伝説の剣返して下さい〜伝剣返下〜

甘飢餌 うつつ

第1話 来たる始まりの日

 むかしむかし

 てんかいとまかいで

 おおきなせんそうがおこりました

 さんぜんねんをもつづいたせんそうは

 ついにけっちゃくがつきませんでした

 てんかいとまかいはきょうていをむすび

 なかよくくらすのでした

 のちにそのせんそうは

 てんまだいせんそうとよばれるように

 なったのでした


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 魔歴352年


『魔界の中枢』そう呼ばれているここは、魔王だけが管理下における最大の秘所だ。

 ピラミッドの様に積み立てられた外見。世界から忘れ去られた様にボロボロなその出で立ちは、まさに魔界の象徴とも言える。


「これで……良いんだよなぁ……」


 そこに一人、招かねざる客がいた。

 この暗い魔界にて不自然な程後光の差した、白い翼を生やした青年。

 天人だ。


「そうです。これで貴方は最強の存在となれる……さぁ、起爆させなさい」

「……これで俺が最強……ようやく、この時が……」


 天人が不敵な笑みを浮かべる。


「さぁ、早く」

「…………っ」


 彼から躊躇いを感じたのか、天人は彼を急かす。

 そう、彼は迷っていたのだ。最強となれるなんて甘い話にまんまと乗っかった自分が、今何をしようとしてるか? 騙されているのではないかと……、


「今更引き返せませんよ? ここまで来たらやるしかないのです」

「五月蝿ぇな! 俺しか引き金は引けねぇんだぞ! いつだってお前の計画を反故出来るんだ!」

「…………」


 辺りは静まり返り、無機質な爆弾の音だけが木霊する。


「な……何を……」


 彼はようやく気づいた様だった。

 もうすでに、

 爆弾は起動していることに……。


「正直、魔爆が出来上がればこっちのもんだったんですよ? 貴方は私という存在を知らなかった……それだけです」

「て、てめぇ! ……!?」


 彼は天人に向かって殴りかかり……、

 スルッ、と彼の視界が回転し、彼の頭は地面へと到達した。斬られた事が分からなかったみたいだ。


「そして貴方は怠慢過ぎた。努力せずに手に入る結果になんの意味があるのか……あはっ! それは私も一緒ですかね。それでは、ご冥福をお祈り致しましょう」


 消えかけの意識で虚な眼に、天人が笑いながら消えていくのが見えた。


『魔界の中枢』改め『力字ピラミッド』は、この時を持って破壊されたのだった。


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 魔電歴1026年6月8日


 俺の名前はクラスト。ウォーレン家の一人息子だ。母は昔、魔王討伐隊に参加していた弓の名手らしくて、父はそれとは全く関係のない優男。家は超田舎で、魔電空間がようやくこちらまで届くとか届かないとか、そんな話をしている。

 正直そんな辺鄙な所に空間が来てもなんの足しにもならないと思うが、まぁ、あれば何かと便利になるのかもしれない____『ワープ』の費用は高額になりそうだけどな!


「つうか、車で2時間の街が徒歩だとこんなに遠いとは……田舎感覚舐めてたぜ」


 俺の住む村『ヒヨルド』から一番近い街『アヴァンゲルド』まで徒歩6時間近くとか、よく歩いて来れたと今になって思う。

 足が棒だよ、マジで。

 とりあえず俺はこの『アヴァンゲルド』で住居を構え、新しい生活が始まるってわけだ。

 貯めに貯めたお小遣いで冒険者になるまで食い繋ぎ、魔王を倒して有名人。これが1番早い出世街道だし、何より俺は特別だから……。


「自分で考えてて恥ずかしくなるな……」


 厨二病なのかもしれない。

 とにかく、俺が特別か特別じゃないかは置いといて、絶賛街中迷子ナウなこの状況。どうしたもんだろうか……。


「おっとっと、そう嘆いてるうちに交番発見」


 やはり道が分からない場合は交番だな。そこら辺歩いてる訳わからん奴らに聞くよりは1番適切と言えるのではないだろうか?

 とはいえ、初めてではないとはいえ、親の付き添いでしか来たことのない見知らぬ都会。交番を見つけたのは本当にたまたまで、そもそも目的地が何処なのかすら決まってないこの浮浪者。心細くてしょうがなかった。


「まず、なんて説明したもんかな? 「『ヒヨルド』から引っ越しに来ました」とかか? となると不動産屋か……。いやでもまずは「冒険者になりたいのですがどうすれば良いですか?」とか? TV見た感じだとギルドに行くって言ってたし…………」


 交番の前でブツブツ言って棒立ちしている俺は、まさしく不審者であった。


「どうしたんですか?」

「ひょわい!?」


 後ろから声を掛けられ変な声が出てしまう。自分の世界に没頭し過ぎていたようだ。

 俺は恐る恐ると声のした方を向く。もしかしたら知り合いかもしれないし……まぁ『アヴァンゲルド』に知り合いなんて居ないんだけど。


「…………誰?」


 そこには白いヘソ出しワンピースを身につけた女性がいた。


「えっと……魔科警備隊のエリアル•ドルフィーネです。今日はオフの日なので私服ですが、貴方が困ってそうなのでつい声を掛けちゃいました」


 エリアルは警察手帳を取り出しこちらに開示する。確かに本物…………かどうかなんて俺には判断出来ない。

 しかし、魔科警備隊とは平和じゃないなぁ。

 

「そんな堅苦しいものではないので力を抜いて下さい。職業柄……かは分かんないけど、困ってる人を放っておけない主義なので」


 オーバーなアクションと共に、色がそもそも存在しないかの様な白色のポニーテールが揺れる。胸は揺れない。

 しかしながら、この人懐っこそうな笑顔は人を安心させる。現に俺が落ち着いてきたからな。


「あぁ、じゃあ、えぇと……」

「はい?」

「ここに住みたいんですけど……」

「えっ、 貴方逮捕されに来たのですか!?」

「違います!」


 とんだ天然ちゃんであった。


「ここ! この街!『アヴァンゲルド』!」

「あぁ〜成る程ぉ、それで道に迷っていたのですね! 分かりました。私が不動産屋まで案内しまひょ………しましょう!」


 エリアルは片腕を上げ、やる気を鼓舞しようとも、大事な所で噛んだ。

 ったく、しまらねぇな。

 俺はエリアルに連れられ、不動産屋へと向かったのだった。


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『勇者になる者』魔導体によって定められた特別な称号。私が最強たる所以の、他者から嫌われてきた原因の代物だ。


「……今日か」


『アヴァンゲルド』にて伝わる『不壊の剣』。いわゆる伝説の剣に部類されるそれは、『アヴァンゲルド』の都市部から離れた崖に刺さっている。今日はギルドで決められた抜剣の日。

 正直な所、そんな勝手な称号一つで何人もの命を駄目にしてきた剣を、私が抜けるなどと思えない。


「嫌になるな……」


 女の子に大きな期待を抱き、希望という夢を叶えさせようとする。他人の夢など叶えて何が楽しいというのだ……。

 私は最後の一体だったグランドリーパーから剣を引き抜く。辺り一面は赤い血の海……これから回収作業である。

 血生臭さには慣れたものだ。


「ーーー!」


 ふと、空間の流れを感じ、私は身構えた。『ワープ』特有の波長である。

 足から徐々に出来上がって行き……、


「なんだ、ヌャビーか」

「なんだとはいささかのご挨拶ね!」


 現れたのはヌャビー・ノマーズであった。

 私と前のギルドで一緒だった、『アヴァンゲルド』随一と呼ばれてる炎系魔術の使い手。

 

「そんなにカッカするな。それよりも、また魔浸率が上がったんじゃないか? まるで猫だぞ?」


 私は彼女の頭頂部を指摘する。金髪のウルフカットから除くピンと貼った耳。そして指先を下げ、頬に出来た縞の三本を指した。


「あんたには関係ないでしょ! …………というより____」


 ヌャビーはニタっと笑う。見える歯は牙の様に鋭くなっていた。


「あんたはここで死ぬから、人の心配してる暇ないんだよ!」

「くっ____!」

(フィールド炎系魔法! 正気か!?)

「『フレア・エクリプス』よ。私と行動してたんだからどうなるかくらい分かるわよねぇ〜? 早くしないと灰になるわよ!」


 そしてヌャビーは両手から炎の剣____いや、ヌャビーの場合は炎ではなく、全てを溶かす灼熱の剣と行った方が正しい____を形成し、私に切りかかって来た。

 咄嗟に剣を取り出し防御するが、剣は一瞬で溶けてバラバラになってしまう。


「ガードが無意味な事くらい知ってるで____しょ!」


 私は蹴りを横腹に受け、軽く吹っ飛んだ。ヌャビーはすかさず遠距離炎系魔法『ファイア・ボール』を飛ばしてくる。


「すぅーー、ハッ!!!」


 空中で体を反転させ、『ファイア・ボール』を喝で消す。そのまま体勢を整えて、ヌャビーとの間合いを一瞬で詰め、


「____んにゃっ!?」

「ハッ!!」


 速度を乗せた拳を腹にめり込ませた。


「カッ……オェ……____ヒュー……ヒュッ」


 拳を引き抜くとヌャビーはそのまま下に倒れ込み、苦しそうに呻いた。

『フレア・エクリプス』は使用者の制御が利かずに消えたが、私の服が少々燃えてしまった。

 …………呆気ないものだ。

 天性の力とは本当につまらない。


「ヌャビー、なぜ私を狙う? 私達は良いパーティだったじゃないか……誰の差し金だ?」

「ゴホッゴホ……さぁて、誰でしょうか____ゴホッ……ねぇ」


 加減はしたつもりだったが、まだ苦しそうだ。


「まぁいい。話したくないのならそれで」

「____っ! あんたのそういう所がムカつくのよ! ゴホッ……そうなんでもかんでも私なら大丈夫って勝手に決めつけて、平気なツラして乗り越えてく____ゴホッゴホゴホ……見せつけんなよ……」


 どこが沸点だったのかわからないが、ヌャビーは突然怒り始めた。私の態度は依然として変わらない。


「見せつけてるつもりは毛頭ない。それは君が勝手にそう思ってるだけだ」

「____どこまで上から目線なんだよお前!」

「上から物を言ってる訳でもないよ」

「その、その態度が気にいらねぇーってつってんだよ、エイス・ダーティエル!」


 ヌャビーは突如立ち上がり、私の胸ぐらを掴む。当然躱せたのだが、躱さなかった。もう彼女に戦意はないから。

 そして、よくみると目まで猫のようになっていた。そろそろ魔者認定も近いのかもしれない。


「毎度毎度、私を置いて行きやがる! こんなにも私は……私は……」


 あぁ、なんだ、そういう事か。

 自己完結しててあまりにも要領を得ない話だったから、流石の私も理解が遅れたよ。

 掴む力が弱くなり、ヌャビーは地面に膝をついて泣き始めた。

 私を好いて好いて仕方がないらしいな。なら、こちらとしてもありがたい話である。


「なぁ、ヌャビー」

「…………ニャによ……」

「もし剣が抜けたら、パーティを組まないか?」

「…………」


 ヌャビーは顔を上げる。

 涙が止めどなく溢れ出て、でも本人は堪えようと必死で、それでも抑えきれない感情の奔流を、確かに感じた。


「____そういうのは、剣を抜いてから言いなさいよ! ____ばか……」


 言葉とは裏腹に、顔は笑っている様な気がした。


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「トイレとキッチン、それに風呂も無しの物件なんて聞いた事ねぇよ!」

「まぁまぁ、そんなに怒らないでくださいクラストさん? クラストさんの全財産から考えて、最も適した所なのですから……」


 不動産屋からの帰り道。いや、帰る所なんてないのだが……、とりあえず俺は、開口一番に予算を聞かれ、お勧めされた所で了承した。が、そんな自分が酷く恨めしかった。


「とは言ってもよぉ、どう暮らしてけばいいんだよって話じゃん?」


 そこでエリアルは思案顔をした。

 そして、何か思いついたのか掌に拳を打ち付けた。相変わらずのボディランゲージだ。

 

「クラストさんは冒険者になりたいんですよね? のであれば、寝て起きる所があれば良い訳です! つまり、キッチンとお風呂は要らないんですよ!」

「トイレは必要だろ!?」

「共同用トイレはあるでしょうし……」

「待てよ、その可能性は考えてなかった……つまりキッチンもお風呂も共同?」


 そんな基本的に中身の無いような会話をしつつ、そんなこんなで、エリアルの案内の元、俺の住居に到着した……の、だが……


「『オアシス』?」

「あぁ、やっぱり! 住所から見てここかもって思ってたんですよね!」


 そこは明らかに酒場であった。


「みてくれがそれなだけ!? ここ、人、住める!?」

「『オアシス』は喫茶店、酒場を両立してるお店で、店主のマイストロさんが作る料理は絶品なんですよ! 部屋を貸してる事は知らなかったですけど」

「いやいや、騒がしくて夜寝れないとかまじ勘弁だから! あぁ、実家の静けさが恋しい!」


 俺は頭を抱え、酷く落ち込んだリアクションをする。エリアルといるせいでオーバーなのが移ってしまったようだ。

 まぁ、でも、俺がやると不自然過ぎて周りの視線が集まって来たので自重。


「とりあえず中に入りましょう? 私、お腹が空いちゃいました!」


 という事で、俺の叫びも虚しく、俺達は『オアシス』の中へと入った。



 お昼時という事もあり、中は大変混雑していた。大繁盛も大繁盛、座れる所が店の角、窓側で、日当たりの良い所だけだ。

 なんでこんな良スペースが埋まってないのかちょいと不思議だったが、こんな日もあると思い、そこに座った。運が良かったのだ。

 しばらくすると、今まで店内を行ったり来たりしていた店員の女の子がこちらに来てメニューを聞いてきた。


「私はグランドリーパーのムニエルで、サラダセット。コーヒーをブラックでお願いします。クラストさんは?」

「どれも美味そうで……中々決められん……」


 メニューを何回も行ったり来たりし、流石に店員に申し訳なくなったので、渋々俺は、


「……同じもので」


 最悪な気分だった。


「少々お待ち下さい、ね」


 少女はあどけない笑顔を残し、またバタバタと店内を走り回り始めた。

 俺とした事が、少々見惚れてしまった。


「クラストさんもムニエルがお好きなんですね」

「ま、まぁね!」

(やめろ! 聞いた事ない料理ばっかだから同じにしたのに! )

「……クラストさんは____」


 俺のその回答をどう思ったのかは定かではないが、エリアルは一瞬の間を空けてから話始めた。


「『アヴァンゲルド』に伝わる伝説の剣をご存知ですか?」


 確か何処かで聞いたことある話だが、それが何処でなんか憶えてないし、記憶に残ってるのは『アヴァンゲルド』に伝説の剣が存在するって事だけ。

 俺としてはワンチャンあるんじゃないかと思ってたりする。なんの根拠もないが。

 しかしなんで俺にそんな事を聞いてくるんだ? エリアルから見て俺は、何か秘めた物を持ってる存在なのだろうか?

 いや、そう考えるのは早計か。


「存在は聞いた事あるよ」


 俺がそういうと、エリアルはテーブルを両手でバンっと叩き、こちらに身を乗り出してくる。目が爛々と輝いていた。


「そうですよね! 魔王を倒せる唯一の希望! その名も『アロンダイト』! 例えこの地球の裏側に居ても、名前だけなら聞いたことあるはずです!」


 急なハイテンションだ……。


「でも、いきなりなんでそんな事聞くんだ?」

「____えーとですねぇ……」


 エリアルは困ったように頭を掻き、悩んだ末に「これからアヴァンゲルドに住む以上、私個人的に知ってて欲しいなぁって思ってたり?」と言った。

 つまり、俺にはそういう特殊な何かは見受けられなかったという事か……残念。

 

「でも、ニューフェイスとして、クラストさんにも抜剣に挑戦して頂きたいと思ってたりもします」

「それは____」

「お待たせしました! グランドリーパーのムニエルとサラダ、コーヒーをお持ちしました!」

「早っ!!」


 店員はそそくさと料理を決められた配置に置く。そして立ち去る直前にエリアルに視線を向け、


「あっ、エリアルさんではないですか! すいません、忙しくて先程は気づきませんでした。珍しく人連れで来店ですね、これですか?」


 と言い、拳から小指だけを上げるジェスチャーをする。どういう意味があるんだ?


「べ、べつにそういうのではないです! ____今日来た理由は食事以外にもありまして、こちらのクラストさんが今日から『オアシス』にお世話になるということになりましてですね____」


 エリアルは身振り手振りを加え、非常にダイナミックにこれまでの事を店員に伝えた。聞いてる限り膨張と改変が著しく目立つ内容であった……なんだよ、住む所がなくて逮捕されに来たって!?


「そういう事でしたか……」


 店員さん納得しないで!!

 っと、店員はこちらに向き直り、両の手を前で重ね、お辞儀をした。


「私が店主のコメットと申します。クラスト・ウォーレンさん、数ある中からこの『オアシス』を選んでいただき誠にありがとうございます。詳しい詳細に関しては、申し訳ございませんが多忙の身でして、少々お時間をいただきたいと思います。お店の中でお待ちになるのもお暇でしょうし、良ければ街の中を見て回っては如何でしょうか?」

「あっ、はい」


 つまるところ邪魔だから外に居ろって事か……んっ、店主?


「店主ってマイストロって人じゃないんです____」

「コメットさん! それにしてもお久しぶりですね!」


 エリアルは途端にコメットの手を握り、ぶんぶんと握手をした。

 さっきからうずうずしてたし、ボディタッチしたかったのかもしれない____子犬みたいな人だ可愛い。

 しかし、おかげで多少落ち着ける時間が出来た……今までエリアルのせいで急展開だったし____何から何までエリアルのせいじゃねぇか!?


「にしても、外観からは想像つかない店内だなぁ」

 

 この『オアシス』、外からの見た目は木造建ての酒場。かつて存在していたという国の古い建築物によく似た外観だった。

 そして内装は、フローリングに白い壁、所々に額縁が飾ってある。テーブルは綺麗にカットされた木材を使ってあり、椅子はソファ。雑誌とかのお勧めの店で紹介されてそうな

綺麗な作りである。

 これも魔電空間によるシステムで出来上がってるのか……さすが都会。

 そして、そんなお店を切り盛りしている店主? コメットは、見たところまだ十代後半くらい……、目立ちすぎない程度にフリルの付いた若草色のエプロンに、上は白いシャツ、下はジーパン。薄栗茶色の髪を後ろの下の方で結いていて____そこまで髪は長くなく、小さな尻尾生えてるよ? 程度____頭にはエプロンに合わせた若草色の三角巾。穏やかそうな黄色い目をしているが、キリッとしたオーラが隠さないでいる。

 なお、今はエリアルにじゃれつかれて____羞恥からかほっぺが赤い____満更でもない表情をしている。


「どう見ても店主には見えないな……」

「も、もう! やめてください! お客様方の前ですし、店主としての威厳があるのですから!」

「はーい……」


 あ、残念そう。

 そんなイチャイチャはコメットの鶴の声でようやく終わり、再びコメットはこちらに向き直る。


「えーと、それでなんでしたっけ? あっ、パパの____マイストロ・グライガンの事ですね?」

「へぇ〜、パパだったんだ」

 

 ぽっ、とコメットは頬を赤らめた。心なしかさっきのエリアルとのやり取りより赤くなっている気がする。

 威厳なんてすでに無いのかもしれない。


「パパ____父は2年前に他界しました。私は昔から父の手伝いをしてたので、こうしてお店を切り盛り出来ているという訳です。しかし、人気があるが故の嬉しい悲鳴といいますか、繁盛している為人手が足りなくて……アルバイトでも雇おうと思っているのですが、そこまで余裕があるわけでもないのですよ」


 なんだか凄く後味が悪かった。気にする程でもないのかもしれないが、俺の軽率な質問で辛い過去を思い出したのかもしれないし。


「でも、5年ぶりにエリアルさんに会えて良かったです____ではそろそろ、他のお客様を待たせてしまっているので失礼します。3時間程したらピークが過ぎますので、それまで時間を潰しておいてください」


 そしてコメットはそそくさと俺たちの席から離れて行ったのだった。

 しかしながら、なんだろうこの違和感は……。

 

「それではクラストさん、いただきましょう?」

「そ、そうだな」


 結局その違和感の正体は掴めずに、俺たちは少しばかり冷めた料理を口にしたのだった。

 ちなみにめたくそ美味しかったです。


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 私の所属するギルド『グラウンド』は少し辺鄙な所に存在する。そして、システムによってほとんどの人が認識する事の出来ない様になっていた。

 ヌャビーの不思議そうな顔を傍目に、私は扉を開けて内部を見渡す。どうやらミルィエルは居ないようだ。


「にゃによ、誰もいないじゃにゃい」

「ヌャビー……ついに言葉まで猫っぽくなっているぞ? ____多分、マスターはまた遊びに行っているのだろう」

「遊びって!? ギルドの長ともあろうものがにゃんたる事かしら!」

「それに関しては言葉もない……、まだ幼くて自由奔放なのだ、許してやってくれないか?」


 私はイスを引いてヌャビーにすすめ、カウンターへと向かい書類に手を掛ける。


「おさにゃいって、一体どんな奴なのかしら!」

「ふむ……説明するより実際に会ってもらった方が楽なんだがな____体科警察の話は知っているか?」

「それくらい知ってるわよ!? 馬鹿にしてるの!」


 私はヌャビーと会話しながら思考を開始した。

____どうやら最近『アヴァンゲルド』周辺のモンスターバランスが悪いみたいだな……、そろそろ私も魔王討伐に向けて準備しないといけないし、タイミングは良好と言えるだろう。


「体科警察の登竜門『龍角道場』の師範、それがここのマスター、ミルィエル・スタンダードだ」

「師範!? あの鬼畜道場の!?」


____『アヴァンゲルド』に住まう魔王は、あらゆる武器や防具を一瞬で破壊したという。その為、何千、何万という命を無駄にした____いや、そうして魔王の情報が手に入っただけでも御の字、無駄では無かったという事だ……。

 その情報が、

 

 人類じゃ魔王を倒す事が出来ない。


 そう教えてくれているのだから。


「で、でも、あそこの道場は宮本の家系が代々守ってるはず! 師範にゃんてポッと出でにゃれるもんじゃにゃいし、まずそういったソースが流れてこにゃいのがおかしい____」

「____言ってなかったな。マスターは『愛されし子』だ」


 私は書類に目を向けるのをやめ、ヌャビーの方を向いた。彼女は驚いた顔をしている。


「『愛されし子』は、生まれ持ってからにして魔者認定されるレベルの魔侵率を有し、空色の瞳と、身体に現れた魔物の特徴……そして、無くならない魔力からなる絶大な力を持った____そんな子供だ」


 しかし、ヌャビーが驚いたのは束の間で、すぐに思考を始めた。


「その身は歳をとり辛く、天啓そのものと言える____か、まさか実在するとはね」

「驚いた。私の話を信じてくれるとはな」

「買い被り過ぎ。あんたと何年一緒に居たと思ってるのよ」


 こういう種の話というのは、大抵笑い者にされる。ましてやこの私が話したとなれば信じる者は居ないだろう____そう思ってたのだがな。


「だとすれば辻褄が合う……道場の創設からとなれば師範である事の説明がつくし……つまりあの宮本 武蔵と知り合いという事ね!」

「相変わらずの洞察力と思考力だな。しかし、自己完結が過ぎると足元を掬われるぞ?」

「いいじゃにゃい別に。殆どその通りなんでしょ?」


 補足すると、知り合いではなく師匠という立ち位置だったらしいが……いや、藪蛇だ。こうなったヌャビーは全てを知っていると言っても過言ではない____もうちょっと質問してくれても良いと思うのだがな。


「とにかく、そういう事だ。さ、剣を抜きに行くぞ」

「うー……にゃにか釈然としない物言いね」


 私はぱぱっとシステムに入力を終わらせて席を立ち、玄関口へと歩を進めた。


 人類が魔王を倒すのに必要不可欠とされる伝説の武器は、定められた運命を背負う者にしか扱えないとされる。それが、私だった。

 だから私は、今までの命が無駄ではなかったと、本当の意味で証明する為に、魔王を討たなくてはいけない。

 過去の教訓が為の危険を、過去の教訓が故の勝利へと変えなくてはいけない。

 それが私の……いや、エイス・ダーティエルという人物の運命なのだ。


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 魔電歴1062年6月8日。

 その日、クラスト・ウォーレンとエイス・ダーティエルは出会う。それがこの地球における最大の転機の始まりであった。

 

「まさか、不壊の剣を抜ける者が私以外にいたとはな」

「いやいや、待て!? 別に俺恨まれるような事してないからな!?」

「エイスがどんにゃ思いで今まで過ごしてきたか分からないくせに!」


『アヴァンゲルド』都市部から離れた崖。町人からは伝説の崖と呼ばれるそこで、クラストとエイスは向かい合っていた。

 エイスはクラストに剣を突きつけ、クラストはそれに納得がいかずに意義を申し立てる。そしてヌャビーはエイスの気持ちを代弁した。

 高低差の生まれた自然の中、風が強く鳴りふぶき、3人の身体を強く打つ。お互いがお互いに相手の出方を探り、その場の音は、そんな強風のみとなった。

 のちに、一瞬の無音。


「決闘だ」


 そんなエイスの一言により、再び風が吹き荒れた。

 

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むかしむかし

まちのひとたちは

きょうだいなあくにたちむかい

なんにんものひとがしにました

そんなひとたちをみかねて

てんかいから

てんけいがもたらされました

てんかいからのししゃは

「きまったものにあたえるきぼうだ」

といいました

しかしきぼうのひとはみつからず

またしてもひとがしにました

きぼうはやがてでんせつとなり

このちにのこりました

 

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