第12話

 ハニーはジェネシスに揺られながら、今はすやすやと眠っている。


 腹が満たされ、争え無かったのだろう。可愛いな。


 昼休憩後は、横抱きに座る方が良さそうだと分かり、お尻の下に柔らかいクッションも敷いて、無理なく乗れる様に整えた。

 そして一応、危なく無いよう、俺と紐で括っている。


 俺がハニーを危ない目に合わせるわけがないが、まあ一応だな。




 ハニーは記憶が無いと言っていた。


 自分が一番ショックを受けている様で、あまりにも見ていられなかったから、それ以上は何も聞いていないし、触れてもいない。


 俺もあまり深刻に考えていなかった、と言う所もあったが、街に出たら刺激を受けて思い出す可能性も考慮していた。


 だが、見る物全て初めて。という印象だった。


 街を歩く者たちの風貌に驚いて、建物に驚いて


 通信装置のルゴラも知らない様だっだな。一般にも出回ってはいるが、騎士団には、映像も映し出される、特別な機能が付いている物が支給されているのだが

 

 部屋を開けたら、目に飛び込んできたあのポカン顔!


 ランバーに見せるのが惜しくて、思わず抱きしめていたのはしょうがない。


 ヴォールクという生き物も知らなかった様だ。乗った事も無さそうだ。もともとヴォールクは人間に従う様な生き物では無い。

 

 気に入ってもらい、気を許してもらい、信頼し合える関係が築けて、やっとパートナーと認められるのだ。


 高潔で強い。時には一緒に戦う。ジェネシスはそんな相棒だ。

 

 他にも、荷車を引いたりなど、色々な所でヴォールクは、生活を助けてくれている。


 俺の相棒ジェネシスは、そんなヴォールクの中でも、気難しく、他の奴らには見向きもしなかった。

 俺ですら、じっくり関係を築いて、今の様な関係になれるまで、長いこと忍耐力を試された。


 だが。ハニーは出会った瞬間、ジェネシスの庇護下に置かれた様だった。


 ジェネシスが尻尾を振る姿など、初めて目にした。ましてや顔を舐めるなど……驚愕な出来事だ。

 実際に自分の目で見ていなければ、間違いなく俺も信じないだろう。




 ハニーは、ケルフランクに住んでおり、何らかの事件に巻き込まれ、攫われ、砂漠に捨てられた。

 そんな訳では無さそうだ。


 数々の不思議な状況。それに加え、昔々の、子供騙しの神話でしか聞いたことの無い黒眼、黒髪に、思わず過保護になってしまう程の華奢な身体つき。


 これはいったい。どういう事なのだろう。


 俺の番は、何を背負っているのか……。


 ハニーは、ジェネシスさえ魅了してしまう。


 と言う事だけが、解った新たな事実だ。


 


 ケルフランクの銘菓も、ハニーは食べた事が無かった様だったな。俺の睨んだ通りだ。

 期待して、狙っていた通りの場面が、目の前で繰り広げられた!


 濃厚な甘い蜜がアゴを伝い、ウデを這う……。


 美味しく頂くより他に何が有ろうか!


 今も尚、舌に残るあの肌の感触……。


 ラッキースケベバンザイ!!


 俺も又、新たにハニーに魅了されてしまった様だな!

 

 罪なハニーよ。


 

 





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