第18話

 数日一緒に過ごしただけだけど、ギルベルトが、とても良い人だという事がよく分かった。

 僕の事を一番に考えてくれて、無理のない様に、過保護過ぎるほど世話を焼いてくれる。

 僕はいったい誰なんだろう。何で砂漠に倒れてたんだろう。


 いくら考えても、何も思い出せない。自分の名前すら思い出せないなんて。頭を強くぶつけたとかかな?


 何も分からない僕と、番だからって一緒にいてくれてるけど。本当は、僕がすごく悪いやつだったらどうするんだろう。そしたらどうなるんだろう……。


 自分が自分でも分からなくて、この生活に慣れてきたから、少し余裕が出来て、色々と考えてしまうんだ。


 もしギルベルトに捨てられても一人で生きていけるかな?何か仕事をもらえるかな?住むところとか、どうなるんだろうな……。




 この頃、ハニーが何やら上の空な時がある、心配事でもあるのだろうか……全て話して欲しいのだが。もしや俺に何か不満でもあるのだろうか。それは大問題だ。

早急に解決せねば!


 今日はこの辺りまでしか進めない。ここを過ぎると崖や岩場が続きテントを張る場がなくなる、故にドラニクル国まで、休まず進まねばならなくなるのだ。まあハニーを伴っても一日あれば到着できるだろうが。

 行商人や、いずれの旅人にも最後の休憩地となる為、誰かしらと一緒になる事が多い。そんな場なのだ、また、奥には小さな湖がある。


 きっとハニーは喜悦してくれることと思うのだが……そして、憂事をさりげなく聞き出し解消せねばな。


 「ハニー今日はここでテントを張るよ、この先は休憩する場が無くなるから最後の宿泊地なんだ。湖もあって良いところなんだよ」


 「湖!泳げる?泳いでも良いのかな?楽しみだな」




 湖の近くにテントを張って、僕はもちろん水遊びだ!裸で泳ごうと思ったらギルベルトに止められたから、シャツとパンツは一応身につけて。


 いやーきもちいなー!プカプカ水面に浮かんでみる。空が青いなー。最高だなー!


 プカプカ浮かんで風景を楽しんでたら、木の上に真っ白な綿を見つけた。


(なんだあれ?)


 真っ白な綿が2つ。花?よーく見てみると、それぞれにつぶらな小さい黒い目が、ちょこんと付いている。小さな真っ白な綿に、小さな黒い粒が2つ並んでいて、全身がもこもこだ。可愛い!飼えるかな!つかまえてギルベルトに聞いてみよう!


 そおっと、音を立てないように木に近づいた、逃げないぞ。よし!そおっと、そおっと〜

 木にしがみつき、ゆっくり脅かさないように、枝をつかんでよじ登る。手を伸ばしてみる、あとちょっととどかない、あと少し……いけるかな?思いっきり手を伸ばす。もうちょっとでとどきそう……だ…ぞ……


 その時、真っ白もこもこが動いた。カラダの半分以上が急に真っ赤に変わった。

 

 え?

 

 最初は何が起きたのか分からなかった。

 口を開けたんだ。

 真っ赤な口の中にギザギザの歯がぎっしり。キバも鋭い……あんなに可愛かったのに、一瞬で豹変した姿にびっくりして、つかんでいた枝を離してしまった。


 目の前を黒い影が横切り、白いモコモコが消え去った。へ?

うわぁ〜落ちるー!


 「ハニー!!」


 焦った声にガシッと抱きとめられた。


一連の一瞬の出来事に、ぽかーんだ。




「……ありがとう…落っこちるとこ…だった……よ」







 


 




 

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