大護との再会

 藍子と綾汰が面食らっていると、すぐにドアが開いて、パジャマ姿の女性が出てきた。パジャマ女は、目つきが悪く、髪の色も金髪。背は綾汰よりも高く、上から見下ろす形で、ジロジロと二人を眺め回した。


 そして、何度か綾汰の顔を確認してから、


「あー……」


 と何かを理解したような声を上げ、いきなり家の中へと振り返ると、奥に向かって大声で呼びかけた。


「大護! あんたにお客さん! 友禅王子!」


 まさかの二つ名を出されて、え? と綾汰が再び戸惑っていると、パジャマ女はフンと鼻を鳴らして、家の中に引っ込んでいってしまった。


 入れ替わりに、大護が出てきた。


「驚いたな。どうした、急に」

「ちょっと相談に乗ってほしいことがありまして。それより、いまの人は?」

「ああ、あれは、俺の姉貴だ。あんたの大ファン」

「は……?」


 綾汰は顔を引きつらせた。そんな弟の心境が、藍子にはわかる。さっきのパジャマ女の態度は、ファンとしてのそれではなかった気がする。


「すまんな。姉貴は昔からあんな感じなんだ。どうにも素直になれない性格だから、いざ本人を前にして、照れくさくて、ちゃんと受け答えが出来なかったんだろう」

「なるほど。だけど、まさか輪島にまで、僕の名が知られてるなんて、驚きました」

「何度かテレビで取り上げられていたからな。特に、俺達みたいに、伝統産業に携わっている身としては、否が応でも注目せざるをえない。姉貴も、ああ見えて、職人の一人だしな」

「輪島塗の?」

「ああ。それよりも、家の前で立ち話もなんだから、工房の方へ行こう」


 工房に移動して、椅子に腰掛けてから、すぐに綾汰は話を切り出した。


「単刀直入に聞きます。姉さんにあって、僕に無いものは、一体なんなんですか?」

「へ⁉」


 そんなことをわざわざ聞くために、自分を連れて輪島まで来たのかと、藍子は目を丸くした。


「電話すれば良かったのに」

「面と向かって話がしたかったんだよ。それに、姉さんも同じ場にいる中で星場さんの率直な意見が聞きたいんだ」

「ふうん……」


 まだ藍子は納得していなかったが、綾汰の不機嫌そうな表情を見て、これ以上茶々は入れずに黙っていよう、と思った。


 それに、綾汰の話の内容も気になっていた。綾汰は、自分のことを見下しているものだと思っていたが、まさかこんな風に意識しているとは、夢にも思っていなかった。


 大護は、しばらく腕組みしたまま考え込んでいたが、やがて口を開いた。


「俺は加賀友禅のことはよく知らない。だが、伝統産業の職人としては同じだ。あくまでも、そういう広い視野において、俺の方に一日の長がある、という前提で聞いてもらいたい」

「大丈夫です。どんな言葉でも、受け止める覚悟は出来ている」

「まず、ひとつ教えてくれ。自信を無くしているのか?」


 そのストレートな物言いに、綾汰は体をかすかに体を震わせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る