第20話

 朝起きたら、珍しく曇っている。


 今日は雨降るのかな?ずっと天気良かったけど、やっぱり雨も降るんだなぁ。


 あ。あの親子はもう出発するのか。


 今日ついにギルベルトの故郷ドラニクルに到着できる。夜になるのかな?1日あれば着くって言ってたけど、ずっと岩場と崖だと少し大変そうだよな。僕大丈夫かな……。また迷惑をかけたら申し訳ないな。とにかく頑張ろう。


 「今日は雨が降るかもしれないね……どうしよう、1日天気の様子を見て明日出発の方が良いか……」


 ギルベルトが悩んでいるみたい。僕が居るから悩んでいるんだろうな。これ以上到着が遅れるのは何となく申し訳ない。


 「おじいさん達はもう出発したみたいだし、雨降っても大丈夫じゃない?僕濡れたって平気だよ」




 出発して少しもしないうちに、やっぱり雨が降って来てしまった。強まったり、弱まったり。これはもう止みそうにない感じだ。


 まだお昼を食べた時は、簡易的に雨よけを作って食べられる位の雨だったけど。今は風も雨も強くなっておまけに少し寒い。僕はギルベルトのマントの中に仕舞われている。だいぶ快適になった。ギルベルトのおかげであったかい。


 ギルベルトが悩んでた位だったんだから、1日様子を見た方が良かったのかも。この辺は、一段と風が強く吹き付けてくる。雨粒も痛くて目が開けられない。


 その時まぶたの裏が明るくなった。なんだ?と思って目を開けたら、ゴロゴロゴロっと雷鳴が崖に響いた。一瞬ビクッとなってしまった。


 「ハニー大丈夫かい?」


 「うん平気。全然なんともないよ」


 とは言ったけど、雷も雨もどんどんひどくなってきて、これは少し怖いぞ。


 ただひたすら進んでいると、道の先におじいさんたちの荷車が見えてきた、追いついた!と思ったけど違ったみたい。

どうやら、車輪が動かなくなってしまっているようだ。

 困っている様子が見て取れて、手伝わなきゃ。と思っていたら


 ものすごい地響きがした。ドカーンという雷鳴。叩きつける雨。崩れ落ちる崖。

大きな岩がゴロゴロ転がってきた。おじいさん達が目の前で土砂崩れに巻き込まれた。圧倒的な力で崖の下へ押し流されていく。一瞬の出来事だった。


 僕たちは、ジェネシスが背後へ飛び退いたので間一髪避けられた様だった。


 大変だ!どうしよう!どうしよう!助けなきゃ。急いで助けなきゃ!早く!


 目の前で起きた出来事に、僕はパニックを起こしていた。心臓が痛いほどにドキドキしている、全身冷や汗でカラダの震えが止まらない……痛いほどの絶望感……息が苦しい……頭が……イタイ……頭が……


 突然頭の中に大量の映像が押し寄せてくる。忘れていた記憶が。感情が。一気に僕に襲いかかる……そっか……ボクは……そうだった……


 思い出した……僕が誰なのか……



ぜんぶ……おもいだした……



「どうした!しっかりしろ!ハニー!こっちを見て!ハニー!ハニー!」




 ギルベルトが何か言っているみたい……何?聞こえないよ?


 なんて言ってるのかな?焦った顔……めずらしいな……




 僕の記憶はそこで途切れた。




 次気がついた時には逞しいギルベルトの腕の中にしっかり抱え込まれていた。大好きな深碧の瞳。ずっと僕を見ていてくれたのかな……とても僕を安心させてくれる。少し潤んでしまっている瞳を僕も見つめ返す。


 


 「ギルベルト、僕、思い出したよ……全部思い出したんだ。九条玲央くじょうれお。僕の名前は九条玲央」


 




 




 


 

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