第4話 協力
「ほんっと、ひやひやしたんだからね」
脱力した様子で、魔法使いはその場に座り込む。
教会から距離が開いた場所に着いた途端、これだった。
「だよな」
剣士も肩をすくめながら、俺を見た。
「あんな神経質でも神父なんだ。あの場で捕縛されたって文句言えないんだぞ」
「……悪かった」
俺は素直に謝罪の言葉を口にした。
「勇者って聖女様のことになると血が上りやすいんだから」
「……」
否定はできなかった。
だが、どうしても黙っていることなんてできなかった。
あの『裁判』の時だってそうだ。
勇者としての肩書と、聖女様の言葉がなかったら、
とっくの昔に処刑されている頃だ。
聖女様に何の罪もない。にもかかわらず、聖女様を自由にできる力が俺にはない。
それが酷く歯がゆかった。
「あの人は、ずっとあのままなのか……」
命があるだけで罪があると、罰を与えられ続ける。
そんな一生を、彼女は送るのだろうか。
「勇者さぁ……」
頭を小突かれた。
剣士の拳は、無駄に痛い。
「何す――」
「少しは頭使え」
諭すような声音だった。
「真正面から行ったところで、助けられるわけないだろ」
「……剣士」
「そうそう、それで剣士。具体的には?」
「そうだな……」
真剣な顔つきで、剣士は俺に言った。
「いわゆる……駆け落ちだな」
「……は?」
今、なんと言った?
「『かけおち』?」
「駆け落ちだ」
「………それのどこが頭使ってるって言えるんだよ!」
思わず切れた。
「そもそも誰と誰のだ!」
「勇者と、聖女様の」
「魔法使い!」
剣士の代わりに魔法使いがしたり顔で言ってのける。
「そんなの不可能に決まってるだろ!?」
教会の影響力がどれだけ世界中に広がっていると思っているんだ。
二人だって、そんなこと百も承知の筈だ。
「第一、」
そこで言葉が切れた。
「どうした?」
「………聖女様が、俺なんか好きなわけないだろ」
俺の身勝手な感情で、彼女を振り回す気になれない。
彼女は俺のことを想っているわけがない。
「「はぁ……」」
剣士と魔法使いが同時にため息を吐いた。
「勇者って女心分かってない」
一刀両断だった。
「とりあえず告白してきたら?」
「こくは、」
動揺しかけて、態勢を立て直す。
「それこそ無理だ」
聖女様は常に教会の監視下に置かれている。
下手をすれば、俺どころか、聖女様まで危険に見舞われる。
神に仕える相手に好意を寄せるとはそういうことだ。
「お前さ、無理だ無理だって言いすぎだ」
「そうよ、勇者」
「ま、懐かしいけどな」
「お前らな」
「とりあえず」
魔法使いが手を握ってくる。にっこりと。
「話、してきなよ」
直後、移動魔法が展開された。
そして気づけば俺は、教会の中にいた。
『協力するから』
無茶苦茶だと思った。
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