第6話

『イフリートとフローズンを倒して、200レベルアップ!

 「光速レベルアップ」のスキルで10倍され、2000レベルアップしました!』



 俺の目の前には、にわかには信じられないようなウインドウが表示されている。

 学校の教科書に載ってるような、歴史的な偉業を成し遂げた勇者でもレベル150止まりだっていうのに……。


 まさかその10倍以上のレベルを、たったの1戦で稼いじまうだなんて……。


 しかし助かった。

 精霊2匹を倒すためにレベルをぜんぶつぎ込んでいたからな。


 2連戦というのはさすがにキツかったが、おかげでこの極限状態にも少し慣れてきたような気がする。

 キャノタウロスを倒したときのような、異常な緊張感はもうない。


 しかしセレブロはそうではないようだった。

 俺は、胸のあたりがきつく締め上げられていることに気付いた。


 彼女が背後から手を回し、俺の身体を抱きしめていたんだ。


「よ……よかった……!

 一時は、どうなることかと……!」


 セレブロは心配のあまり、呼吸困難に陥っていた。

 言葉も発するのもやっとの様子で、息をハァハァと荒くしている。


「これもキミが弱点に気付かせてくれたおかげだ。ありがとう」


「そっ、そんな……! わたくしなんてもうあきらめておりましたのに……!

 ミカエル様は本当に、本当にすごいお方ですっ……!

 本当に、本当に、本当によかったですっ……!」


 セレブロはもうたまらないとばかりに、ぎゅーっと腕に力をこめてしがみついてくる。


 美少女に抱きしめられるなんて、本来ならとても喜ばしいことのはずなのだが、俺はいまいち不満だった。


 どうせなら、前から抱きしめてほしかった……。


 しかしそんなことを言えるはずもない。

 俺は手持ち無沙汰だったので、セレブロをしがみつかせたまま、浮遊している魂を『アブソーブ』で吸い取った。


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ミカエル・イネプト

 LV 1 ⇒ 2000

 HP 10 ⇒ 2362

 MP 10 ⇒ 2089


 ●ルシファー

   ビギニング

    アブソーブ


   ブレイン

    NEW:マインドリーダー


   ロストパワー

    シャドースライム、キャノタウロス

    NEW:イフリート

    NEW:フローズン


 ●光速レベルアップ


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 スッカラカンになったレベルが一気に2000まで上がってる。

 HPもMPも、前人未踏の4ケタ越えだ。


 そしてふと、スキルツリーが増えていることに気付いた。

 『ブレイン』という新しいツリーには、『マインドリーダー』というスキルがある。


 俺の背中に横乗りしていたセレブロが、「よいしょ」と地面に降りた。


「なんだ、まだ乗っててもよかったのに」


「いえ、あまり他人様のお背中に乗っているのは失礼かと思いまして」


 セレブロは魔王の娘のクセに、いちいち所作が丁寧で、妙に礼儀作法に厳しいところがある。


「それに、わたくしは重い……ですよね?」


 そして普通の女の子のように、ちろりと上目遣いを向けてきていた。


「いや、重くはないよ。それよりも、この『マインドリーダー』のスキルはなんだ?」


「あっ、それはわたくしのスキルのひとつです。レベルが上がったので使えるようになったみたいですね。

 『マインドリーダー』は対象の心を読むスキルです」


「心を読む? それはすごいな」


「はい。わたくしはひとりぼっちだったので、使ったことはないのですが……。

 使うと、その人の考えが頭の上に文字となって見えるみたいです」


「どれどれ」


 俺はためしに、セレブロに向かって『マインドリーダー』を使ってみた。

 すると、彼女の頭上にほわほわと文字が浮かぶ。


『あっ、わたくしの心を読もうとしましたね!?

 残念でした! わたくしの心は読まれないように、ちゃんとブロックしてありますから!』


 目があうと、セレブロは無言でニコッと笑い返してくる。


「こりゃ、一本取られたな」


「うふふっ! 魔王としてはわたくしのほうが長いんですから!

 その点につきましては、わたくしのほうがお姉ちゃんなんです!」


 ドヤ顔で胸を張るセレブロ。

 彼女はずっと物静かで貞淑なイメージだったが、こんなお茶目な一面があるのだとわかり、俺は嬉しくなった。


 『マインドリーダー』はモンスターの思考も読めるそうなので、これからの戦いに役に立ちそうだ。

 それは次の敵が出てきたときに試すとして、俺は新たに吸収した精霊たちを試してみることにする。


 まずはフローズンに変身しようとしてみたが、できなかった。

 まだお姉さんぶっているセレブロが、人差し指を立てて教えてくれる。


「あっ、フローズンさんは女の子しかいないモンスターさんですので、男の子のミカエル様では変身できないんですよ。

 逆にイフリートさんは男の子しかおりませんので、わたくしでは変身できません」


「性別の制限があるのか」


「はい。ですのでフローズンさんのお力が必要になったときは、このわたくしがならせていただきますね」


 セレブロは言うが早いが、さっそく雪の女王に成り代わる。

 しかしドレスがスッケスケだったので、髪の毛が逆立つほどにビックリしていた。


「キャッ!? キャアアアアアーーーーーーーーーーーッ!? み、見ないでください! 見ないでくださぃぃぃ!」


 胸と股間を手で押え、ぺたんと座り込むセレブロ。


「おいおい……フローズンのドレスがスケスケだってのは、知ってたはずだろうに」


「ちょ、調子にのって、すっ、すっかり忘れちゃってましたっ! ごめんなさぁーーーーいっ!!」


 火が出そうなほどの顔を両手で押え、子供のようにいやいやをするセレブロは、情けないやらかわいいやら。

 さらに『天然』という、彼女の新しい一面を見つけることができた。


 俺は小さくなっているセレブロを励ませないかと、イフリートに変身する。

 セレブロはその様子を座り込んだまま見ていたのだが、俺の変身が終わった途端、瞬きを忘れたみたいに固まってしまった。


 俺の顔をポカンと見上げたままの頭上には、こんな文字が。


『かっ……かっこ、いいっ……!』


 セレブロの頬がまたしてもカーッと赤く染まっていたのは、なにも俺の身体から出る炎のせいだけではないようだった。

 さらに俺は、彼女の頭からハートのようなものが立ち上っていることに気付く。


「おいセレブロ、そのハートみたいなのはなんだ?」


 するとセレブロはギョッとした様子で天を仰ぐ。

 首がグキッとなるほどに上を向いた彼女は、ふわふわ浮いている文字とハートに気付き、パニックに陥った。


「きゃっ!? きゃわわっ!? みっ、みみみ、見ないでください! わたくしの心を見ないでくださいっ!」


 両手をわたわたと振って、文字とハートをかき消そうとする。


「なんだ、ブロックしてるんじゃなかったのか?」


「は、恥ずかしくってブロックするのを忘れてしまったんです! お願いですから、見ないでくださぁ~~~いっ!

 ああっ、もう二度とフローズンさんにはなりませぇ~~~~~~んっ!!」


 半泣きのセレブロはとうとう立ち上がり、煙でも追い出すかのように文字やハートを天井に押しやりはじめる。

 その背中は腰のくびればかりか、お尻の形まで丸見えなくらいにスケスケだったのだが、言わずにおいた。

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