第40話 【番外編】
ついにこの日が来た! 新作のVRMMO!!
『マギア・シーズン・オンライン』。
宣伝広告やCMで目について、概要を把握した時に、私はある企みを思いついた。
これ……姫プができる!
コホン。
姫プ――姫プレイに関する詳細概要を長ったらしくする訳にはいかないので、簡潔に説明すると。
オンラインゲームで、女性プレイヤーが男性に守って貰うプレイスタイル。
え? 何で姫プしたいか??
男に全然モテないし、ネットだけでもいいから、ちやほやされたいんだ! 分かれ!!
プレイヤーネームは……ゲーム全般で使ってる『ちょこミント』でいいかな。
次の性別選択で『女』を押して、待ってましたアバター設定。もうイメージはある。
黒ロングストレートヘア! アバターの瞳をミント色に!!
図書委員やってそうな眼鏡かけた気弱そうな女子の完成だぁ~~~!
これだろ、男子ってこういうの好きだろ!?
てか、オプションで眼鏡の装飾品貰えるのは嬉しい。
このゲーム、衣服とか装飾品は破壊不可で、はだけたりするのが嫌な女性には安心仕様。
PKできるのに。謎だ。
そして、
武士の武器『カタナ』……普通に斬る事すら難しい仕様。攻撃が決まれば、一撃必殺。
一応、スキルで斬撃飛ばす遠距離攻撃もできるよ。
とにかく! これでしょ、姫プ最適ジョブは。
そこからマスコットキャラの妖精『しき』のチュートリアルが始まる。
いざ、初期武器の『カタナ』を持ってみると……重っ!
え。待って、ホントに重い。
どーしよ……STRに振っとけば良かった奴だ。
ステータスは、良く分からない雰囲気出す為に、振っていない状態だけど、これヤバイ。
チュートリアルすらクリアできるか怪しいんだけど。
一振りするので精一杯。連続攻撃とか絶対無理。
チュートリアルだから指示通りに斬ると、そりゃ綺麗に攻撃が決まる。
でも、指示なしで雑魚キャラ倒せ! が始まったら全然駄目。
重い鉄パイプで敵を叩いてる感じだ。一応、ダメージは入るけど……ホント。どうすんのこれ。
どっかの有名実況者も『武士』選んだって噂に聞いたけど、途中で挫折すんだろーなぁってレベル。
……ま。姫プ前提だから、いっか!
私の『マギア・シーズン・オンライン』は、こんな感じで始まった。
◆
うーん、存分に姫プができた! ……気がしない。パーティメンバーが異質だったというか。
簡単に説明すると。
集会所でウロウロしてみたら、剣士のマーティンさんって男の人が、パーティに誘ってくれた。
なんでも、全ジョブでパーティ組んでみたいらしくて。
結成したのが全ジョブ揃った合計十二人の大所帯メンバー。
様子見がてら、メインクエストを受注する事になった。
で、実際に私を守ってくれたのは、盾兵のおっさんという……明らかにVRが脳の活性化にいいから試しにやってみた感が否めない、初老っぽい雰囲気の人。
しかも、おっさんが『挑発』を使ってくるのが最悪!
守られてる私と、鍛冶師の楓ちゃんって女の子が、おっさんが引き寄せた妖怪にぼこられそうになるハメに……少しは周りの状況見るとか、出来ないかなぁ!?
一応、フレンド登録したよ。
向こうがグイグイ迫ってくるから、断れなくて。
あとフレンド登録したのは、マーティンさんと楓ちゃん。この三人だけ。
楓ちゃんは……色々事故だった。
ステータスがDEX極振り。武器作製専門でやっていこうとしてたみたい。
戦闘技能振って無くて、ごめんなさいって謝ってたけど、あれは仕方ないよ。うん。
姫プできた気がしない原因は、マーティンさんを含めたガチ勢がパーティの大半占めてたんだよね……
格闘家の女の子、ホノカちゃんは調べたら名の知れたゲーマーで。
動きからして、そうだよねって文句なし。
マーティンさんも他のVRMMOから流れてきた人で、動きが手慣れてた。
魔法使いと弓兵、盗賊の女三人組もステータスの振り方がガチだったから、どっかから流れてきた人たち。
ホノカちゃんとマーティンさんと一緒に、前線でガンガン戦ってた。
銃使いの(名前忘れちゃた)女の子はコミュ障で話しかけないでってオーラ垂れ流してた。
あと、墓守の男の人は、アイテム回収してて、皆にアイテム配ってたかな。
薬剤師の銀髪イケメンも、薬品作りしてるだけ?みたいな。
最後に一際目立ってたのは、真っ白なロングウェーブの女の人。
刺繡師なのに、ガチ戦闘してきてビックリしちゃったよ。
でも、ボス倒したら勝手にパーティ抜け出すのは、流石にとは思ったけど……
と、こんな感じで全員自分勝手にやりたい放題なパーティだから。
姫プ云々できる訳ない!
一旦、パーティ解散してからは、マーティンさんは楓ちゃんの経営店手続きの付き添いに。
盾兵のおっさんや、女三人組は別のパーティに入って。
ホノカちゃんとか、他のメンバーも気づけばいなくなって、私だけ……
よ、よし。気を取り直して、集会所で他のパーティに入れて貰おう!
私は積極的に、かつ気弱そうに、色んな人へ声をかけていった。
結果……
「武士かぁ。上手く斬れる? 出来ないんだったら、悪いけど断らせて貰うよ」
「初心者なのに、面白半分で武士選んじゃったかぁ~。悪く言うつもりじゃないけど、本気でジョブ変えた方がいいよ。剣士か魔法使いに」
「スキルで遠距離攻撃? こっちは魔法使い系がいるから十分。戦えるんだったら、ソロでメインクエスト周回してな」
あ……あれれ……?
◆
サービス開始から数日経過。
もう『武士』ってだけで完全無視されてしまってます。
変な意味で有名人になってる私、ちょこミントでございます。
集会所常連状態と化したので、集会所でパーティ招集しているプレイヤーの皆さんから「まだ『武士』の子いるよ」って陰口が聞こえてきますわ……
同情するならパーティ組んでよ!
武士を極めたいのか? おもしれー女って少女漫画みたいな展開来い!!
集会所の広間にあるテーブル席で項垂れてる私の、悲痛な叫びを聞いてくれたのか。
「ねえ、君。ちょっといい?」
イケメンが声をかけてくれた!
淡い黄緑?っぽい色彩のミディアムストレート、ていうのかな。
柔らかい表情で笑顔が似合う……服装は、なんだろ? 紺色の生地に金の刺繡がある民族衣装っぽい織物。
武器は持ってない?
あ、ううん。持ってないから、格闘家かも。素手で殴るし。
雰囲気も合わせて、ファンタジー世界の住人っぽい格闘家のイケメンが、私の真っ正面の席に座って来たから、割とドキッとしてしまう。
こ……これ、興味持たれて、パーティ組んだり、フレンド登録する流れだ!?
イケメンが笑顔を振りまいて話しかけて来る。
「君さぁ。もしかしなくても、ここの現状が分からない子だと思うんだよね。あんまりにも可哀想だから、俺が教えてあげるよ」
「あ、ありがとうございます?」
現状?
なんかトゲある言葉入ってて嫌な感じだけど、そういうキャラかな??
私の疑問を無視して、イケメンは話を続ける。
「『マギシズ』が開始する前に、サービス終了したVRMMOがあるんだよね。君は当然知らないと思うけど」
「は、はぁ……」
「そこのプレイヤーがこぞって『マギシズ』に流れて来てるんだ。何故かって? PKが出来るから。サービス終了したVRMMOもPKありな奴だったんだ。尚更こっちに流れるでしょ?」
「あ……ああ………」
「心象悪いとかプレイヤー同士のトラブルになるからって、PKできるVRMMOも減っちゃってるから希少。つまり、何が言いたいかって言うと、ここのプレイヤーの大多数がPK目当てってこと」
え? え?? まじ、まじっすか?
呆然とする私を差し置いて、イケメンは席立って、去り際に言葉を残す。
「素直にジョブ変えて、ソロで細々メインクエストやっていくか。『マギシズ』以外の平和なVRMMOやった方が良いよ? じゃあね♪」
◆
イケメンの話は本当だった。
確かに、サービス終了したVRMMOはPKありの奴で、しかも賞金出る大会まで開催してる。
やってる人、次第だとマジもんのガチ勢がいるレベルだ。
……こんな人たちが、か弱そうな初心者に構う訳ないや。
はは、はははは……
あ~……どうしよ。ジョブ変えようかなぁ。でも……
やりきれない気分だったから、私は最後の希望としてフレンド三人に託そうと考えた。
マーティンさんはタイミング悪く、ログインしてない。
でも、ギルド建ててるみたいだ。入れてくれ……そうな感じしない。マーティンさんもガチ勢側っぽいもん。
盾兵のおっさんは……お、おいぃぃいぃっ!
ログインしてない! サービス開始日以降ログインしてないとか、アレですね!!
プレイヤー同士でトラブって、二度とするか!って癇癪起こした奴!!
もう、いいわ。こっちもフレンド切ってやるから!
最後に楓ちゃん……! ログインしてる!!
しかも、プレイヤーレベルも、店のレベルクッソ高くない!? ひ、ひ弱な貴方は一体どこへ……
何であれ。私にとっては天使か女神に見えた。
意を決して、楓ちゃんにメッセージを送ったのが切っ掛けで、あんな事に――
◆
「お久しぶりです、ちょこミントさん!」
茶髪のおさげ。茶色の瞳。そばかすある女の子、楓ちゃんが出迎えてくれた。
服装は優しい薄黄のワンピースに変化している。
ひもじい私はこの際、幼女でもいいから慰めて欲しかった。
「急にごめんね。楓ちゃん……あれから私、このゲーム自体に馴染めなくなっちゃって」
「そ、そうなんですね。あ、でしたら、ちょこミントさん。今、ちょうどカサブランカさんが来てるので、ご相談されてはどうでしょう。私もカサブランカさんからアドバイス貰って、戦闘も出来るようになったんです」
「ワッツ????」
広々とした西洋風の内装の店内に案内されると、最奥の席に、真っ白なお化けが座っている。
改めて見ると、際立っているというか。
異色そのものな感じだ。刺繡師なのにバリバリ戦闘やってた白ロングウェーブの女の人。
名前は、カサブランカ……さん。思い出した。
楓ちゃんは慣れたように、彼女に話しかけてる。
「カサブランカさん。えと、ちょこミントさんです。以前、私達と一緒にパーティを組んだ武士の方です」
クンッって勢いつけて顔をあげられると、こっちがビビるよ。
無表情でカサブランカさんが言う。
「誰です?」
覚えてねーですか、そうですかい。
冗談でもなくマジで「コイツ知らない」って顔してるもん。
楓ちゃんが必死にフォローしようと考えているけど、とにかく話を進めた。
「武士で頑張ってるのに、上手くいかないみたいなんです。アドバイスして貰えませんか?」
そしたら。
向こうは悟ったように即答してきた。
「
………はい?
ちょっと木刀って、
雑魚は真剣持つ資格がないって奴!!?
私がキレようとしたら、楓ちゃんがマジなトーンで割り込んでくる。
「木刀だと攻撃力がかなり低くなってしまいますけど」
うん? ちょ、あの、楓さん???
「違いますよ。真剣で斬る事ができないんですから、彼女のようなプレイヤーはスキル専門の遠距離型に落ち着くしかないです。スキルは特殊攻撃に分類されます。武器自体の攻撃力補正は受けません。だから木刀でいいんです。INT極振りして、武器に特殊威力上昇付与。一先ず、これでまともに戦えます」
「あ、魔法使い系と同じなんですね! 分かりました!! 軽い素材でレプリカ作ってみますね、ちょこミントさん!!」
…………えーと。
楓ちゃんが、お試しの武器作製を始めてる。どうしたらいいんだ。この状況。
呆然としてる私に、カサブランカさんが声かける。
「変な風にステータス割り振りましたか?」
「あ、いえ。えと……ヤッテミマス」
武士はSTRとVITはガンガン伸びるから、最初のカタナの重さはすぐに克服できた。
欠点というか。AGIとDEFは全然伸びない、素で極端なステータス。
マーティンさんも、ステータスはいいから上手く斬れるコツを掴む練習をした方が良いってアドバイスをしてくれた。
運がいいことに、ステータスポイントに手を付けてなかった。
INTにポイントを入れてみると、ガッとスキルを覚えまくってビックリ。
初めて知ったけど、INTの数値でスキルを獲得できるみたい?
楓ちゃんがお試しのレプリカ品だけど、ミント色と茶色のグラデーションをしてくれた木刀を作ってくれた。
こうしてみると、木刀は全体を自由に塗装できるからお洒落!
わ、悪くないかも……!!
鍛冶屋内に設置された練習場で、試し打ち用の人形相手にスキル無双してみると。
これがビックリするくらい爽快だった。
今までの自分の苦労は? とすら思えてしまうくらい。
くっそ重いカタナに比べて、木刀を振り回すのは余裕過ぎて、笑えるくらい斬撃スキルを連続で打ちまくれる!
「楓ちゃん! これ凄いよ、凄い!!」
「あ、いえ。私は作っただけなので。カサブランカさんの方が凄いかと……」
うっ。確かに……私は渋々、彼女に頭下げた。
「あ、ありがとうございました……カサブランカさん」
そしたら、向こうは手元の爪をいじりながら、私に視線を合わせずに平然と言う。
「貴方は戦闘面の問題を解消したい訳ではなく、
楓ちゃんは素っ頓狂な声で「へ?」と首傾げてるけど。
私はもう絶句もんだった。
コイツ、心読んでのか? エスパーなの??
いくら心が読めても、的確に最適解導き出さないで下さいません?
多分、この時。私の形相は凄まじかっただろう。辛うじて、私が喋ったのは一言。
「ひ……人の心が分かってない………」
そしたら、彼女はあっけらかんとした態度で述べた。
「人が人の心なんて読める訳ないじゃないですか。エスパーじゃあないんですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます