第3話 君のだいたい前世

 次は俺のターンだ。 


「お前らはケータイ会社の都合で無駄に金払ってることも知らないだろうな? 大手キャリアは安い安いとサービスやポイント還元を押し売りするが、そのせいで、たいして使いもしないオプションばかり付けられ、ギガの容量は少ない。逆に大して使わないのに料金に見合わない、ギガ数の多いプランを押し付けられて容量は無駄に残る」


 俺は少しでもスマホを安く抑え、小遣いを手元に残すようにやりくりしている。

 だからSIMシムフリーについては学校の全生徒よりも詳しいと、自負しているのだ。


「乗り換えキャンペーンで金やポイントの還元還元と謳っているが、実際に還元されるのは変に細かい条件をクリアした奴だけだ」


 令嬢の永流を取り巻くブス二人は、まくしたてる俺の話に急に動揺し始めた。


「だいたい、なんで大手キャリアが高いか知ってるか? 通話料、ネット通信、その他諸々、どこの会社も値下げ競争してるのに頑として下げない物がある」


 さすが大手企業の令嬢様はこれくらいでは怯まない。

 こっちをトラのように威嚇して「言ってみなさいよ」と煽る。


「スマホに内蔵されたSIMシムカードだ。SIMカードだけで五千円も金がかけられてんだ。電波の使用料らしいが連中はソレにかこつけて金をせしめる、お前らのようなブランドばかり重要視しているヤツらは、そんなことも知らないで金を吸い上げられている。どっちが欠陥だろうな?」


 俺は永流が黙ったスキに左右につっ立ってるブス共へ質問した。


「お前は月の携帯料金はいくらだ? 猪八戒ちょはっかい


「い、一万円くらい……」


「そっちのお前は? ガイコツ」


「一万五千円くらいかな?」


「SIMフリーならその五〇%から七〇%くらいの安い料金で同じくらいの通話料と容量が使える。携帯料金が高い? もっと値下げしろ? 探せば安いケータイ会社はどこにでもある。お前ら金持ちの狭い心が、見る世界を縮めてるんだよ!」


 最後の売り文句を言い終えると始業のチャイムが鳴った。

 風紀委員が授業に遅れるのは本末転倒とばかりに、令嬢の永流は苦し紛れの捨てセリフを吐いて立ち去る。


「こ、これだから使用料の為にバイトしてる貧乏人は下劣なのよ!」


「「愛がないならお金ちょうだい!」」


 俺は連中の背中を見送ると、深呼吸をして困難を乗り越えたことを噛みしめる。 


 勝った。

 だが次は勝利できるか解らない。

 俺の戦いはこれからだ。


 風紀委員長の永流が突っかかるのは、俺の黒人の見た目や貧乏人以外にも、過去に因縁があったからだ。


 それは、さかのぼること――――。


###


 時は鳴くよウグイス平安京。

 京の都が創られるも激しい権力争いが絶えなかった頃。

 

 宮中に使える平民出の武士、角安須かくやす魔保まほの丿左衛門さえもんは、宮城の皇子女こと津雨家丿つーかーのみや様へ禁断の思いを寄せていたのでありまする。


「なりませぬ〜」


「なぜゆえか? 私はこれほど宮様を好いております!」


「なりませぬ〜」


「我らには通じ合う心がない言われるのですか!?」


「アナタ様のお気持ち、その電波を痛く受信しておりまする〜」


###


 違った。

 さかのぼり過ぎた。


 どうして俺が前世の記憶を持ってるかは、今は置いとくとして、話は一週間前にさかのぼる。

 

 一週間前。

 教室にいづらい俺は格安スマホでも電波の入りやすい屋上で、スポンペェから曲をダウンロードしてボロカロを聴いていた。


 いつものように昼休みが終わるまで姿を隠していると、あの悪役令嬢が現れる。

 その様子を俺は給水塔の上から見ていた。


 どうして俺がわざわざ給水塔の上にいたかって?

 ――――ワイルドだろ?

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