第23話
俺は何も出来ぬまま、ハニーの、クジョウレオの眠ってしまった身体を大事に大事に腕の中に閉じ込めておく事しか出来ない。
いったい何が起きたのか……頭が追い付かない。救護に来た連中全員が、あきらかに動揺している。
確か全部記憶が戻ったと言っていた。記憶が戻った事により本来持ってた力が放出されたのか……しかしこの様な事、未だに信じられん。
まず、天候を変えた。そしてヴォールクにもう一度命を与えた。いや違うのか?あれは生まれ変わらせたのか?解らない。ただ昨日見た二匹のヴォールクの姿がそのままここにある。
あの岩の下にあった物体は跡形も無く、そこにはもう何も残ってはいなかったのだ。
俺は実際目の前で見ていた。悲観に暮れるハニーを慰めながら見ていたのだ。だが未だ信じられない。それでも信じざるを得ない現実が今ここに存在している、息を吹き返した二匹のヴォールクがハニーの側を離れない。
「ギル隊長ー。とーりあえず今回見た事には箝口令を布いておきましたけどもー隊長の番ちゃんはーいったい何者っすかー。わぁお。それにしても実物の方がめっちゃ可愛子ちゃんっすねー」
「ああ。ランバー。すまん助かった。俺にも何が起こったのかさっぱりなんだが。とにかく怪我人も居るんだ早く戻るぞ」
「いやーあーの、それがっすねー。じいさんも息子さんも意識は無いんすけどー見たところ怪我はしてないようなんっすよねー。あんな崖崩れに巻き込まれてるんっすよ?あり得ないっすよーアハハハァ…どうしましょっかねーこの件の報告書。ちょーっと頭が痛いっすねー」
「なに?二人ともか?しっかり全身確認したのか!」
「そーっす二人とも怪我は無し。ボクも隊長とおーんなじ事聞いたっすからー俄には信じられないっすよねー」
俺が土砂から息子さんを引き出した時は、間違い無く頭から血を流していた。じいさんは全身に傷付いてあちこち出血していたはずだぞ!確かにこの目で見ている。
一体どういう事だ……。
信じられない事ばかりだ。
何が起こっている?この様な事あり得るのか?ハニーが関係しているとしか考えられ無い。夢だと言われた方が遥かに信じられる。
「とにかく一旦戻ろう。現場復旧は後日だ」
早く泥だらけのハニーを綺麗にして静かに寝かせてやりたい。
そして目が覚めてから、色々聞かせてもらおう。
そうするより他に無いしな。
救援に来た騎士達と共に帰る間、俺の腕の中でジェネシスにだいぶ揺られていたが、ハニーは全く起きる気配が無かった。余程深い眠りに落ちているのだろうか。このまま目を覚まさないのでは無いかと俺は心中穏やかではいられない。
報告書は後日だ。今の段階では報告できん。俺は久しぶりに再開する隊員達への挨拶もそこそこに、早急に解散してきた。
騎士団内寄宿寮の自分の部屋へと漸とハニーを連れ帰る事が出来た。
己もだが、早くハニーを綺麗にしてあげたい。
準備の為、一旦ベッドに寝かせようとしたのだが、俺の服しっかり掴んでハニーの手が離してくれない。グゥゥ。うれしい悲鳴だ。それではずっと抱いていようね、ハニー。
寝ているのを良いことに、俺も共に泥を流そう。抱いていればハニーは静かに寝ている。離れることが出来ないのだからやむを得まい。
ハニーの柔らかな素肌が、俺の肌に触れている。ハァァ柔らかい。ずっとこのまま触れていたい。ハニーの全身を堪能しながら綺麗にする。顔にも跳ねてしまっている泥を優しく湯で流す。全身となると、まあ、全身な訳なのだが……ハニー、は…慎ましく、可愛らしかった。
今だけは起きずにいてくれて助かった、愚息の醜態も今回はどうか見逃してもらいたい、何せ直に肌と肌が触れ合ってしまっては……こればかりは、もう我慢成らない!
小さな身体を全て優しく洗い流し、己はざっと素早く泥を落とした。布でカラダを拭く時も腕の中から下ろそうとすると、必死にしがみついて来るのだ。何とも嬉し過ぎる。愛しすぎる!グハッッ!
終始抱いたまま寝衣を着せ、抱いたままベッドに入る。ずっと、すやすや眠り続けている。いつまで眠るのだろうか。明日の朝には目覚めてくれるのだろうか……。ハニーへの心配が尽きない。
大丈夫、何があろうと離しはしないよ。ハニー。ずっと側に居るからね。
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