第45話 意外な行動
「あー、もう、大丈夫」
「ふうん? 疲れた?」
「そうかも……」
ヒヤヒヤだ。っていうか、お前がいると本当に腹が痛くなりそうだから、どっか行って欲しい。
「医務室は回復魔法がかかっているから、もうちょっと寝ているといいよ。果物を持ってきたら、食べれたら食べて。君、全然食事しなかったよね? 酒ばかりかぱかぱ飲むって、どうなの。健康管理をもうちょっとして欲しいな」
ん? 何だこれ? え? もしかして文句じゃ無くて、本当に心配された?
「じゃ、僕はもう行くよ。ゆっくり休んで?」
りょ、良心の呵責が……。エレミアが親切なんて、嘘みたいな話だけど現実だ。今の今まで出てけって思ってたんですけどぉ。普段と違う行動は止めて欲しい。
「あ、あの!」
「あ、そうそう」
呼び止めようと身を起こすと、エレミアが振り返り、にっこり笑った。
「君に付いてこようとしたウジ虫はきっちり排除しておいたから。安心して?」
浮かべた笑顔がやけに黒くてひやりとなる。
え? ウジ虫? 嫌な予感。
その後からやってきたルーファスに事情を聞いて、予感が的中したことを知る。私が「お腹が!」なんて仮病を使ったもんだから、会場にいたヨアヒムが慌てて私を追いかけようとしてエレミアに見つかり、あっさりと排除されたようである。
「逆さづりの刑にされて、ぴーぴー泣いておった……遅くなってすまぬ」
逆さづり……私の仮病のとばっちりか。後で謝りに行こう。
「で? 腹は?」
「仮病……」
仕方なくルーファスに事情を説明すれば、
「冗談ぴょーん! って言って逃げれば……」
ふう、やれやれみたいな言い方をするな!
「ヨアヒムは逃げられなかったみたいだけどな!」
そう言うと、ルーファスが真面目な顔を作り、
「そりゃあ、結界が張ってある会場内から出れば、
そこできっちり理論的に説明するなぁ! 変なところで頭回るな! っていうか、元々頭はいいんだった、こいつ。口論すると言い負かされるのこっちか?
「ヨアヒムは無事か?」
「でなけりゃ、ここへは来ていないな」
ルーファスの視線で気が付く。
あ、一緒に来ていたのか。扉の所に人影がある。でも、医務室に在中している魔道士の視線が怖くて中へ入れなかったと……。ルーファスと一緒にいれば大丈夫だろうに、相変わらず気が小さいな。
「エラ、食べ過ぎで腹痛って本当?」
そう言って、ヨアヒムそっちのけで、堂々と医務室へ入ってきたのはロイだ。医療担当の魔道士の険悪な視線も気にならないらしい。食べ物を沢山抱えている。
誰が食べすぎだよ! 食べ過ぎはそっちだろうが! 私は食べてない! 飲んでただけ! って、こいつはなんで無事? どうやってエレミアの攻撃をかわしたんだ?
「ん? ゆっくり来たから?」
ロイが口をもぐもぐさせながら不思議そうに首を傾げる。
左様で。まぁ、こいつらしいっちゃこいつらしいな。のんびり動いて危険を全部回避ね。羨ましい性格してる。
最後に、おっかなびっくりヨアヒムがやってきて、
「無事でよかった」
そう言って笑った。ヨアヒムの菫色の澄んだ瞳に涙が……。
うう、良心の呵責が……こいつの泣き笑いがめっちゃきく! 純真無垢は反則だ! っていうか、お前が一番割を食ったな! ごめんよぉ! エレミアの被害にあったのこいつだけって……めちゃくちゃ泣ける。
「ごめん……」
「え? 何でエラが謝るの?」
いや、ほんっとごめんよ。今度はもうちょっと慎重に動くから、勘弁な。
ヨアヒムがふわりと笑う。
「そう言えば、エラと一緒に踊ってた人って誰かな? もの凄くダンスが上手かったね? 僕、見惚れちゃったよ」
ヨアヒムのその台詞に固まってしまう。
え? マジ? 分からなかった? 顔隠していても私なんか一目で分かったぞ? だからもの凄く冷や冷やだったんだけどな?
「ヨアヒム、あのさ……ちょおーっと聞いてもいいかな? ゼノスと一緒に暮らし始めてどのくらいだ?」
「え? えーっと……サイラスと同じだけ?」
十五年かよ! それでどうして分からない! 散々助けてもらったんだよな? あれか? そこまで無視? ゼノスの怒る気持ちが、もの凄く分かる気もするぞ?
「エラ? どうかした?」
「……何でもない」
ダンスの相手がゼノスだってばらすと、後々面倒そうなので黙っておく。本当、駄目だこりゃ。もうちょっと何とかしないと、両者の溝が埋まりそうにないな。
「エラと踊ってた相手? ゼノスだったじゃん。ヨアヒムって本当抜けてるよね」
ロイがけろりとそう言った。
そこでばらすなぁ! 空気を読まないって意味では、お前もどっこいだ! ほら見ろ、ヨアヒムが固まったぞ!
「ゼノス?」
「どこからどう見てもそうだった。っていうか、ヨアヒムの
ロイ……何気に毒舌?
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