第47話
妖怪達が立ち去り、庭に残ったのはレオナルドとキャロル、住み着いているジャバウォックだけ。
ジャバウォックとキャロルが庭で戯れている中、レオナルドはフレンドチャットを眺める。
ルイスからの返事を見たり、つい最近フレンド登録したサクラから「さっさとしないと私が先に賢者になっちゃうもんね~」とメッセージが届ていた。
サクラを含めた、魔法使い系はラザールが見せた魔石関連の情報が出回ってから『賢者』に昇格したプレイヤーが続出。
昇格条件の一つが『第五魔法の魔石の作製』。
DEXが高いプレイヤーや現実リアルの器用さが高いプレイヤーは余裕らしい。
レオナルドには分からないが、魔石作製も独特な仕様があるようで、コツを掴めないと難しいようだ。
ギルドで魔石作製に明け暮れていたサクラは、第四魔法の魔石を作製できるようになった。
本当にあと、もう一歩だろう。
レオナルドはチャットでサクラに伝えた。
『俺もメインクエストクリアすればジョブ3になるぞ』
『てか、何で夏のメインクエストクリアしてないの? 意味分かんない~!』
『春の方からクリアしたからなぁ』
『ふつー夏の方が先なの!』
『だよなぁ。あと、ホノカの方はどうだ?』
『武闘家の条件、難し過ぎるの! レオも運営に文句言って!!』
『そっか。調べた見たけど、かなり曖昧過ぎるよなぁ。あれ』
格闘家系のジョブ3『武闘家』。
ひっそりと昇格を果たした、あるギルドマスターの情報を聞くに『拳闘士』で習得する『諸行無常』と呼ばれるスキル。
スキル発動と共に流れるBGMで歌われる『長唄』の内容を理解し、演舞をすれば『武闘家』に昇格できたという。
ホノカ以外のプレイヤーも苦戦していると聞くので、いつか修正される筈だ。
レオナルドが『分かった』とサクラにメッセージを送ると。
次にムサシからメッセージが届く。
『今日中に茜をジョブ3にしろ』
茜が作製できるランクの武器では冬エリアの妖怪を相手にできず、攻略がストップ状態のムサシ。
わざわざ、レオナルドに対し釘を刺してくる。
ムサシがやる事なく退屈していると気づいたレオナルドはメッセージを送った。
『どんな武器作って貰おうとか考えてるか?』
『斬れれば何でもいい』
『うーん。取り合えず、素材集めに行こうぜ。カタナってスゲー素材必要だし』
『食材のついでに集めてある』
『じゃあ、詩織のレベル上げとかどうだ? 俺もキャロルのレベル上げしてる最中だ』
『暇つぶしにしてくる』
どうせなら一緒にと思ったが、ムサシにはムサシのペースがあると理解し。
レオナルドは『俺もキャロルと一緒に強くなるぞ~』と意気込みまがいのメッセージを残す。
将来的に『祓魔師』はペットが必須。
今日までも、キャロルのスキル獲得やレベル上げを地道に積み重ねていたレオナルド。
全て、夏季バトルロイヤルに向けた。
………否、カサブランカとの対決に向けた準備である。
すると、次はアルセーヌからメッセージが届く。
アルセーヌこと遠藤は、レオナルドが知る限りでは単位が危ういので大人しく講義に参加している筈。
『よう、相棒。ムサシの動画見て気になってさ。昨日、トラブルでもあった?』
恐らく彼は、生配信の方ではなく、ムサシが編集した動画を視聴したのだろう。
ワンダーラビットの宣伝終了後に、全季の剣士が介入してきた場面をムサシが全てカットした。
不自然な編集だから、アルセーヌはトラブルが合ったのかと心配している。
やれやれとレオナルドは、事の顛末を教えた。
事情を把握したアルセーヌは、このようなメッセージを送った。
『そいつ、また相棒ん所に来るかもな』
『え? なんで』
『都合のいい善人だからに決まってんじゃん。聡い奴なら適当な理由つけてフレンド登録してくるぜ』
『うーん。それって料理目的?』
『料理目的』
『ルイスの料理が美味い保証なんてねえだろ?』
『保証無くても知る必要はあるだろうな? なんたって、この界隈にプロは殆どいない。ソイツの舌を満足させる店が、ほんの一握りもないなら、必然的に戻ってくる』
自身で味を確かめていない店を偏見で不味いと判断しない姿勢は、褒められるべきだ。
しかし、変な輩に付きまとわれるのは、ルイスが忌み嫌う。
レオナルドも悩めるが『相棒なら何とかできるだろ?』とアルセーヌはメッセージを残した。
「ふぉんふぉんふぉん?」
ジャバウォックがサイレン音を真似ているのを聞いて、レオナルドは顔を上げる。
生垣越しの向こう側に、細目の剣士の姿があった。
初期装備に初期衣装のまま、目立ち過ぎる存在感を隠しきれない彼を、ジャバウォックとキャロルが生垣越しから監視する。
細目の剣士は、レオナルドに手を振り話しかけて来た。
「昨日はどうも。すんませんでした」
内心、警戒心を抱きながらレオナルドは申し訳ない態度で伝える。
「こちらこそ。あの、今日はルイスがいないので料理の件は……」
「あ~~~ちゃうちゃう。フツーに、ゲームの話しにきました。あれ。何から始めたらいいんです? マルチとメイン、どっち選べばいいんです??」
「えっと……剣士は確か」
レオナルドは剣士系のプレイヤー・マーティンから、剣士の長所短所を教えて貰ったので、彼にアドバイスしようと思案した。
「ちょっと待って下さい」とレオナルドが一旦、庭から春エリアの町に転移。
NPCの武器屋から適当に剣を複数本、砥石を数個購入。
庭に戻り、細目の剣士へそれをプレゼントで送った。
細目だが驚いた表情を作・る・男が、わざとらしい声色で話す。
「申し訳ないですわぁ。貰ってええんです?」
「むしろ、持ってないと大変です。俺、剣豪の知り合いから教えて貰ったんですけど、剣士系って武器が壊れやすいんですよ」
「あら。使いやすい聞いて選んだのに、そらまた……てか、武器壊れてしまう?」
「耐久度ってのがあって……剣士はとにかく敵に攻撃しまくらないと駄目で。攻撃したらしたで武器が摩耗するんです」
詳しくは剣士系の戦闘スタイルに関係するが、総合的に武器の摩耗が激しいのは剣士。
剣士は、武器を複数所有することから本番とまで言われているほど。
砥石の重要性も伝え、更に重要な事をレオナルドは教えた。
「あと鍛冶師です。お世話になる鍛冶師を見つけることが最優先って聞いてます。どのジョブも鍛冶師の世話になりますけど、剣士はほぼ毎日通うレベルらしいです」
「は~……成程」
「えっと、クエストはメインクエストから始めた方がいいです。敵が弱いので」
関心気味に細目の剣士が反応してくれるが、一方で不安そうにこんな事を漏らす。
「ああ、でも自分。バーチャルやるの初めてなんですわ。リアルな感覚で戦うのコワない?」
「………」
レオナルドの傍らで、キャロルが意味深に「う~」と音鳴らす。
間を開け、レオナルドは真顔で尋ねた。
「俺も一緒に行きましょうか」
細目の剣士はパァッと明るくなって上機嫌に喋る。
「ホンマ!? でも最初の方だけでええです! 自分、最初緊張してしまうんです。乗れたら勢いで行けるんで。それに、レオナルドさんもこの後、用ありますでしょ?」
「夜までなら暇です」
「ああ、そう? いや~ありがとうございますぅ」
胡散臭い細目の剣士――『光樹』は、わざとらしい笑顔を取り繕っていた。
★
春エリアのメインクエスト一面。
陽気な空気と小川のせせらぎ、遠くにある桜並木……そういった光景をレオナルドは久方ぶりに見た。
足を運んだのは最初にパーティを組んで挑んだログイン初日以来。
今日はペットのキャロル、剣士の光樹みつきが同行しているだけ、違う。
アルセーヌ(遠藤)から警告されたにも関わらず、レオナルドが光樹と共にパーティを組んだのには理由がある。
だが、今は戦闘に集中しなければならなかった。
脛すねをこすってくるだけのモルモットに近い小動物の妖怪『すねこすり』。
メジャーな傘の妖怪『化け傘』。
提灯の妖怪『提灯お化け』。
序盤なので、初心者が倒せる簡易な攻撃パターンをする妖怪ばかりが出現する。
光樹の動作は、演技とは思えない正真正銘、初心者のそれだった。
レオナルドが見ても無駄な振りが多い。
ただ、回避は上手かった。
機敏ではないが、ちゃんと攻撃を見抜いて回避できている。光樹は、何かスポーツをやっているかもしれない。
順調に妖怪を倒し続けると、光樹がふと動きを止めて言った。
「お、なんや。スキル覚えた出とるよ?」
ついにか。
レオナルドが剣士特有のスキルについて説明する。
「『コスモスラッシュ』って技ですよね。メニュー画面を開いて、ステータスのところ出したら確認できます」
「ふんふん……えー、何々? コンボフィニッシュが出来なくなる?? ん? 最後にドーンってのなくなってええんです?」
「最後のコンボフィニッシュって、硬直しますよね。アレが隙になってダメージを受けるデメリットもあるんです。そうじゃなくても、コンボが嫌いって人もいます。自由に動けた方が臨機応変に対応できますから」
「はぁ~~そうなんですなぁ」
「ちょっとスキルを使ってみて下さい」
「どうするんです? 漫画みたいに口に出すんです?? 恥ずかしいわぁ~」
「頭で思い浮かべるだけでも大丈夫ですよ」
「え~? ホンマに??」
冗談半分に光樹がやってみると、彼の持つ剣が独特の光に包まれる。
すると、光樹はオーバーリアクションで驚いた。
「うわっ! え、怖っ! ホンマにできたわ!! どうなっとるん?!」
彼の反応に、レオナルドが困惑気味に「大丈夫ですか?」と尋ねる。
バーチャル経験が少ないと自称していた光樹は、驚きつつ興奮気味に喋った。
「いやぁ、これ怖ない?! レオナルドさん! 自分ら頭ン中、覗き込まれてるんです? そないな情報、ゲーム会社如きが管理するの怖いわぁ。こんなん誰かに悪用されますやん!!」
と、ユニークな視点から恐怖を煽ってくる光樹。
レオナルドも、VR技術に詳しくないし、ひょっとしたら彼の言う通り、脳内を監視されてるのかもしれないが、彼なりの考えを真顔で告げる。
「そういうの実現できたら、世界はもっと平和になってるんじゃないですかね」
むしろ。現実で運用できるのならVRMMOではなく、監視システムに搭載している筈だろう。
レオナルドの意見をジョークと受け止めたのか。
光樹は細目をいつになく見開いて、ケラケラ笑う。
「そらそうや! まーそないな監視社会、自分らの国は受け入れないでしょうけど」
「……えっと。光樹さんの視点で、変なゲージが出てますよね」
「ん? ああ、なんか出とるなぁ」
「スキルが発動してる時、妖怪に攻撃するとゲージが溜まっていって。満タンになったら必殺技が発動できるんです」
「ふんふん……せやから、攻撃しまくる必要あるんやな」
「必殺技はスキル発動中なら任意で発動できます」
『コスモスラッシュ』の場合は、プレイヤーを中心に星の濁流が駆け回る範囲攻撃『ミルキーウェイ』が発動する。
必殺技に無邪気な子供っぽい反応する光樹に、レオナルドが確認した。
「武器の耐久度、大丈夫ですか?」
「どうやろ。……あ! 残り10しかあらへん!! 夢中になってたら分からんもんやな」
「取り合えず、武器変えた方が良いです」
「そうするわぁ」
という具合にメインクエストを順調にこなしていく二人と一匹。
光樹が防御貫通のスキル技『メープルテンペスト』を覚えた頃、レオナルドはいよいよ本題を切り出す。
周囲に妖怪がいないのを『ソウルサーチ』で把握した後、レオナルドは光樹に聞いた。
「光樹さん。いい店は見つかったんですか?」
光樹は残念そうな表情で答える。
「あ~、それなぁ。あれから全然や。初心者はお断りって店ばっかなんです」
単に彼の舌に合う味が見つからなかっただけか、或いは本当に初心者お断りの店か。
嘘であっても、レオナルドは頭をかいて正直に尋ねた。
「光樹さんって……ひょっとして、店のパトロン的なもの目指してるんですか?」
ルイスやアルセーヌが警戒している目論見、そのままを率直に問いかけるのは心象悪いかもしれない。
それでも、レオナルドは尚更不安があった。
一方、光樹は苦笑しながら返事をする。
「そうそう! 自分が食材集めて、それで料理作って貰えれば万々歳です。あれ? 何か問題あります?? 自分以外も似たような事やっとる奴おるでしょ?」
「うーん、色々問題があるんです。大体の素材って、メインクエストよりも難易度高いマルチエリアの方にあるんです。んで、物によっては妖怪が強くなる夜の時間にしか取れないもんがあったりして……一人でやってくのは大変です。あとPKで死んだら集めた素材も全部なくなるんです」
最近、レオナルドはルイスとムサシを合わせた三人でパーティを組んで、夜のマルチエリアを巡っているが。妖怪の強さは、昼間とは天と地ほど差があり。
そして何より、PKが問題だ。
初心者装備の光樹なんて、場違い過ぎて狙われやすい。
すると、光樹は先程までの態度が嘘のように真剣な顔つきで話を聞いている。
念の為か、こんな事を質問する光樹。
「PKって頻繁にあるもんなんです?」
「ここにいるプレイヤーの目的って、大体PKです。他のVRMMOでPKできる奴がないから、らしいです」
片手の人差し指で頭をトントン叩く光樹。
それから、光樹の動向は不思議だった。
改めて、メニュー画面からステータスや武器の性能を確認し直す。
レオナルドにも色々質問をする。具体的な内容はダ・メ・ー・ジ・計・算・についてだ。
妖怪にも種類別に防御や耐久補正があったり、それらとの差し引きでダメージの数値や、武器の耐久度が削られる。
ダメージ計算を全く知らなかったレオナルドは、攻略サイトを参考に、しどろもどろな説明をした。
そんなものでも、理解しましたと礼を告げる光樹。
光樹が行う一連の流れに、レオナルドはどこか既視感を覚える。
以降、光樹の動きに迷いはなくなった。
とくに剣の耐久度が切れる寸前に、一々確認しないで武器を切り替え、幾つ攻撃を命中させれば敵が倒せるかも分かっているように、切り返す機敏さ。
『塗壁ぬりかべ』や『子泣き爺』のような固い妖怪を前にすれば、光樹は素直にキャロルを頼った。
成長したキャロルは特殊攻撃を物にしていた。
『Drink me』のラベルが貼られた大瓶を出現させ、中に入った液体で水系の特殊攻撃をする。
妖怪を倒し終えたキャロルを、レオナルドが撫でてやろうと手を伸ばせば。
キャロルは、その手へ嬉しそうに飛び込む。
光樹の方は露骨な褒め言葉をかけた。
「いやぁ、流石です~キャロルさん!」
キャロルも自慢げに「ぶっ!ぶっ!!」と音鳴らす。
突然、光樹が覚醒したというより、彼なりのコツを掴んだのだと理解するレオナルド。
レオナルドは参考までに、それを聞いてみた。
「光樹さんも凄い戦いに慣れてきたと思いますよ」
「自分なりの戦い方出来るようになったんかなぁ」
「スポーツとかやってて、その技術を応用してる感じですか?」
「あ~……コレやってるんです、自分」
「?」
独特な手の動き、いや、指の構えをしながら言う光樹。
レオナルドは何だろうと首を傾げ、光樹も「あ、分かりません?」と挑発気味に言う。
「将棋得意なんです、自分。でも、今やってますのは暗・算・です。レオナルドさんが教えてくれはったダメージ計算の暗算やってるだけです」
「え」
「あ、ダメージ計算以外も武器の耐久度も。スキル発動時間も体感で測ってます。自分の特技、有効活用できるとは思ってませんでしたわ」
ゲームの世界を数値化しているような光樹の言動。
それを聞いたレオナルドは、彼の思考はカサブランカと同じなのだと理解した。
無事、剣士系のジョブ2『剣豪』に昇格した光樹は、レオナルドと話し合う。
レオナルドも、段々と光樹の才能を理解する。
彼は本当にVRゲームは愚か、アクションゲームに疎いので、ステータスのアルファベットも何を示すか分からなかった。一昔前の自分と同じだとレオナルドが感じる。
光樹自身が述べた通りに、レベルアップでステータスも上昇し、動きは機敏になっており飲み込みが速いと思ってしまう。
それでも、プロプレイヤーと比較すれば無駄な動きがある。
改善するにも多少の時間は必要だろう。
二人と一匹は、休憩がてら春エリアで個人経営店を巡っていた。
光樹は、ジョブの初期衣装しか持っていない。
その初期衣装のままだと、やはり目立つうえ、初心者だと気づかれてしまう。
こういう時こそ、外見は大事。つまり、彼等は衣装探しを行っているのだ。
しばらく探索すると、光樹の要望を叶える店を発見。
現代ではマニアックな和服専門店だ。
幾つか試着して「ちょ~っと着心地悪いなぁ」と相変わらずの本音をぶちまける光樹に従業員たちは苦い笑いを浮かべた。
レオナルドは反射的に「すみません」と謝罪する。
恐らく、光樹は悪気が無いのだ。
ただ、カサブランカと違ってああしろ、こうしろと助言を与えたりはせず、光樹は一方的に切り捨てる。
無駄を省いて、効率を求める姿勢はカサブランカと似ているが、光樹の場合は具体的な数値を重視する。
他にも色々調べたが、光樹の好みに近い紺の『着流し』を販売しているのは、この店しかなかった。
「我慢しますわ」と不満前面に光樹は購入。
次は武器。
武器関連は光樹自身が鍛冶師を選ぶべきだ。
しかし、今回はレオナルドと同行しているので、素直に茜の店へ足を運んだ。
茜は珍しく店を閉めている状態だが、その理由はジョブ3『神槌』の昇格条件を満たす為、製造に集中しているのだ。
レオナルドと光樹、そしてキャロルが店に訪れれば、疲労困憊な茜が出迎えてくれる。
「あ~~レオ。これ完成したから、ついでに渡しておくよ……」
茜から渡された品を受け取りながら、レオナルドは戸惑い気味に「ありがとうございます」と礼を告げた。
キャロルが項垂れてる茜の匂いを嗅いでる内に。
レオナルドは完成品の概要を開き「おお」と感心の声を漏らす。光樹も興味津々に覗き込む。
『蓬莱玉の包丁』
『龍珠のピッケル』
『子安貝の毛刈り鋏』
鍛冶師系のジョブ3『神槌』の昇格条件とは、武器以外の道具を強化するというもの。
新薬作製が出回った時期から、包丁を強化できるネタ要素があって。
そこから『神槌』昇格を成し遂げたプレイヤーが登場。
本当に、何が切っ掛けになるか分からないものだ。
キャロルを捕獲し、撫でまわす茜は光樹の姿に疲労感ある溜息をついてしまう。
「新しい奴を連れてきたと思ったら、剣士……! ゲロ吐くほど武器作る奴、連れて来るとはねぇ……!!」
レオナルドは申し訳ない気持ちを抱きながら「ジョブ武器、お願いしてもいいですか」と頼む。
光樹は剣士系のジョブ武器……ジョブ2に昇格したことで進化した『勇者の剣』を上限まで解放できる。
攻撃力と耐久度を確認した光樹は首傾げる。
「はぁ、これが上限です?」
光樹の質問にレオナルドは頷く。
「これ以降の解放には、夏エリアのメインクエストボスを六面まで倒した称号が必要なんです」
ジョブ3へ昇格する為の第一段階。
ジョブ武器の最終解放に向けた上限解放には素材以外にも、夏エリアのメインクエストボス討伐の称号が必須なのだ。
今日の夏エリア攻略計画は、このジョブ武器上限解放の為に行われる。
もっとも、普通のプレイヤーだったら、ジョブ武器完成が先で、昇格条件が満たされるのは後なのだが……
(光樹さんの戦い方なぁ)
レオナルドも彼なりに色々と想像する。
ここまで深く、光樹自身の心境を聞いていなくても、彼がどうしようかと、どうしたいのかと探れた。
将棋が得意。
俄か知識ながら、将棋は相手の何百手先を読み合うものだとレオナルドは聞き覚えある。
細かい計算を省き、臨機応変な攻撃方法に特化したのがカサブランカなら。
光樹は、プレイヤースキルが疎かな代わりに、的確かつ計画的な戦い方に特化している。
普通ならプレイヤースキルの特訓を重視したい。
しかし、それは光樹のプレイスタイルには致命的なまでに合わないだろう。
レオナルドは唸る。
(ダメージ調整とか、したそうだよなぁ。うーん)
キャロルに癒されてる茜の姿で、レオナルドはふとムサシを思い出した。
「光樹さん。剣豪になると『二刀流』が使えるんです」
「ほお! 二刀流!!」
ムサシがジョブ2の『武将』で二刀流が使えるようになったのと同じ。
剣豪でも二刀流が解禁される。
たが、そこそこ重量ある剣を片手で持つ二刀流を使いこなすには高いSTRが必須。
レオナルドは攻略サイトなどで疑念を解消し、光樹へ教えた。
「剣を二本装備できる仕様です。えっと、つまり……常時剣を二本、腰につけてる状態なんですけど、剣を一本だけ使う事はできるみたいです」
それを聞くなり、光樹は上機嫌にレオナルドの肩を激しく叩いた。
「ええやん! それやそれ!! いやぁ、レオナルドさん。自分のこと、分かってくれて助かるわぁ!」
レオナルドが想像した考えで間違いなかった。
『勇者の剣』をかざし、光樹は興奮気味に思案したものを語った。
「基本、これより強い剣で戦いますけど、トドメ刺す時はこっち。体力が残り僅かの敵相手にわざわざ強い方で叩くなんて無駄ですわ。敵を叩く回数減らして耐久度を節約しましょ、って訳です」
無駄。
光樹の言う無駄とは、こういう無駄なのだ。
下手に剣を振るわず、耐久度を節約する。
武器が壊れる概念を知ってから、光樹はそれを重視しながら思考を展開させていた。
光樹の反応に満足する笑みを浮かべるレオナルドに対し、疲労感が拭えない表情で呆れている茜。
「また、妙な奴を連れてきたもんだねぇ……」
さて、プレイスタイルを確立したところで肝心の『強い剣』だ。
レオナルドは茜の店を把握しているので、一つ聞いてみる。
「今、店で売ってる剣みせて貰えますか?」
「ん~……あるにはあるけど。安価な適当に作ったもんから、素材のせいで馬鹿高く設定してるもんまで、こんなもんかね」
所謂、オリジナル武器という奴だ。
スキル付与はしていない状態で、茜なりにデザインを施した剣だけをレオナルド達に見えるよう展示する。
光樹は沢山ある剣から、一先ず彼の趣旨に合わせたものを要求した。
「和風っぽいもんあります?」
「わっ……武士の『カタナ』がソレなんだよねぇ。和風っぽい、ぽい奴……こんなもんくらいかね」
彼の要望に困惑しながら、茜はある剣を取り出したのだった。
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