第2話

「おい、なに言ってる。女なんてどこにもいないぞ」


そう言うとひろきが声を荒げて言った。


「おまえこそなに言ってるんだ。いるだろう、あそこに。見るからに気味の悪い女が」


ひろきはそう言ったが、どう見ても女なんていない。


見落としとかそういったことも、ありえない。


誰一人いないのだから。


どう返そうかと考えていると、ひろきがぽつりと言った。


「あの女、いなくなった。……急に」


外は少し寒いくらいなのに、ひろきは顔に大汗をかいていた。



学校に着くまでの間、けっこうもめた。


ひろきは絶対に女がいたと言い張り、俺は絶対に女なんていなかったと言い張った。


話は完全に平行線で、学校に着く頃にはお互いに無口になっていた。


普段なら休み時間は人一倍おしゃべりな俺とひろきだが、その日一日、なにも話しをしなかった。


まわりの同級生が怪訝な目で見るほどに、二人ともいつもと違っていた。



家に帰ってから、今朝のことを考えてみた。


一人が女を見たと言い、一人がなにも見ない。


そんなことがあるのだろうか。


ひろきが嘘を言っているのではとも思ったが、あの様子、雰囲気はとても嘘とは思えない。


だったらどちらかの頭がどうにかなったのだろうか。


ベッドの中でも考えたが、やはりわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る