SIM《シム》ジェネレーション ~格安スマホから始まる格差恋愛~
にのい・しち
第1話 キャリアとノンキャリア
この世界は二種類の人間しかいない。
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俺の通う高校ではある話題が持ち切りだ。
休み時間になるとクラスの男子は、一人の生徒が取り出したスマホへ群がった。
ネットから拾ったあるニュース動画のボリュームを、他の奴らへ聞こえるように上げる。
動画のアナウンサーは興奮したよう説明した。
『あの十代に圧倒的な人気のアイドル。
厳しい口調で質問する男記者と、愛らしいが涙声でそれに答える女のやり取りが動画から流れた。
『今回、格安スマホを愛用していることを隠し、大手キャリアのCMに出演した事実を認めるのですね?』
『は、はい……大手キャリア様への憧れが捨てきれなくて、CMの仕事をお引き受けしました』
『ファンの皆さんを裏切ったことについて、何か一言ありますか?』
『この度は
動画を見たニキビ顔のむさ苦しい野郎は、世界の終わりを知ったように脱力して言う。
「ショック~。俺このアイドルのライブも見に行ったのに」
一方では女子が一つの机にむらがってグループを作り、別のニュース動画を見ていた。
アナウンサーが脈絡の無い言い回しで説明した。
『あの人気急上昇のイケメン俳優、
これもまた厳しめに記者が質問を投げ、爽やかだがトーン低めで今にも潰れてしまいそうな声で、男が答えるやり取りが聞こえた。
『大手キャリアのスマホを使いながら格安スマホを使っていますが、これについてどう思われますか?』
『え〜……一応、仕事用とプライベート用で分けていまして』
『格安スマホはどちらの用途で使ってますか?』
『プライベートで使っています』
『大手の携帯料金は事務所の経費。格安スマホは自分の財布。セコいですね? 大手キャリアを使いながらノンキャリアのスマホを使っている。これ、浮気だと思いませんか?』
『え〜、それは……思います』
『明らかな不倫ですよね? ファンの方に謝罪する気持ちはありますか?』
『あります……この度は大手キャリア様のスマホを使いながら格安スマホを愛人のように利用していたことを、深くお詫びいたします』
清楚感を装った女子がうなだれながら言う。
「あ〜ぁ、私、
クラスの女子から次々とつたない言葉が飛び交う。
「SIMフリーって貧乏くさくてダサいよね~」「格安スマホ使うくらいならアタシ死ぬわ~」「マジ、
【SIMフリー】
正確には"
頭文字を取って【MVNO】
ゲーム狂からすると新バージョンのMMORPGと誤解するかもしれないが、日本には大手キャリアと呼ばる携帯電話会社が四つ存在する。
各会社は規定にそう通信基地局を割り当てられ、尚かつ独自の通話サービスを提供している。
簡単に言うとMVNOとは、大手キャリアが使っている基地局を間借りする形で電話サービスを提供しているのだ。
スキ間産業とはよく言ったもんだが、当然、大手の基地局を間借りしているから、その会社が提供するサービスには限界がある。
クラスの視線がニュース動画から俺に注力されるのが感じられた。
ヒソヒソ話を装い他人へ聞こえるか聞こえないかの、攻めたディスりが耳へ入る。
ある女子は「そういえばアイツ、格安スマホだよね? キモくない?」とグループの同意を求め、ある男子は「家が貧乏なんだろ? 俺だったら生きてるの恥ずかしいわ〜」と哀れむふりで否定する。
俺こと高校一年の【
避難するように教室を出た。
ことあるごとにクラスの中傷の
自分でも難儀な風貌だと卑下している。
俺の母親はコンゴ出身のアフリカ系の黒人。
日本人の父親と結婚し俺が誕生した訳だが、そのアフリカ系の血を流々と受け継いじまった。
髪は天パで口は黒いタラコのように膨れ、肌は焼けコゲた肉のように真っ黒。
どうみても日本人には見えない黒人だ。
だが日本育ちの為に海外の言葉は一切喋れない。
見た目は黒人、頭脳は純粋な日本人だ。
しかもクラスメイトの中でも身長が高くガタイもしっかりしているせいか、学校の不良や街のヤンキーによく絡まれる。
歩いているだけで「気に食わない」だの「態度がデカイ」だの「オバマ大統領の偽物」と目をつけられる訳だ。
我ながら不憫、不運、不毛。
俺自身は争いは嫌いだし真面目に勉強に励む、物静かなタイプだというのに。
絡まれた時は無難に謝りやり過ごす。
それに輪をかけてノンキャリアときた。
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