幕間 尋問

「……剣士様が?」

「はい、魔女との闘いの中、命を落とされそうです」


 神官の知らせを聞き、聖女様は自身の耳を疑った。

 剣士は剣術に優れ、ドラゴンの殲滅に尽力した英雄の一人。


 にもかかわらず、全く歯が立たなかった。


「……相手は相当な手練れということですか?」

「おそらく」

「そう、ですか……」


 女神像を見つめながら、剣士の死に祈りを捧げた。


「……勇者様は、ご無事ですか?」

「ええ、魔法使いと共に命からがら逃げ延びたそうです」

「そうですか……」


 無意識に安堵の吐息が漏れる。


「……剣士様の葬儀は仕来りに則り、祈りの言葉は神父様に」

「かしこまりました」


 恭しく頭を垂れる神官に対して、神父は聖女様に疑いの眼差しを向けていた。


「聖女様」

「はい」

「ひとつ、よろしいでしょうか?」

「……? はい、何か」

「聖女様に親類縁者はいらっしゃいますか?」

「いいえ」


 頭を振り、否定した。


「ご存じの通り、私には両親どころか、親類縁者はいません」

「左様ですか」

「ええ」

「本当に?」

「え?」

「本当に、言い切れますか?」

「……どういう意味でしょうか?」


 裁判の時と同様の圧力を感じる。

 聞けば、今回勇者達を追い詰めた、魔獣を従えた魔女。


 その顔が自分と瓜二つだというのだ。


「あり得ません」


 はっきりと否定した。


「物心ついた頃から、私は一人でした」


 化け物と蔑まれ、頼れる親類縁者もおらず、

 ただ一人、ずっと耐えてきたのだ。


「似ていたからとはいえ、私の姉妹とは限りません」

「では、なんだと?」

「いたとしても、それは……」


 会ったこともない『魔女』に思いを馳せながら、


「ただの別人でしょう」



* * *



「神父殿」

「何ですか、神官殿」

「聖女様に対し、あまりに無礼でございましょう」

「聞かずにはいられなかっただけです」


 万が一、各国に被害を齎す脅威が魔女のものであり、

 さらに教会で祭り上げている聖女様の血縁者だとすれば、


 教会の地位は地に落ちてしまう。


「何か対策を講じなければいけませんね」


 魔女を一刻も早く滅ぼさなければ。


「すでに魔獣による被害が日を追うごとに増しています」


 ドラゴンに比べ、魔獣を脅威に考える人間は少ない。

 何せ、ドラゴンの脅威にずっと晒され続けていたのだ。


 魔獣による被害など、目を向けられることの方が少ない。


 だが、


「魔獣によって滅ぼされた村が複数」


 間違いなく魔獣の力が狂暴化している。

 それを可能としているのが、魔女が原因だと。


 疑うまでもなく、明らかだった。


「勇者様達も愚かですね」


 仲間を一人失うぐらいなら、


「いっそ相打ちにでもなって下さればよかったのに」


 その方がより英雄らしい死に方ではないのかと。

 神父はひそかにため息を吐いた。

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