想いの等価交換

第一話 だから僕は、君にこう答えた。

たまに誰かが、暖房の効いた部屋に長く居るとなんだか気持ち悪くなると言う。

僕もそう思うのだが、温度設定をうまくすればすごく心地よい空間になることを僕は知っている。このことに気が付いたのは今年のことで、季節が冬に近づきパソコン部に入部していた三年の先輩たちがみんないなくなって、残りの部員が二年生である僕だけになってからだ。

部員が僕一人になってからは、休み時間や放課後のパソコン室は僕だけの空間になり、色々好き勝手やっていたら、暖房の心地よさに気づかされ、まさに冬の寒い時期の真っただ中である今日は、暖房の設定にこだわり抜き満足のいく心地良い空間作り出すと、昼休みに購買で買ったサンドイッチとレモンティーを嗜なんだ。


無論、僕だって半年前まではクラスメイトと机をくっつけたりして昼休みを高校生らしく過ごしていたが。

高二の時のある出来事を境にそれも控えるようになった。


そして今。

僕は昼寝を嗜む中で夢を見ている。

その夢は、この十七年間を意図的に振り返っているような不思議な夢だった。

しかし、そんな夢すらも終わりを迎え、僕は目を覚ますと机に突っ伏していた頭を上げ、薄く目を開いたその瞬間。

「君はすごく、優しい子なんだね。それと同時に、すごく自信がなくて心配性だ。」

女子生徒がいつの間にかパソコン室に入り込み、いつの間にか僕の隣で机に肘をついて座っていた。でも、なぜだか僕は驚くことはなく、冷静に言葉を返した。

「え…だれ。」

「同じクラスの星乃結月ほしのゆづき、話すのは初めてだね。小野寺無月おのでら なつき君。」

彼女はそういうと、優しく微笑んだ。

よく見ると彼女は、冬服のブレザーを脱いで椅子に掛けてあり、シャツの上にセーターを着ていた。髪型は肩より少し長いぐらい。

彼女はついていた肘を離し回転する椅子を動かして僕を正面に向きなおすと。

「突然だけど、私は君の欲しい物を知っています。」

「え…急に何。」

唐突に提示された意味の分からない話題に対して僕は、とりあえず寝起きでうまく開かない目をこすっておくことにした。

「自分を必要としようとしてくれる人が、そばに欲しい。…そうでしょ?」

「なんでそんなことわかるの?」

「うーん…私もそうだから。かもしれない。」

「ハハ…なにそれ。まぁ、間違ってないよ。そういう人が欲しいって、時折…いや、時々?たまに…じゃないな、頻繁に思うよ。」

なぜだろう、彼女と話すのは初めてなはずなのに…それなのにとても話しやすく感じてしまう。気のせいかもしれないが、彼女は僕の話しやすいテンポや雰囲気などを知っているような、そんな感覚があった。

「嘘つき。毎日といっても過言じゃないんじゃない?」

「なんでそう思うの?」

「それは秘密。それはそうとさ、初めて小野寺君と話したこの日を祝して、一つ提案があります。」

そういって、彼女は僕の目の前で人差し指を立てた。

「はい。なんでしょうか?」

「私はあなたを必要とするので、あなたも私を必要としてください。」

「え…っとそれはどういう。」

急に何を言い出すのだろう。

意味が分からない…いや、違う。僕はすぐに言葉の意味も彼女の真意も分かっていた、すぐに疑いの念が入ったんだ。

からかわれたりしてはいないだろうか、そもそもこの考えは縛の早とちりで、あっていないのではないかとか。

「うーん。要は…えっと……あ、そう!錬金術をテーマにしたあの手のひらを合わせて戦う漫画で出てくる…あぁ~、思い出せない!確か何とか効果とかだったような…」

「等価交換のこと?」

「そう!それ!だから、私が言いたいのはそれなの。お互いが誰かに必要とされたいなら、互を必要としあえば済むんじゃないかってこと。」

「でも、僕ら今初めて話しをしたばっかりで、」

彼女のおかしな提案は、僕にとってとても魅力的だった。だって、僕の望んでいたものが本当に手に入ってしまうかもしれない提案だったから。

でも、そうであるからこそ疑いたくなるのが人間というものだ。

「君を信用できないよ。」

「じゃあ、こうしましょう。等価交換を義務として、小野寺君と私は契約を結ぶの。どちらかかが何か言動を起こせば、それ相応のものを片方が返す。それが出来なかった時、義務を果たせなかった方が罰金十万円として契約をするっていうのは?正直、人の想いをお金にするのはなんかちょっと違う気がするから、義務を果たせなかった方への罰は変えてもいいとしよう。」

「どうしてそこまで?」

「私が、今寂しくて他人のぬくもりを感じていたいから。理由は単純だよ。」

罰なんて放棄してしまえばどうとでもなるとか、どうして僕なのかとか、本当は裏で指示している誰かがいて何か企んでいるのかもしれないとか。考えなかったといえば嘘になる。

でも言い訳をするのなら、人間は飽きずに何度も間違えや失敗を繰り返す生き物だから、例え失敗するとしても僕は欲しかったのだ。

誰かに必要とされ自分を。

自分が生きている、存在している確かな理由が。

だから僕は、君にこう答えた。

「その契約乗った。」

「よし。それでこそ男の子だ!偉いよ。」

うれしそうな彼女を見て、この選択が間違いなんかにならないといいなと思った。

それと同時に、その笑みの奥にある真意を疑って、怖くもなった。

その瞬間。

「じゃあ、今日は私の家に泊まりに来てね。」

ん?

今なんて言った?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君は錬金術師。 @EnHt_919

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ