第二章 夏エリア
第41話
ここは、とある大学の食堂。
昼時を過ぎたからか、学生の姿は比較的少ない。
遅れて昼食を取っている者や講義の復習、読書や携帯端末でアプリに熱中したり、友人同士で会話を繰り広げたりなどなど、各々が個人の目的に勤しんでいた。
「はぁ~~~……インターン、かったりぃ」
「こんな時期から就職しなきゃやってらんない世の中って、糞だわ。まだ遊びてぇ~」
「サークルどうする?」
重い将来を語り合っている学生たちの傍ら。
茶色アップバングショートの髪型。
眉間にしわ寄せた細目が不良っぽさを感じさせる顔立ち。
怜雄の容姿は、じぃっと『兎の本』を読んでる彼の行動とは、不釣り合いだった。
怜雄自身は真剣に内容を読み込んでいるが、他人から見れば不思議な光景。
世間一般的に、彼の様な人間を『不思議ちゃん』と呼ぶが。
突然変なこと言い出すタイプではない、何を考えているか分からないタイプの『不思議』だった。
そんな怜雄の手元から『兎の本』を取り上げたのは、ある四年の男子学生。
怜雄が受けている講義の教授の研究室にいる人物。
以前、教授の研究室に足運んだ時に会ったのを記憶していた怜雄は「どうも」と頭下げて挨拶する。
一方で、先輩にあたる男子学生は気に食わない顔で『兎の本』を流し見てから
「お前そっくりだな」
と、本を怜雄に突き返す。
開かれていたページには、すました顔の兎をアップで撮った写真が。
それを自分そっくりと言われ首を傾げる怜雄に対し、男子学生はぶっきらぼうな口調で告げる。
「さっさと、あのハゲに課題提出しろ。出してないのは、お前だけだ」
「えっ。あ~……すみません。どれ出そうか悩んでて。今日中には出します」
「はぁ?」
怜雄は慌てて『兎の本』をしまって、鞄から提出候補をいくつもテーブルに並べ始まる。
異様な光景に、男子学生の表情は歪と化していた。
普通、課題文一つ作り上げるのに苦労するのを、どれにしようか悩んでいるなんて、馬鹿げた話があるだろうか。
彼らを不敵に笑う声が聞こえる。
いつの間にか、男子学生の背後に回っていた短髪黒髪の青年が調子よく話しかけた。
「すいませんねぇ、先輩。ちょ~っとズレちゃってる残念な奴なんですよ。大目に見てやって下さい」
青年に驚きつつも「誰だ、お前は」と睨む学生。飄々とした態度で青年は言う。
「あれれ? こいつと一緒に浜田教授の講義受けてる一年ですよ。やだなぁ、前に教授の研究室に顔出しましたじゃないですか。忘れちゃいました?」
記憶力悪いと煽られている雰囲気に耐えられなかった男子学生は、舌打ちして退散する。
青年がニヤニヤ笑み浮かべて、手を振って見届けるのを。
怜雄はジト目で眺め、男子学生が去ったのを確認してから青年に話しかけた。
「息吐くように嘘つくんじゃねーよ。遠藤」
遠藤と呼ばれた青年は、自然な流れで怜雄と同じテーブルに座りながら喋る。
「大丈夫だって。俺が無断で講義受けてても、教授に気づかれなかっただろ?」
「バレたらヤバイだろ。もう止めろよな」
「なあ相棒、兎でも飼うのか? 育てるの糞大変だぜ??」
そう語る遠藤の手元に例の『兎の本』があった。
怜雄はギョッとし、自分の鞄を確認したら、いつの間にか『兎の本』は抜き取られている。
遠藤の手にあるのは、正真正銘、怜雄の『兎の本』という訳だ。
先程、男子学生が開いていたページにある、アップで撮られた兎の顔と怜雄の顔を比較し、遠藤は吹き出す。
「ヤッバ、超似てる! ぶっはははは!! 笑い死ぬ!」
「はぁ……返してくれよ」
「悪い悪い! 提出分は『どれにしようかな』で決めちまおうぜ、相棒。帰ったら『マギシズ』潜りに行くんだろ?」
「その前にバイトな」
「バイト? まだバイトやってんの?? 今の相棒なら動画で稼げるだろ」
周囲に他の学生がいるのを見て、怜雄は小声で話す。
「俺は動画投稿する気ねぇし、ムサシの動画の広告料とか貰ってねーからな?」
「えぇ~。相棒、律儀過ぎ」
「俺は……ちゃんとした仕事に就きたいんだ。将来、結婚したいから」
「ぶふっ!? 冗談よしてくれ、相棒! 俺達、生涯独身の童貞貫こうって約束しただろ!!」
「してねーよ」
他愛ない会話を繰り広げつつ、怜雄は提出するものを考える。
遠藤が勝手に『どれにしようかな』を歌い始めて、適当に一つを選び「これでいいじゃん」と勧めた。
あまりに適当で、怜雄も気が進まない。
渋々、その提出用紙だけ残し、残りの提出候補と『兎の本』をしまう怜雄に、遠藤がふと告げる。
「あ、そうだ。相棒、俺も今日からマギシズにログインすっから」
唐突な切り出しに怜雄も困惑していた。
彼の反応を見て、遠藤は「おいおい」と苦笑いする。
「俺が相棒を誘ったんだぜ、当然だろ?」
「いや……お前、やらないと思ってた」
「ひっでぇな~。言ったじゃん。俺は
「大学サボって遊び惚けてたからな」
呆れた怜雄が言う。
そう、怜雄に『マギア・シーズン・オンライン』を勧めたのは、彼の前にいる胡散臭い雰囲気漂う青年・遠藤だった。
裏がありそうな人物だが、これでも怜雄とは中学・高校と同じ進路を辿る同級生。
長い付き合いあるからこそ、怜雄は遠藤の破天荒な行動を受け入れている。
しかし……怜雄は気まずい。
申し訳なさそうに、遠藤に話した。
「えーとさ。ちょっと無理、じゃないけど。店には来ないで欲しいんだ。俺の、じゃない。俺が働いてる『ワンダーラビット』に」
「うわ。彼女だ。彼女できたから、他人に介入されたくないパターン。あれか? 噂のカサブランカ……」
「ちげーよ!」
むしろ、カサブランカとはフレンド登録すら至っていない。
怜雄にとっては、まさしく高嶺の花。
ケラケラ笑い、遠藤は「わかってるって」とからかったのを認めた。
「ムサシか、相棒と店経営してるルイスって奴のどっちかがワケあり?」
「ムサシは大丈夫だけど。ルイスの方がな……」
怜雄は口に出すのを躊躇していたが、思い切って断言した。
「多分だけど………ルイス。遠藤みたいな奴、嫌いなんだよ」
これには遠藤も真顔になる。
怜雄は確信があった。
良くも悪くも天真爛漫なサクラや、下手な気遣いをしてくれたホノカといったグイグイ迫るタイプは、ルイスは嫌い。
一緒に行動していたからこそ、微細な変化を『レオナルド』として感じ取ってきた怜雄。
一方、遠藤は引き下がれない様子で食い下がってくる。
「ホントに無理臭い? どうせ俺と相棒、フレンド登録するんだし挨拶ぐらい良くねぇ??」
「ん~~~……普通に話すだけな。アイツにフレンド登録希望したり、パーティ誘ったりは駄目」
「えー、残念。相棒が気に入った奴だから、絶対面白い奴じゃん」
「面白いって……そーいう話、ルイスの前ですんなよ?」
◆
忌々しいアイドル騒動が終わって、僕の高校は期末テストが迫っていた。
無情にも『マギア・シーズン・オンライン』で開催される夏イベント第一弾『真夏の料理店コンテスト』の予選前は、テスト勉強に集中しなければならない時期。
しかも、高校二年生は、ニュースにも取り上げられるセンター試験が迫り来る。
僕は別に焦る必要はないが、クラスメイトは阿鼻叫喚だ。
「もう、どうしよ~。勉強もだけど、コンテストに出す料理のアイディア浮かばな~い!」
「分かる! 私の店でもメニュー開発してるけど、ポンって浮かぶ訳ないじゃん!!」
アイドル騒動のお陰か、元々ゲームを始めていたのか。
女子生徒から、そんな会話が聞こえた。
イベントに関する話題……とくに新メニュー開発に苦戦している旨が耳に入ってくる。
僕は携帯端末で放置製造を見る。アップデートによって放置製造も改善された。
以前より薬品作製に必要な素材量や時間が短縮。
さらにループ製造機能が追加された。完成したら倉庫にある素材を使って、自動的に作製してくれる。
僕の様な学生や社会人にとっては便利過ぎる機能だ。
僕が製造状況を確認していると、レオナルドからメッセージが届く。
[ルイス。今日、店に俺のダチが来ることになった]
[覚えてると思うけど、俺にマギシズ誘って来たダチな]
[付き合い長いダチだから変な心配しなくていいけど、店の中には入れさせないから]
………………………
一瞬、何の話かと思ってしまった。
ああ……確か、そんな理由を話していたような気がする。
僕は、生涯で初めて明確な胸騒ぎを覚えていた。慢心。油断か。実感が湧かない。
レオナルドを利用する以上、彼の友人は邪魔。障害になる。
奴が現れた時、どう対処しようかと少し前までは考えていた。
今は……利用だとか、やましい理由でレオナルドと組んでいる訳じゃない。
「お~い、レンレン~~!」
こんな時に、鬱陶しい奴が来た。
心中が荒波立っているせいで、不機嫌を隠せない僕は、携帯端末だけは隠しておく。
アイドル擁護派だった例の男子が、何事もなかったかのように話しかけて来る。
「レンレンのギルドって今度のイベント参加するでしょ? 参加するだけで貢献度貰えるもんね」
そう、今度の生産職イベント。
貢献度は絡んでいるが、出店しなくても参加するだけで貢献度が一人に付き1000ポイント貰えるだけ。
人によっては、1000ポイントでもいいから欲しいギルドもいるだろう。
僕は一息ついて、気を落ち着かせてから答えた。
「今だから正直に話せるけど……例のアイドル騒動で、ちょっと嫌な目に合ってね。ログインしなくなってたんだ」
意気揚々と話しかけてきた男子は、ポカンとしている。
僕は語り続けた。
「アイドルファンが軒並み居なくなったと聞いて、久しぶりにログインしたらギルドから解雇されてたよ。まあ、仕方ないよね。僕個人の身勝手でログインしなかったんだ」
「えー……? ちょっとぉ。レンレン、そーいうの俺に相談してよ! 前にも言ったじゃん。俺、ギルド作ったって。俺のところで匿ってあげたのに~」
「匿われようがログインする気分にならなかったんだ。とても楽しい気分になれないよ、あんな状況じゃ」
嫌味をぶつけまくって、僕はこう締めくくった。
「それに。期末テストが近いから、親にゲームを取り上げられてしまったんだ。どっちにしろ、イベントには参加できない」
「……じゃあさ、ゲーム解禁されたら俺のギルド入らない?」
「遠慮しておくよ。ソロで細々やっていくから」
本当。今はそれどころじゃないんだ。
僕は適当に男子をあしらって、次の授業の準備を始めた。
◆
「あんな鬱陶しい奴と一緒にいる方がいいの? 意味分かんないなぁ、レンレン」
◆
<夏イベント第一弾 真夏の料理店コンテスト>
初の生産職向けイベントが開催!
夏の層をより一層熱気に包む、美食の芸術を競う闘いが今、始まる!!
~イベント参加について~
イベントの参加は出店枠と審査枠で分けられております。
出店枠で参加した場合、審査枠には含まれず、他店の飲食によるポイント獲得は不可とさせて頂きます。
また、審査枠で参加した場合、店の営業に加担するのは不正行為とみなします。
※店の営業妨害、他プレイヤーを不快にさせる言動等を行った場合、
強制退去・今イベントの参加権を剥奪します。
他プレイヤーのご迷惑にならないよう、よろしくお願いします。
~イベント開催期間~
一次予選:7/9、7/10 18:00~23:59
二次予選:7/17
決勝戦:7/30、7/31
~イベント参加報酬~
・貢献度1000ポイント
・夏石×100
~イベントの流れ~
<一次予選>
夏の層全体が大規模な予選会場となります。
出店枠で参加されるプレイヤーの皆様には用意された仮設店舗を自由に改装していただき、
料理を提供。
二日間、より多くのポイントを獲得した上位10店舗が二次予選に進出します。
審査枠で参加されるプレイヤーの皆様は、料理の注文、料理の完食、
店の接客・内装等を含めた評価をすることで限定アイテムと交換するポイントを獲得します。
一次予選の詳細なルールは以下の通りです。
=出店枠=
・参加申請は7/5 23:59までとさせて頂きます。
同時に提供する料理(※最大五品)の提出。
従業員の登録をお願いします。7/5までに登録しなかった従業員は出店枠の参加はできません。
ご注意ください。
・7/6 09:00に全店舗の配置図を公表、店舗の改装を解禁します。
店舗に最低限のテーブル席がない場合、または食器類がない場合、
営業不可として参加を認めません。
店舗の改装は7/8 23:59までとさせて頂きます。
以降、装飾品等の配置は行えません。
・予選期間の7/9、7/10共に23:30の注文をラストオーダーとします。
・食材不足が発生した場合、提供可能な注文をラストオーダーとみなし、
その日の営業を強制終了させて頂きます。
食材の備蓄等を事前に持ち込む等、対応をよろしくお願いします。
・お客様の行列による混雑時、運営側から助っ人NPCが派遣され整備誘導を行います。
・料理の注文数×100ポイント
料理の完食数×300ポイント
店の評価である星の数×500ポイント
以上の合計ポイントで順位が決定され、獲得したポイントは限定アイテムと交換可能!
=審査枠=
・イベント開催前から終了時まで、いつでも参加していただけます。
・料理一品につき100ポイント、料理の完食で300ポイント、
店の評価をつけることで500ポイント獲得できます。獲得したポイントは限定アイテムと交換可能!
※イベントポイントは二次予選、決勝戦にも引き継がれます。
※二次予選、決勝戦の概要は一次予選終了後に公開します。
~イベント限定アイテム一覧~
…………
………
……
◆
イベント概要に関しては、こんな具合だ。
そして、ムサシの件や『神隠し』の件で悪目立ちしてしまったせいで、概要が発表される前から色んな生産職が『ワンダーラビット』を訪ね、タッグを組もうと頼んでくる。
正直、僕はウンザリしていた。
これも少しの辛抱。時が経つにつれて落ち着くだろうと信じたい。
……訳あって、僕とレオナルドは『出店枠』で参加する。
ただ、僕らだけが抱える問題が重く圧し掛かっていた。
それは料理を僕一人で受け持たなければならない事。
調理場に出入りする薬剤師の季節が料理に影響を及ぼす以上、僕以外に『全季』の薬剤師がいて欲しい所。
それに加え、料理を運ぶホールスタッフも調理場に出入りする以上、全季の方がいい。
そう。これが一番厄介で面倒な奴だ。
プレイヤーに設定された隠し属性『季節』。
これは従業員以外にも、客の季節も考慮して料理を考えなければならない。
『季節』を絞った料理店にするか。
全ての『季節』を対応する為、幾つも調理場を作り、仕切るか。
僕らが全季で統一すれば、どの季節のプレイヤーも集められるが、テーブル席は少なめにし。一部、整理券の配布を行いたい。
これが可能か、現在、運営に問い合わせ中だ。
向こうの返答が遅れているのは、整理券の配布が想定外の発想だったのかもしれない。
ただ、それでも。
僕とレオナルドの二人だけで、やり切れる自信は到底ない。
苦渋の決断だったが、唯一頼れる『全季』のプレイヤーに頼んでみる事となった。
「……どうですか、ミナトさん。他の店舗と既に組まれたなら、そちらを優先して全然構いません」
意外というか。
僕も正直、驚いてしまった。
僕らが『新薬』販売を行う際、茜たち、他プレイヤーの『季節』を鑑定した際、彼も僕らと同じ『全季』だった。
プレイヤー全員に周知されてしまうほど、割合が少ない『全季』。
現時点で、僕とレオナルド、ミナト、カサブランカ。
薬剤師系オンリーギルド『ヒュギエイア』のギルドマスター・オズワルド。
全ギルドランキング第一位に君臨し続ける『太古の揺り籠』のギルドマスター・琥珀。
あと、格闘家系のジョブ3『武闘家』に昇格したギルドマスター。名前はなんだったか。
とにかく、全季はこの七人だけ。
基準は分からないが、もう少し割合を増やして欲しいくらいだ。
僕がミナトの店に赴き、イベントで使用する制服の依頼をする際、彼に尋ねてみた。
常に平静なミナトだったが、この時ばかりは手元が石化したように静止し。
ぎこちない様子を見せる。
不満、よりも納得いかない、もどかしさを感じさせる表情を浮かべつつ、ミナトは言う。
「私以外に………全季の方は、店にお訪ねにならなかったのでしょうか」
「はい。SNSや攻略サイトの情報を真に受けるつもりではないですが、やはり全季のプレイヤーが少ないのだと思います」
「……そうですか」
妙に重い雰囲気を醸すミナト。
改めて、彼の人格は……想像つかないほど読めない。
物事に動じない性格だと、普通なら判断する。僕も最初はそう思っていた。
だが、やはり彼の奥底には何か秘めていて。
ひょっとしたら、僕と同じ。無暗に面倒事へ首を突っ込みたくないタイプなのかも分からない。
「わかりました。私でよければ手伝います」
…………
既に彼の表情は落ち着きを取り戻し、いつもの平静さを保っている。
一体、どういう……何故だ? 本当に意図が分からない。
いや……自分に面倒な役回りが押し付けられた嫌悪さではなく、他に全季のプレイヤーが現れず。自分が選ばれた事に困惑していた――のだろうか?
一先ず、僕は営業スマイルで「本当ですか、ありがとうございます」と告げた。
ミナトは淡々と話を始める。
「ルイス様とレオナルド様の目的は――こちらでしょうか」
彼が指し示したのは『イベント限定アイテム一覧』にある交換必要ポイントが最も高い、特別な衣服。
『浅葱色の薄衣』
効果:MP自動回復(薬剤師系プレイヤー装備時、SG自動回復)
『神隠し』イベントで入手したのと同じ、スキル付与された衣装。
しかも『MP自動回復』は通常のスキル付与にない特別スキル。
これを狙うプレイヤーは多いだろう。
魔法使い系のようにMP消費が激しいジョブは、夏季バトルロイヤルに向けて入手したい代物だ。
確かに、これが僕らの狙いだった。
レオナルドは『ソウルターゲット』や『ソウルシールド』『ソウルサーチ』でMP消費は避けられない。
彼がカサブランカ目的で、夏季バトルロイヤル参加の意向を示している以上。
今度こそ、勝つ為の作戦を立てて挑もうと彼に約束した。
ただ、刺繡師系はMPの使用が変わっていて、この衣装の恩恵は無意味に等しい。
ミナトがイベントで狙うのは、恐らく作製成功率上昇が付与された武器や素材になる。
僕は申し訳なさを前面に「そうですね」と答える。
「バトルロイヤルに参加するうえで、レオナルドには必須の衣装なもので、どうしても欲しいんです」
「いえ。これは仕方ないでしょう。審査枠で入手できるか怪しい交換ポイント数です。微力ながらお力添えさせていただきます」
改めて、ミナトの表情を伺うと真剣かつ本気の目つきだったものだから。
ますます、彼の心中が理解できなかった。
◆
凡人の私が、尊き存在と肩を並べるなど、おこがましい。
……不届き者が足を引っ張るよりは、良いと思いたい。
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