて、WEBサイトを次々と開いていく。
「今日の夜六時の回、まだ空きあり……!」
映し出された内容を読み上げた綾汰は、スマホの画面を見つめたまま、固まった。
「綾汰、どうしたの? ねえ、何がどうなってるのか、ちゃんと説明して」
藍子の問いかけを無視して、綾汰はブツブツと、自問自答を繰り返している。
「キャンセルでも出たのか? 今日が千秋楽だというのに、空席があるのは運がいいけど、問題は、行っても、何をすればいいのか、何が出来るのか。いや、でも、納期を考えると、もう時間は残り少ない。チケットは……二枚……」
「おい、説明くらいしろ」
様子のおかしい綾汰を心配して、大護が声をかけてきた。
その瞬間、綾汰は、画面のボタンをタップした。
「チケット、二枚。やるしかない」
そうやって、一人で何かを決めて、何かを納得した末に、大護のほうへとクルリと向き直って、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。あなたに会えたお陰で、道筋が、立ちました」
「そうか、それなら良かった。で、何があった?」
「すみません、時間が無いんで。本当はもっとお礼を言いたいところですが、すぐにでもここを出発しないといけないので」
「随分と慌ただしいな。どこへ行くんだ? 金沢へ戻るんじゃないのか?」
「詳しいことは、また報告します。それじゃあ、ありがとうございました!」
挨拶もそこそこに、綾汰は店を飛び出した。
取り残された藍子は、ポカンとして、さっきまで綾汰が立っていたところを見続けている。
大護は苦笑した。
「まったく、もう少し落ち着けばいいものを」
「そっくりね。職人になりたての頃の、あんたと」
一部始終を見守っていた大護の母は、暖かな眼差しで、大護と、綾汰が走り去っていった方向を眺めている。
「俺は、もうちょいドッシリ構えていたぞ」
「さて、どうだったかしらね」
大護の母はカラカラと笑い、大護もまた口元を緩めて苦笑した。
「さて、ぼんやりしてていいのか? 弟さんを追いかけたらどうだ」
「え、あ」
急展開について来られず、すっかりフリーズしてしまっていた藍子だが、大護の言葉で少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
「これから彼が何をするのか、俺は知らんが、少なくともあんたの力を必要としているのは確かだ。早く行ってやれ」
「私の、力?」
そんなもの無い、と言おうとしたが、その前に大護がさらに言葉を重ねてきた。
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