第2話 悪役令嬢

 IT革命からのAI革新。

 元号が平成からジャンプして【恋和れんわ】に変わると、世界は二つに別れた。

 "勝ち組"と"負け組"。


 大人は高額歴と低学歴、正規雇用と非正規雇用に別れ分けられる。

 俺達十代には大人の話なんて関係ないと思っていたが、小学校から中学校へ上がると大人の世界へ確実に歩みを進めていたことが、理解できた。


 俺達の二つの世界。

 "キャリア"と"ノンキャリア"だ。

 勉強、部活、防犯、恋和世代の学生は、いろいろな理由からスマートフォンを親から持たされる。

 金の持ちの家は料金が高くて通信速度が安定しサービス豊富なキャリア携帯。

 大手キャリアはステータスを上げるブランドだ。


 その反対に大手の足元で粛々と知名度を広めるキャリア。

 ネット界隈のスラングでノンキャリアと言われるようになった。

 貧乏な家は安く使えるが不安定な通信速度と、限られたサービスしかないノンキャリア携帯。


 今の十代はスマホが"格差"の温床なわけだ。


 俺が格安スマホを使っているのはクラスの連中は知ってる。

 このクラスの大手キャリア率は八割を占めている。

 それがあって俺は白い目の対象で息苦しさを感じていた。


 俺自体は元々勉強は真面目にやる方だが、こんな差別ばかりが横行する学校じゃ、やる気もなえてくる。

 根が腐ってるから不良なのか? それとも環境が人を腐らせ不良になるのか? どこかで、朝まで、生で議論してほしいもんだ。

 いっそ校内で問題を起こして退学処分でもいいが、学校へ通わせてる親に悪いから、この腐った環境に耐えるしかない。

 だが、それとは別に通学する目的もあるのだが……。


 適当に廊下を歩いて、寸暇の休憩時間が終わりへ近づくと教室に戻る。

 だが面倒事とは普通と平穏の間に割って入り込むものだ。

 

 授業に向けてスマホの電源を落としたが、電源が落ちる音が廊下に響くと、それを嗅ぎつけた犬のように群がる集団が現れる。


「あら~? ノイズが聞こえて不愉快だと思ったら、格安スマホの音だったのね?」


 こっちの導線を阻む女子。

 リーダー格の女子と取り巻き二人の女子は、デルタフォーメーションを作り俺へ立ち塞がった。

 取り巻きはリーダー格と比べると、なかなかのブス二人。


「SIMフリーを使う人って、どこか人として欠陥があるわよね? そもそも使用料の為にアルバイトしてるなんてありえないわ。ホント、安いスマホなんて豚に真珠よ」


「「世の中お金が全てよ!」」


「それにSIMフリーって月末と月の初めになると通信速度が低下して、自由フリーって言いながら何も出来なくなるのだもの。嫌だわ。おまけに基地局が混雑すると回線から弾かれるわけでしょ? 格安スマホを使う人種は人生も電波も負けなのよ」


「「自由なんて名ばかりよ!」」


「ノンキャリアなんて学校の風紀を乱すウィルスね」


「「このウィルスミス!」」


 脇の二人のハモリが神経を逆撫でしやがる。


 格安スマホ、家が貧乏、肌が黒い、俺の全てをディスりやがるこの女。

 リーダー格の女子は校内の風紀委員長にして、社長令嬢の【飯嶋いいじま永流える


 その顔立ちは、命を与えた神様のバランス感覚に、敬服したいほど均整が取れている。

 腰まで届く黒髪は光を受けると天の川銀河かのように美しく、ひと目で清楚だと思わせてしまう説得力があり、少し吊り上がった威圧的な目は愛らしい小猫の瞳のようにも見えてしまう。

 中分けした前髪から見せる顔なんて、教会でベールを開いた花嫁とさえ見えてしまう美少女。


 神がかった容姿には奇跡的なスペックが伴うようで、彼女は日本最大手の家具メーカー『イイジマ家具』のお嬢様。

 家の広さは東京ドームと同等の大きさだ。


 その恵まれた容姿に生い立ちで人生を謳歌する人物は、どんな聖人なのかと興味をそそるが、家の屋敷は広いのに、その性格ときたら壁に寄せたタンスの裏よりも狭い。


 よく聞く悪役令嬢ってやつだ。


 強きを助けて弱きをくじく。

 傍若無人でワガママ三昧。

 一度口を開けば円周率を上回るほどの罵詈雑言。


 そしてこの容姿とは真反対の性格ブスの風紀委員長が、毎度吊し上げのターゲットにするのが、俺だ。


 まともに取り合うと面倒なので、なるべくコイツのことはスルーしようと努めていたが、今日の俺は機嫌が悪い。


 なぜなら俺が敬愛する大ファンのアイドル、瀬留せるらんちゃんがメディアで理不尽な扱いをされたからだ。


「豚に真珠。物の価値が理解出来ない意味のことわざだ……まるで、お前らのような豚娘のようにな?」

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