第3話 裁判

 ドラゴンと人間の死闘。

 その長い長い歴史の中で、生み出されたのが『生贄』。


 のちに『聖女』と呼ばれる少女達だった。

 彼女達は、教会側から見出された聖なる力を持った存在。


 彼女達の存在は教会側から特別視され、神に近い存在として崇められていた。

 だが、それは表向きの事実に過ぎず、裏の事実は別にある。


 彼女達は『聖女』として外界から殆ど隔離され、

 遮断された狭い世界の中で、教会側から幾度となく教えを受ける。


「貴女方は、神から遣われし者達。故に、十六を過ぎれば、神の元に還るのです」


 ドラゴンが神として崇められている風習があった。

 『神』の『恩恵』を受ける為、彼女達はその身をドラゴンに『捧げて』きた。


 すると、神であるドラゴンはその力に耐え切れず、霧散し消えてしまう。


「それが神が我々を見守っている証なのです」


 無茶苦茶な理屈だった。


 要は彼女達の力はドラゴン退治に利用され、喰い殺されてきたのだ。

 だが、教会側は少女達を生贄にするのは体裁が悪い為、『神への捧げもの』と称した。


 その生贄制度はのちに『聖女』と呼ばれる総称になっていく。


 彼女達の犠牲の上で、人間の歴史は成り立っていると言っても過言ではない。


 当代の聖女様もまた、ドラゴンに喰い殺される運命にあった。


 だが、勇者達がドラゴン全てを滅ぼした。

 結果、どうなったのか。


 ――聖女様は『罪人』として捕縛され、裁判にかけられたのだ。



* * *



「罪人、聖女」


 あの日のことは今でも忘れられない。


「彼の者は聖女という立場でありながら、その責務を放棄し、罪を犯した」


 聖女様は神官が読み上げる罪に耳を傾けていた。


「彼の者の罪は重罪に値する。よって、」


 神官は一旦言葉を切り、


「生涯を懺悔の時間に捧げ、教会に従事させるものとする」


 聖女様は粛々と、その罰に頷こうとした。


「はい、かしこまりまし――」


「ふざげなるな!!」


 聴衆で埋め尽くされた裁判の中で、怒声が響き渡った。


「なんですか、そのふざけた裁判は! 聖女様が何をしたって言うんですか!?」


 俺だった。


「俺達がドラゴンを倒しました! それだけでいいじゃないですか!」


 裁判を乱すのは重罪だが、見て見ぬふりはできなかった。


「何もしないことこそ罪なのですよ。勇者殿」


 聴衆の視線を浴びながら、裁判官を務める神官を睨みつけた。

 神官はそんな俺の言葉を受けて、淡々と返した。


「その罪を贖う為に、聖女様はここにいるのです」

「何を――」


「いいのです、勇者様」


 なおも食って掛かろうとする俺を制したのは、聖女様だった。


「有難う御座います、私の為に怒って下さって」


 柔らかな笑みを向けられて、何も言えなくなってしまう。

 

「失礼いたしました、神官様」


 聖女様はその場に跪き、頭を垂れた。


「私の罪、生涯をかけて償い、教会に捧げます」


 裁判はそこで終了となった。

 

 以後、聖女様の足は鎖で繋がれた。

 罪人の証だった。


 ――どうして、貴女は、


 ――そんな風に、笑っていられるのですか……?


 聖女様の裁判が終了した後、俺は謹慎処分を受けた。

 本来なら裁判を割り込んだ時点で、捕縛されても不思議ではなかった。


 しかし、そうはならなかった。


 聖女様が進言して下さったおかげだと、後になって知った。


 ――そして、現在。


 聖女様は今もなお、あの教会で繋がれ、罪を償っている。

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