COMING WITH MARKET

エリー.ファー

COMING WITH MARKET

 何度も何度も夜が来て、何度も何度も朝が来た。

 そして、そこで多くのものが売れた。

 買ったり、売ったりそういう世界であるから、それはそうなのだろうが、店員にも店長にも客にもならない人たちからしたらそれは非常に異様な光景であったそうだ。

 何も売れていないし、何も買われていないのである。

 変わらない景色の中で良し悪しを決めることもできないし、それ故に大切なものも見失ってしまうかもしれない。本当はただ物が置かれているだけで、他の人たちが勝手に持って行ってしまっているのではないかと心配されたこともあった。

 安心と安全によって彩られた場所であることは間違いがないのだ。

 何故に、このような疑念を持たれるのか。

 買い物にとりつかれた人間しか来ない場所であるからして、多くの人はこのマーケットの存在にすら気づかない。何度かこの情報が出回ることがあったが、全くと言っていい程状況は変わらなかった。誰一人として、増えることもなく減ることもなく、ただいつもと変わらず淡々と物の売り買いは行われたのだ。

 ここまでの道のりは決して大変なものではなく、そのような物理的な意味で言えば何の問題もない。最も難関な点、それはやはり認知と言える。このマーケットで買えるものは限られているが、普通のマーケットで出回らないものばかりである。欲しいものがなければ、誰も買いに来ることはない。つまり、理由を持った人間だけがこのようにしてやってくるということなのである。

 

 この場所から少しだけ離れたところに、定食屋がある。

 一軒である。

 寂しい雰囲気を漂わせている。

 好きな人は、こういうところに惹かれるのだろうが、残念なことにそのような思いを持てるような寂れ具合ではない。

 異常である。

 かなり、異常なのである。

 まず、基本的に間違いが多い。

 注文を受けて料理を作り、出されてようやく気が付くレベルで間違いをする。

 すみません、お客さん、作るものを間違えてしまいました。

 そんな言葉が聞こえてくるが、その料理が普通に出てくる。

 我慢して食べろ、ということである。

 そんなことあるだろうか。

 ある訳がない。

 まともにストレスフリーに食事ができると思ってはいけないのだ。

 たまにマーケットに訪れた客も入って来るが、皆、こぞって注文をするのはとんかつ定食である。

 不思議なことにこの注文だけは絶対に間違えないのである。

 しかも、絶品である。

 ここのとんかつ定食を食べると他の店のとんかつ定食が食べられなくなるほどなのだ。

 だが、注意をして欲しいのは、あくまでとんかつ定食として素晴らしいのであって、とんかつが素晴らしいとか、味噌汁が素晴らしいとか、ご飯が素晴らしいとか、お漬物が素晴らしいとか、そういうことではないのだ。

 とんかつ定食として完璧であるということなのである。

 だから、ここのとんかつ定食よりも美味しいとんかつなど山のようにあるし、お味噌汁も、ご飯も、お漬物もここよりも美味しいものはいくらでもある。

 むしろ、お漬物に関して言うのであれば、かなり不味いとも言える。

 多くの感想が出てくることと思うが、マーケットに行った後は、ここのとんかつ定食を食べるのが普通なのだそうだ。

 皆、マーケットで仕入れたものをここで換金し、そのお金でとんかつ定食を食べるくらいなのだ。

 だから、皆、買ったりはするものの、それを自分のものにしたことはないのだ。

 皆、この定食屋の店主のものになるのだ。

 不思議ではない。

 等価交換ということなのである。

 

 誰も手に持っていないのに、置いていくのだ。

 等価交換ということなのだそうだ。

 私にはよく分からない。

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