第24話

 未だ眠ったままで、起きる様子の無いハニーを、柔らかい布で己の身体と離れぬよう括り、俺は人も疎らな食堂で遅くなった夜飯を摂っていた。


 腕の中に閉じ込めたまま、ハニーをベッドに寝かせていたが、腕の中から聞こえる寝息が心地よくいつの間にか俺も一緒に寝てしまっていた。俺が起きても変らず眠ったままのハニー、いつ目覚めてくれるのか、気がかりでならない。


 「お疲れ様っす〜」


 賑やかな声が静かな食堂の俺の耳に届いた。手を上げて応えた。


 「あー、あれからずっと眠ってるっすか?」


 少し声を落としたランバーが俺の向かいに腰を下ろした。


 「ああ、起きる様子が無い」


 「えっとですね〜一応今んとこの報告っすけどー、崖崩れに巻き込まれた二人ですがー、やっぱり薬師も怪我は無しって言ってたっす。そんでー少し前に無事二人とも気がついてー、カラダのどこも何とも無いっつーんで帰りましたっす。けどー、あの二匹が全然帰ろうとしなくてっすねー、今も騎士団のヴォールク達の寝床に居るっす」


 「そうか、怪我は無かったのか……信じられんな……」


 「実際現場に居たっすけど、未だにちょっと信じられないっすもんね〜、黒眼、黒髪の可愛子ちゃんは底知れないっすねー、あ!何で隠すんっすか〜!」


 「喧しい、お前に見られるとハニーが汚される気がする」


 「わぁお、番の独占欲、隊長にもあったんっすねぇ、やっと人の感情を持てたっすね〜!」


 「おい。ランバー俺を何だと思ってるんだ。お前には一度口の利き方を教えてやらねばと…」


 「あ!あ〜そういえば〜忘れてた事があったなーヤバイヤバイ、ではでは〜この辺で失礼するっす〜」


 はぁ……あいつは…。まぁ仕事は出来るやつだし、今回は助けられたからな、大目に見るか。全くしょうがないヤツだ……。


 無駄の無い動きで、そそくさと食堂を後にするランバーの後ろ姿にため息が零れた。視線が自然と下を向き、胸元に抱えている愛くるしい寝顔が俺の目に入った。いつ目を覚ましてくれるのか……心配だ。




 次の朝、目が覚めたがベッドの中、俺の腕中に収まっているハニーは昨夜の入眠時と変わらず、すやすや眠ったままだ。どうしたら良いのか……心配でたまらない。

 また布でしっかり己と固定してハニーを胸に抱き、そのまま薬師の元へ向かった。


 「朝早くからすまない、ルノタクテス。今すぐ診てもらいたいのだが」


 「おはようございます、ギルベルト隊長。どうされました?」


 「俺では無いのだが、昨日から眠ったままなんだ、診てもらいたい」


 「あぁ、こちらが例の……。崖崩れの時からずっと眠っている訳ですか?」


 「あぁ。朝になっても目覚めないので一度診察してもらえないだろうか」


 「えぇもちろん。それではこちらのベッドにどうぞ」


 「このまま抱いたままでも構わないだろうか、離せないので」


 「ん?どういう事でしょう?」


 「俺と離れると……」


 ハニーが離されまいと俺の服をギュッとつかんだ。グフッ、愛おしいっ。


 「ほぉ…。なるほど、興味深い。眠ってはいるが離されると分かるのか?どうやって……あ、あぁ、そのまま抱いたままで診察致しましょう。そのままベッドにどうぞ。んー、カラダにはどこにも怪我は無いのですよね?少々ランバーから聞きましたが、崖崩れの現場でとても不思議な事が起こったと。その事と関係しているとしか思えませんよねぇ」


 ルノタクテスはこの騎士団で長いこと薬師をしている、とても頼りになる腕の良い薬師だ。だが今回のハニーの容態についてはルノタクテスにも初めての事なのだろう。

 特殊な器具を用いてハニーの身体を隅々まで診察してくれている。


 「んー、今簡単に診察した様子では、何処にも気に掛かるところが見当たらないのですよね……何故この様に眠り続けるのでしょうか…。眠りから覚ます方が良いのか否か……んー。それはそうと、隊長殿、朝食は召し上がりましたか?」


 「いや、まだですが」


 「そうでしょうね。では召し上がられてからもう一度いらしてください。それまでに色々と準備を整えておきますので」


 「はぁ、では、また後程伺います」


 「はい、お待ちしています。あぁ、しっかりと普通に食事を摂って下さい。番殿は、今すぐどうこうなる様な容態では無いので、御心配でしょうが大丈夫ですよ」




 ひとまず安心できた。騎士団一の薬師がああ言うのだ、ハニーは大丈夫だ。大丈夫ならこのまま抱いていられる方が安心出来て、俺にとって嬉しくもある。

朝飯を食うとするか。



 



 


 

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