ベストエイト
vs グリーンデイズ戦
第07話 ソウタ vs ゴロウ・イワサキ #1
俺は闘技場に進み出る。燦々と降り注ぐ太陽の光と、地鳴りのような歓声。
そのすべてを吹き飛ばすように、実況の声が空間を満たす。
《さぁ、ベストエイトの第一回戦!トーナメントも開示され、闘技者の顔合わせも完了ッ!ここからは手の内がすべて白日の下に晒されるッッ!》
そうなの?
俺は観客席を見渡してみる。
最初に見つけたのは、遠くからも目立つ金色のドラゴン――「バハムート百式」の姿だ。巨体を折り曲げ、おとなしく闘技場の最前列に収まる姿はどこか可愛らしさを感じる。
その対戦相手である、<悪役令嬢>クレア・エル・リヒテンシュタイン。
チート同士の戦いを繰り広げるであろう、カミカゼと皇女テセウス。
<雷神>トールヴィッヒは、割り当てられたであろう座席の上で宙に浮いている。
ちょこんと椅子に腰掛けているが、瞳に何も映していない女の子、<魔王>スウィーティー。
どうやら闘技者たちはそれぞれ、円形の観客席の最前列に均等な間隔を開けて観戦しているようだった。
《第一回戦を戦うのは、ソウタ!場内に爆笑をもたらした【空気が読める】スキルを引っ下げて戦いに挑む!》
闘技場の上空に俺のステータスが表示される。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
転生名: ソウタ
転生スキル: 【空気が読める】
転生先世界: 『せっかく死んだのに勝手に最弱スキルの<空気が読める>で転生させられて、潜り込んだ勇者パーティーからも追放された件について 〜パーティーがギスギスして困るから戻ってこいと言われても、お一人様を極めて生きるのでもう知りません〜』
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ねぇこれ毎回表示されんの?ねえ」
何かのプレイなのか?やっぱり観客がちらほら失笑してるんだけど。
《対するはゴロウ・イワサキ!!初戦ではスキル【
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
転生名: ゴロウ・イワサキ
転生スキル: 【
転生先世界: 『転生教師のボタニカルライフ 〜チート級の植物操作スキルを駆使して、田舎でのんびり植物園運営〜』
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
俺は、闘技場の正反対に立つ大柄な男――ゴロウ・イワサキと視線をぶつける。
見るだけで相手に威圧感を与える体格だが、その視線から不思議と暴力性は感じない。どちらかと言うと「気は優しくて力持ち」系というか。着ている白衣もその印象を引き立てているような気もする。
初戦で戦った……<神殺し>ユートのような、いかにも「戦闘向き」の服装には見えない。まぁそれを言えば、俺も学生服を着ているわけだが。
そして、先程ステータスに表示された『転生教師のボタニカルライフ』というタイトル、じゃなくて、転生先世界。そこから察するに、どうやら生前は教師だったらしい。場違いな白衣はその名残りといったところか。
(頭脳戦……とも言ってたな。一体、どういう手で来るつもりか……)
とはいえ俺の場合、遠距離攻撃の手段がないから、相手がどんな手で来ようと接近しないと始まらない。
実況の声が響き渡り、戦いの幕を上げる。
《それでは、
◆
俺はゴロウに向かって
相手がどういう手で来ようが、不本意ながら俺のスキルは【空気が読める】しかない。持っている手札で戦うしかない以上、戦闘に関して丸腰に等しい俺は、とにかく距離を詰めなければ戦いにもならないからだ。
距離を詰めるまでの間に攻撃が来たら、スキルを使って回避する。対ユート戦と同じ戦略だ。まぁ、ぶっちゃけこの【空気が読める】スキルの発動条件はよくわかっていないんだが。
と、ゴロウは体をかがめて、地に手を付いた。疑問に思う間もなく。地面から、ありえない速度で何本もの蔦が伸びる。
《出たーッ!【
その蔦はまるで生き物のようにのたうち、四方八方から俺に襲いかかった。足払いしようとするもの、鞭のように勢いよく身体を打ってくるもの、首を絡め取ろうとするもの。俺は四方から飛んでくる蔦を避けるだけで精一杯になった。
(こいつは……初戦の【
あの大剣の破壊力は確かに桁外れだったが、後から振り返ってみると、俺にとっては好都合な相手だった。ユート自身の剣術自体は素人レベルで、剣をどう振るかを見ていればタイミングや被弾エリアを読むこともできたからだ。
それに対してゴロウの【
《ゴロウの操る蔦が次々とソウタを襲うッ!近付けないぃぃぃッッ!》
煽る実況。沸く会場。
実況の言う通りになるのは
(くそっ……)
と、回避を続けるうちに、俺は同時に攻撃してくる蔦の数に上限があることに気が付いた。たとえば何千本もの蔦で一斉に襲いかかったりすれば、どれだけすばしっこい人間でも押さえつけられるはずだ。でも、ゴロウはそうしない。
俺はそこに、何か妙な感触を覚えた。
回避に専念しながら、俺は蔦の猛攻に押されるフリをしてわざと場所を移動する。すると、距離の離れた蔦がしゅるしゅると地面に戻ってしまうのが見えた。代わりに俺の近くから新しい蔦が生え、俺を遅う。
1, 2, 3, 4...
――蔦の数は、十本。
これまで確認した限り、蔦の数は、同時に十本を超えることはない。俺は遠くからゴロウの姿を確認する。両手を地面につけて、緊張の面持ちでこちらを睨みつけている。
蔦は……ゴロウの十本の指に対応しているのか?
(だとしたら……)
俺はタイミングを見計らい、蔦の一本を掴み取った。
《おおっとォ!?ソウタ、猛攻を続けていたゴロウの蔦を捕まえたァァ!》
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