第35話


 『マギア・シーズン・オンライン』の実質二回目となるイベント。

 裏方では絶賛、運営がイベント内でバグ等の不測の事態に対処できるよう人員が配属されている。

 基本的に、運営側もバーチャル空間にてアバターを越しでシステム管理を行っていた。


 そして、運営内にも担当部署があり、今回一悶着が発生しているのは『イベント班』。

 バトルロイヤル然り。

 イベント限定のダンジョン、ギミック、パワーバランスを考慮したイベント限定装備、シナリオなどなど。

 プレイヤーを盛り上げる為に尽くしている部署だ。


 ……なのだが。

 今回に関しては問題が多すぎる。

 現在、イベントの真っ最中にも関わらず、関係者を緊急招集されていた。


 プレイヤーのMPKやアイドルファンの民度。

 このまま、予定通りイベント終了したところで運営側にもMPKの件で不満があるだろうと予想され。

 不満を対処しようものなら、アイドルファンの処遇はないのかと新たな不満が爆発する。


「も~! どうしたらいいんですか!! これ!」


 バーチャル空間で各々自由なアバターを着た『イベント班』の面々。

 その一人、猫のアバターが嘆く。

 無論、他の『イベント班』からも色々とアイディアが出されるが、どれも一長一短。


 建前上。

 やはりMPKなど非協力的な事をしたプレイヤーには処罰を与えるべきだとか。

 PKありきのゲームなのに、イベント内のMPKで処罰なんて。それだとPKも禁止しろと声があがる。

 という、議論内容はどっちつかず。

 残酷にも時間は過ぎ、プレイヤーも着々と最深部に到着していく。


「やはり、MPKを行ったプレイヤーには処罰を与えましょうよ! アク禁はやり過ぎなので、イベントで獲得したアイテムとクリア報酬没収で……」


「もういい加減、アイドルファン層をどうにかしましょう! 今度からはIPアドレスでアク禁するしかないですよ!!」


「簡単に言うなよ……」


「このまま、お咎めなしは不味いですよ!」


「イベント概要にはMPK等の妨害行為でのペナルティは記載されていません! 確実に不満爆発……最悪ユーザー離れて、サービス終了……」


「流石に、それは言い過ぎ」


「いや、ありえなくねぇから、こうして意見出し合ってんだろ」


「班長! もう時間がありません!!」


 最終的な判断は『イベント班』の班長として配属された人物。

 班長は個性的なアバター達とは違い、赤のホログラム状で無機質なアバターだった。

 動作でホログラムが形を変化させるだけで、表情は読み取れない。


 班長から女性の声で作業中のメンバーに尋ねる。

 慌ただしく討論続けるメンバーと違い、彼女は冷静だった。


「ジャバウォックに搭載された……起動しているか。プレイヤーの様子はどうだ」


 作業中のメンバーは皆、揃って首を横に振る。


「駄目です。起動しているにはしてますが……」


「この人数を処理できないか、あるいは威力が足りないかですね。次回のアップデートには改善したいと思いますが……」


 班長は彼らの答えを聞き、致し方ない決断を下した。


「……作業班。最終ステージで、春エリアの妖怪を全て投入にしろ。まだデータを書き換えられるな」


「え!? マジっすか」


「全てって……要は『バンダースナッチ』と『マザーグース』もですよね!? てか、メインクエスト用じゃないですと、クリアしにくく……」


 困惑するメンバーに対し、班長も承知の上だった。


「ああ、そうだ。メインクエストよりも強化されたAIに能力。初心者ではまず勝てない。経験あるプレイヤーは確実に苦戦する。ムサシやカサブランカ辺りは互角に渡り合える」


「いや……現状、渡り合えるのはムサシ辺りしかいないですよ」



「全員って……あ、そういう」


 メンバーも納得してしまう。

 不祥事ばかりのイベント。様々な問題ばかりを公平に解消するには、全員を脱落させるということ。

 協力し合わなければ、クリアできなかったと誤認させる。

 強引かつ理不尽だが。イベントを盛り上げるには、悪くはない。

 むしろ、それで解決されるなら、構わない勢いでメンバーも班長の指示に従い。システムを組み替えた。




 レオナルドが白兎とじっと見つめ合っているのに、僕は周囲に聞き取れられない小声で耳打ちする。


「僕に考えがある」


 それを聞いて、レオナルドは怪訝そうな表情で振り返った。

 悩ましく頭をかいている彼の様子から、白兎を入手できるなら入手したい思いがあるんだろう。

 すると、僕らの会話に割り込んできたのはムサシ。


「ペナルティを急に設ければ暴動ものだな。たかがゲームで抗議運動の時代か」


 たかがゲーム。されどゲームといったところか。

 僕も同意はしておく。


「そうですね。イベントの概要にはペナルティの有無は書かれていません。ですが、最悪の想定をしておいても損ではないでしょう」


 こればっかりは運営の人柄次第だ。僕は含みある話を広げた。


「少なくとも、早急にこれから発生する最終イベントを変更することはできない筈です。全プレイヤーがクリア可能な難易度。もしくは他プレイヤーとの協力あってクリア可能な難易度でしょう」


 最低でも二人以上のプレイヤーと同行が必須。

 「協力ねぇ」と気に食わなそうなホノカは、周囲を警戒し始めた。

 ふと、僕も他プレイヤーの動向――……とくにアイドルファン連中の動向を観察してみると。

 奴らは僕らを捕捉するなり、一定の距離を保って囲っている。


 前列にいるのは盾兵ばかりだ。

 なるほど……防御スキルの壁で僕らの身動きを封じる作戦なんだろう。

 防御スキルの壁は、一定時間だけ耐久度が設けられた壁を展開。攻撃を防ぐ仕様が多い。無論、味方の攻撃も防げるし、プレイヤーが壁をすり抜ける事が不可能。


 盾兵系のジョブスキルで『吹き飛び防止』があるので『火炎瓶』の爆発やレオナルドの大鎌による吹き飛ばしを無効化している。

 立派な邪魔だ。

 そういう立ち回りのヘイト役を買って出るのが基本だが、僕ら相手のヘイト役をするなんて腹立たしいにもほどがある。

 多分、弱体耐性のスキルも装備に付与しているだろう。


 僕ら以外のプレイヤーに関しては除外している訳ではないが。

 ヘイトを買っている僕とレオナルド、ムサシやホノカの存在を優先して潰そうと目論んでいる。

 恐らく、最後の最後まで居残る魂胆だ。


 厄介なムサシの存在を食い止めてくれるなら、構わないとアイドルファン以外の他プレイヤーは無視している状況だ。

 どいつもこいつも糞ばかり。


 だが、それも想定済みだ。

 糞女共には聞こえないように、僕が作戦をレオナルド達に伝える。

 ムサシは特別反応せず。ラザールに関しては「なんだそりゃ!」と面白半分に笑う。

 ホノカはドン引きして、レオナルドだけは真面目に「それ、いけんのか?」と心配する。

 心配も何も――僕は笑って答えた。


「これは君の努力の賜物だよ。君のお陰で出来る事さ。今日まで僕らが培って来たものを、このイベントで全て出しきろう」


「……おお」


 なんだか良い響きの言葉に、レオナルドの表情も自然と和らぐ。

 同時に、レオナルドに対し僕は告げた。


「僕の事は気にしないで、君は脱出することだけを考えるんだよ。いいね」


「………ああ」


 僕の言葉に、レオナルドは意味深に頷いた。

 まあ、こうでも言わないと彼は自分でどうすることも出来ない。レオナルドは無欲が過ぎる。

 やる気がないんじゃない。

 気力が無い。

 執着心やしみったれた意地すらない。誰もが持つ情念というのが欠如していた。

 強いて挙げるなら、彼を揺れ動かせるのはカサブランカの存在だけだろう。


 改めて周囲を見渡すが、カサブランカはどこにも姿が見当たらない。

 恐らく、女性という性別柄、アイドルファンと大差ないので警戒されておらず、女共に紛れ込んでいる。

 その忌々しい女共は、甲高い声のせいで耳をすませば自然と会話が聞こえる。


「いい!? 練習した通りにやるのよ」


「分かってるってば!」


「とくに黒髪野郎は一番ヤバい奴だから、絶対よ」


 他にもメンバーに関する話題も交わし合っているようだ。


「ねえ、睦くんが脱落したって本当なの!?」


「私、翔太くんと一緒のパーティで翔太くんが無茶苦茶強かったのよ!」


「やっぱり、一番凄いのは心くん! 翔太くんより先に、ここに到着したんだから!!」


 ……成程。

 僕の予想通り、一番警戒しておくべきはリーダーの心だ。

 竜司は問題ないが、戦闘スキルの高い翔太が厄介な障害物になりえそうだ。

 喧しいざわめきをかき消すように、声が一つ大広間全体に響き渡る。


「おやおや。これほど生き残ってしまったのか。これは残念だ、とてもとても残念だ」


 歌うように。

 あるいは舞台男優のように立ち振る舞う口調で語るオーエンの声。

 姿を隠す素振りなく、空中にポツンと頭部だけが現れる。

 チェシャ猫をモチーフにしているだけあって、ニタニタと笑いながら一方的に語り尽くす様は人によってはもどかしい。

 何故なら、オーエンが演説する間はイベント扱い。プレイヤーの僕らは口出しも妨害も不可能。


 アイドルファンも、誰も彼も静まり返っていく中。

 頭部だけが浮遊、揺れ動くオーエンは、笑みを途絶えずに語り続けた。


「吾輩は、お前たちがどうなろうとも知ったこっちゃないのさ。お前たちが面白い事をしてくれないかなと観察してただけだよ。ははは、これっぽっちも期待しちゃいなかったが、ほんの一握りだけは面白かったとも」


 クルクルと頭部が一回転し終えてから、裁判官の法服を着たオーエンの体が現れ、頭部と繋がった。

 唐突にオーエンは、法服の上着を脱いで見せる。

 質素なワイシャツとズボンの格好になって、オーエンが優雅な動作で手元に大鎌を出現した。


「さて。何も吾輩はお前たちを観察してただけではない。どうしようかと考えたが、こうすることにした。お前たちの誰かが吾輩に傷一つ負わせれば、ここから出られる。どうかね?」


 如何にも自分を攻撃しろとアピールするオーエン。

 奴が指を鳴らすと、大広間全体が大きく振動し始めた。

 豪勢なシャンデリアが落下、西洋式の壁紙が崩落し、壁自体が倒れ消えてしまう。


 大広間の外は壮大な空間が広がっていた。

 恐らく、大広間から足場として繋がってる地面は、今まで僕らが通って来たダンジョンを使ったものだ。それらしい残骸や要素が見られる。


 足場が真っ直ぐ続いている突き当りに向かって、オーエンはバッグで浮遊移動していく。

 足場の両脇は水面があり、そこに生息している妖怪たちは、道中僕らが倒した雑魚妖怪たち。

 それ以外の天井や周囲は漆黒が広がり、奥がないように錯覚する。


 いよいよ、イベントが始まるかと思った時。

 兎の檻に屯していたジャバウォックたちがオーエンの後を追うように、浮遊移動していく。

 だが、他にも異常な光景があった。


 何もなかったオーエンが向かう深淵から裂け目が発生する。

 ジャバウォックたちはそこへ向かっていた。

 裂け目から現れるもの――最初の一面で散々苦戦強いられた『クックロビン隊(隊長不在)』の面々。まともに喋れなかった筈の奴らが、耳を塞ぎたくなるような甲高い悲鳴を上げる。


 続くように『リジー・ボーデン』の二人が鉈を鳴らしながら、登場し。

 喧しいオルゴールを鳴り響かせ道なりの脇にある水面から『ロンド・トゥ・ロンロン・ヌルヌドゥソン』の石橋が一部現れ。

 裂け目から霊体のロンロンが姿を見せ、更には『メリー・E・ソーヤー』に『ブライド・スティンク』、更には『バンダースナッチ』まで。


 春エリアのメインクエストボスが全員集結した壮観な図だった。


 これが普通のイベントだったら、粋な演出だ。

 所謂、ボスラッシュが実現されている。加えて人気高い妖怪たちばかり。妖怪ファンがここにいれば相当な盛り上がりをした事だろう。

 残念ながら、ここにいるのは妖怪ファンではなくアイドルファン。

 開幕の合図と共にアイドルファンは一同に洗練された動きを見せる。


「私たちが足止めするから、早く行って!」


 これが敵を前にした味方の台詞なら、どれほど感動的だったか。

 仲間である僕らを足止めする為に、盾兵系のアイドルファンが防御スキルによる盾を展開させる。

 僕らが完全に包囲されている以外にも、向こう側で幾つか同じような現象が起きていた。

 アイドル以外の他プレイヤー達の足止めをしているのか。


 怒声や歓声やら騒がしい中。

 心と竜司、翔太が逆刃鎌で浮遊移動してオーエンの後を追跡しようとする姿が、上空で見られた。

 ファンサービスで、振り返ってアイドルファンに手を振っている。

 腹立たしい。

 先程まで同じパーティだったなんてお構いなしだ。竜司だろうが、なんだろうが全員蹴散らしてやる。


 僕の作戦通り、レオナルド達は被害を受けないように、僕より後ろに下がった。

 薬剤師系のジョブの技能『薬品一式』。一度に十個の薬品を同時使用可能。

 プレイヤーの強化薬品だけではない。

 『火炎瓶』などの妨害系も一度に使用可能だ。


 僕はプレイヤー待機中にセットしておいた『火炎瓶』で構成された『薬品一式』のセットを使用。

 単純に『火炎瓶』といっても薬品同士を掛け合わせる技能『合成』で作製した威力あるもの。

 『火炎瓶』に関しては敵味方関係なくダメージを与える爆弾めいたアイテム。

 恐らく、向こうも僕が『火炎瓶』を使用するのは想定済みだ。


 連続使用する『火炎瓶』で防御壁が破壊されれば、他プレイヤーが入れ替わって壁を貼り直す。

 盾兵系のジョブ2『守護騎士』に関しては、更に上位互換の防御スキルがあるうえ。

 本来、ジョブ3『守護神』で使用するのを想定されたスキル『カウンター・アイギス』を使用する者まで。


 『カウンター・アイギス』は一定時間、盾が破壊されない限り攻撃を吸収し続け、相手に吸収した分のダメージを跳ね返すスキル。盾の耐久度は並ではないので、厄介極まりない。

 糞女共が培った努力や健気さは、無意味だ。

 僕は『薬品一式』で『火炎瓶』のセットを使用しまくる。


 ただ、使用し続ける。


 延々と使用し続ける。


 黙々と使用し続ける。


 『薬品一式』にセットした最初の『火炎瓶』一式を使用し終えたら。

 今度は二番目の『火炎瓶』一式を使用する。

 次は三番目の。

 その次は四番目の……


 どれも調合内容を変えた威力高い『火炎瓶』のセットだ。

 勿論、それを最大スタック数99個まで所持している。


 最早、僕自身が爆弾魔と化しているレベルで周囲一帯が炎の海と化していた。

 どれだけ防御してようが、限度がある。

 MP回復している暇など与えるものか。

 お前らが呑気に僕らへ嫌がらせしている時間は、これほどの薬品を作製するほど価値があるものだと思い知れ!


「ちょ……ちょっと―――!?」


「キャアアアアッ!!!」


 いよいよ、前列に崩壊の兆しが見られた。だが、僕は攻撃の手を止めない。

 前列を蹴散らした後、その次は向こう側にいる女共だ。

 黒煙と炎ばかりの周囲を僕はいよいよ前進した。

 僕自身、残り香である炎にダメージを受けながら『火炎瓶』を使用しまくった。


「ど、どうなってんのよ!!? 幾つ持ってんのよ、アイツ!!」


 勢いに押されて、他プレイヤーを妨害する女共の方へ逃げ惑う連中。

 しかし、これは盾兵系の弱点で。

 前方は強力な防御力を誇る故、背後はお粗末になりがちとなる。

 つまり、他プレイヤーの前方を向いている盾兵共は、僕には背後を向いている。恰好な獲物だ。

 それに気づいた連中が、逃げて来た奴らに吠えた。


「こっち来ないで! 私達が巻き添えになるんだけど!!」


「はぁ!? 状況分かってるなら、私達を助けなさいよ!」


 馬鹿の一つ覚えでいがみ合う連中ごと、僕は『火炎瓶』で吹き飛ばす。

 広範囲に、自棄糞気味に、盛大に『火炎瓶』を放つのは気分がいい。

 連中は思っているだろう。

 『火炎瓶』は消費アイテムだから数に限りがある。いづれ『火炎瓶』も尽きる事だろう、と。


 そんなことはない。

 『薬品一式』は最大で十セット作れる。当然『火炎瓶』一式のセットは十セット全て埋まっている。

 一セットだけで最大スタック数込みで

 十セットで


「幾つあるかって? 『薬品一式』にセットしている以外に十二種類の『合成:火炎瓶』が最大スタック数ある。合計は


 僕の宣告を聞いた女共が顔面蒼白になっている。

 たかが100個や500個だと思ったのか? そんなもので済む訳がないだろう。

 まあ、これも全てレオナルドのお陰だ。


 彼が幸か不幸か、座敷童子のジャバウォックを引き連れたお陰で少ない素材で上質な薬品を作製できるようになったのと。

 アイドル騒動の一件で、レオナルドが膨大な素材を備蓄してくれたこと。

 全てが噛み合った事で実現可能になっただけだ。

 あとは、僕が地味な薬品作製をやり遂げられるか否か。


 元より協力戦なんてしていないんだ。協力拒否したのは僕らじゃなく、向こうだ。

 だったら、僕らが連中に協力する義理なんてない。

 一面を黒煙と炎の海とする勢いで、僕は『火炎瓶』の連続使用をし続ける。

 瞬間。僕の興奮を冷ますように、レオナルドの叫びが僕の耳に入った。


「あ! 不味い!!」


 彼が注視していたのは、兎たちが入れられた檻。

 その檻の足場になっている柱が『火炎瓶』の被害をうけてしまった。今にも崩落しそうだ。

 僕がつい、レオナルドが逆刃鎌で浮遊移動するのを見届けていると。

 脇に凄まじい速度で何かが吹き飛ぶ。


 僕の猛攻を制止しようと攻撃をしかけてきたアイドルファンが、ムサシに蹴り出されて、大広間から水面の方へと落ちた。

 遠方では、ロンロンの石橋がオルゴールを奏でて、奴が変化可能な素材で生み出した人型から四足歩行の獣型の兵器を産み落として。

 メリーが放電する羊を大量に登場させながら横一列の陣形を取りつつ、僕らに接近してくる。

 リジーとボーデンも、ダンジョンの足場を辿って、こちらへ駆けて来た。


 僕の猛攻のお陰で身動きできるようになった他プレイヤー達も、一同に駆けていく光景が広がり。

 けれども、アイドル連中たちが頭抜けて、オーエンに近い位置にいた。

 ムサシは一瞥しないで、僕に告げる。


「私は先にいくぞ」


 僕の返事も聞かず、凄まじいスピードを出す姿は、僕らと同行している内は全力じゃなかったと体現していた。

 なんにせよ。

 大広間は炎の海で女共の中でも、盾兵系のプレイヤーがいなくなった以上。

 奴らも他プレイヤーの後を追って、大広間から離れて行く。

 ラザールが僕らに対し、魔石のブースト準備を整えつつ宣言した。


「なにやってんだ! 俺は行くぞ!!」


 レオナルドは「後で追いつくから!」とラザールに返事をする。

 半信半疑のようだったが、ラザールもレオナルドの人格を理解しているだろう。

 アイドルファンと他プレイヤーを押しのける勢いで、風と雷、夏の季節の力を組み合わせた魔石でブーストをかけた。


「行くぜ! 『エレクトリック・サマー・ボルト』!!」


 あっという間にラザールの姿が消え、風圧だけが僕らを襲い掛かる。

 レオナルドは手元の大鎌を上手く使い。兎たちの檻を降ろした。

 残ってくれたホノカが、格闘家系特有の物体破壊スキルで檻を破壊してくれている。


 兎たちは揃いも揃ってレオナルドに群がってくる。完全に囲われたレオナルドは「助けてくれー!?」と謎の悲鳴を上げていた。

 なんだか、呪いレベルの好かれようだ。

 すると、兎たちは続々とレオナルドから離れて行く。それぞれ、兎たちの装飾から人間の声が聞こえる。


『一体全体どういうこと!? 貴方達、状況が分かっているのかしら!』


『信じられない……そこの君! 何をやったか自覚はあるかね』


 兎たちは僕に対し鼻をヒクつかせているので、多分僕に対する非難だろう。

 仕方なく弁解する。


「ああする他なかったんです。勘違いしないで欲しいのは、僕個人以外にも恨まれている人間が多数いたことで、このような事態に発展してしまいました。処罰は後でどうとでも与えて下さい」


『はあ、まったく! 私怨に囚われるなど、冒険者にあるまじき行為だ!!』


『み、皆さん。今は一人でも多く、皆様を脱出させましょう』


 一石投じたのは、僕らを案内してくれた白兎の主『トム』。

 こうして兎を通して話しているのも全員『祓魔師エクソシスト』なんだろう。

 改めて、『祓魔師エクソシスト』の一人が話を切り出した。


『まずは今この場にいる者達を先導する。各自、他の冒険者と合流し次第、先導せよ!』

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