第4話

 次の日、自然と目が覚めた。


 まだ身体が怠くて動く気にはなれないが、

見覚えの無い天井に、周りを確認しようとヨロヨロと動こうとした所、直ぐに横からの腕が優しく起こしてくれ、そのまま背中を支えてくれている。


 (……だれ?)


 首を動かして確かめるより先に、大きな手が優しく右の頬に触れ、眩しい笑顔の金髪の男に顔をのぞかれた。


 目をぱちくりさせ、じっと顔を見つめてくる男の目を見つめ返した。


 胸の奥の方が甘く痺れる。


 (……なんだ……こ…れ……)


 目の前が滲む。優しい指が頬を撫でている。反対側の頬にチュッチュッとキスを何度もされている。なぜなのか分からない涙が流れていた。心の底から溢れ出して来るようで、自分でも気づいていないが、自然と溢れて来るのだ。

 男の手が、優しく涙を拭う。チュッチュッと顔中にキスを降らせてくる。

 知らない男なのに、この男の手は自分を安心させ、キスは心を満たした。


 「あなたは……だれ……ここ…は……」


 やっと思っていた事が言葉になった。


 


 (ん?起きたのか?起きる時には側に在りたかったから良かった。この様に小さな身体で何日も高熱に魘され辛かっただろう)


 小さく頼りない背中を片手で支えながら、我慢出来ずに顔を覗き込む。

 

 (早く貴方の瞳に映して欲しい……)


 ギルベルトも知らなかった自分が、番を渇望し、二度と離すまいと、血を滾らせる。


 抑えなければ、と分かってはいるのだが、

黒い瞳に魅せられてしまっては、もうダメだった。


 (俺の番。ずっと探していた俺の番。なぜ泣くのだ……涙も甘いのだな。あぁ。甘く芳しい香りが強くなった。我の番よ……愛おしい……愛おしい……狂ってしまいそうだ……あぁ……食べ尽くしてしまいたい……)


 危ない方に走り過ぎていたギルベルトの思考を、涼やかな声が一瞬で引き戻した。


 


 (危なかった……まだ鍛錬が足りぬな)


 爽やかな笑顔を取り繕ったはいいが、決してしくじってはならない。と、何度も脳内で繰り返してきた自己紹介は1つも役に立たずに


 「俺は、ギルベルト アドマイアだ」


 とただただ名前を伝えるだけの物にしかならなかった。


 番の前では只の残念な男になってしまうギルベルトであった。




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