第25話
翌日。
学校ではアイドルファンによる墓守系の迫害が話題になっているかと思いきや。
予想外の状況になっていた。
「はぁ!? ムサシの動画全部消されてるのって、それが原因なのかよ!」
「ムサシ、全然悪くねーじゃん」
「いい迷惑だよ」
僕が下駄箱に到着するなり、男子生徒の会話が聞こえる。
ムサシ――宮本武蔵の動画アカウントが停止された。
所謂、アイドルファンによる通報被害を受けた訳だが、問題はその経緯。
ムサシの強さを警戒し、イベントの参加中止を求める抗議なら、他の動画投稿者同様、巻き込まれ被害で済む。
だが、ムサシが被害を受けた原因は、全く別のものだった。
「なあ、知ってるか? ムサシのフレンドが『逆刃鎌』を広めた『魂食い』だって!」
「マジ? ソースあんの??」
「ソースどころか、特定されてるぜ!」
噂を広める彼らは、SNSであげられている動画を視聴していた。
彼らの脇を通り過ぎる僕は、僅かに聞こえる程度だったが心当たりは幾つかある。
レオナルドがサクラに絡まれたのを撮影されたもの。
ムサシの動画ではレオナルドの姿は隠れていたが声は加工されなかった。
最近、ホノカと会った際に野次馬たちに話しかけられたとレオナルドに聞いていた。
……つまり『声』で特定された訳だ。
容姿や顔はフードと仮面で隠せても、素の声をどうこうできない。
極めつけは、こんな話に方向が傾き出している。
「レオナルドって奴が『逆刃鎌』広めなきゃ、糞アイドル達も調子乗ったりしなかっただろ!」
「てか、アイツ。ムサシに馴れ馴れし過ぎ」
「動画で出しゃばってるの、ムサシの人気に便乗してるからだよな」
『逆刃鎌』がなくとも、アイドル共は宣伝活動でゲームにログインしただろうに。
下火でレオナルドに対する不満があったムサシのファンが、便乗して叩き出しているらしい。
流石に、レオナルドは無視しておけないだろう。
だからと言って、悪化した状況を打開する良案なんて無い。
僕が警戒しているのは、僕自身のこと。
レオナルドが特定されたとなると………僕はいつも通り教室に入り、クラスメイトに挨拶してみる。
彼らは、普通に返事をしてくれた。
警戒心を解かずに、僕が自分の席に座ると問題の調子のいい男子生徒が話しかけて来る。
例の、アイドルグループを贔屓する側の奴だ。
「おはよ~レンレン! ムサシーヌの動画、全部消されちゃったよね!! いつ復活するのかな~」
馬鹿らしくすっとぼける男子生徒に「そうなの?」と僕は知らん顔で尋ねる。
まだ、僕が事態を把握していないと思ってか。
ベラベラと現状説明する男子生徒。
「レオナルドって魂食いが『逆刃鎌』広めた奴で、しかもムサシーヌとフレンドになってた奴と同じ! とばっちりで、レオナルドが出てた動画が通報されて、アカ停止らしいよ!! も~最悪だよね~~俺もムサシーヌの動画は楽しみにしてたのにさぁ」
「……秋エリアの攻略も終盤だっただけに、残念だね」
「レンレンってムサシーヌのファンでしょ? リアクション薄くない??」
「僕はファンというより、攻略とか戦闘の参考をさせて貰っている方かな……完全停止処分じゃないんだよね。なら、いいんだ」
「あはは~。レンレンはそっち系ね。ムサシーヌは絶対戻ってくるから大丈夫!」
……どうやら、僕自身に探りを入れている様子はない。
サクラの件では、僕も撮影されていただろうし、声で僕だと気づく恐れもある。
コイツなら、現実の僕に関する個人情報をバラまくんじゃないかと思ったが……違うようだ。
何事もなかったように、ホームルームが始まる。
だが、これではアイドル連中よりもレオナルドにヘイトが集中するだろう。
『逆刃鎌』を広めた事。
ムサシの人気に便乗して目立った事。
サクラ相手に委縮したから、大した人間じゃないと舐められる。
最悪なフルコースを突き出され、普通の奴なら到底、イベントには参加しない状況だ。
レオナルドの事だから、ムサシが被害を受けた時点で相当のショックがある筈。
今日は春エリアラスボス『マザーグース』に挑戦する予定だったが。
……無理か。
一応、ログインしてレオナルドと話し合おう。
◆
などと考えた時期も僕にはあったが、無駄に終わった。
レオナルドはショックを受け、完全にイベント参加への意欲が失せたと思ったのに。
僕がログインし、店内の光景を目の当たりにして言葉を無くした。
ジャバウォックがカウンター席に陣取り、地下室から持ち出しただろう薬草と鉱石を並べている。
まるで、カウンターに商品を並べた小さな店のよう。
店主のように待機するジャバウォックが、無垢な表情で言葉を発す。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー」
そんな奴へ声をかけるのは、僕でもなければレオナルドでもない。
綺麗に梳かした金髪ロングヘアに。
眼球のない呪いの人形『メリー・E・ソーヤー』がカウンター越しから顔を覗かせていた。
「ごめんくださーい。今日は薬草は欲しいの、いくらかしら?」
「クッキー三枚です」
「はい、どーぞ」
「ありがとうございましたー」
完全な『お店ごっこ』を繰り広げているのを僕が無言で眺めていると、僕に気づいたメリーが突拍子もない叫び声をあげた。
「キャアアァアァァッ!? び、ビビビビ、ビックリしたぁ! いるならいるで話かけなさいよ!!」
不気味な顔面に似合わず、ぷんすか拗ねた表情をするメリー。
妖怪なのに、そっちが驚いてどうするんだ。
第一、何故ここにいる!
と、突っ込みたいのはメリーだけではない。
店内のテーブル席に突っ伏していた『バンダースナッチ』が気だるそうに文句言う。
「うるせーなぁ……静かにしろよ」
「なによ! 寝るなら、外で寝なさいよ!!」
「外も人間が多くて寝られねーの、分かってんだろ。ああ、クソ」
完全に目を覚ましたと不満を訴えるように身を起こすバンダースナッチに、こっちの方がクソだと口に出しそうだ。
バンダースナッチの隣で、空間の裂け目から顔出す『クックロビン隊』と戯れていたのが、レオナルド。
彼は僕に気づいて「ルイス!」と驚き以外にも、興奮気味で声かける。
挨拶をしないで、僕自身、顔をしかめている自覚を持ちながら、彼に問いかけた。
「これ……どういう事だい。レオナルド」
「それが、俺にもよく……あ、ほら! ルイス、見てくれよ」
レオナルドが、作り置きしていた菓子を幾つか手元に用意している。
まず、カップケーキを手に持ち『クックロビン隊』に見せた。
彼らは興味深く観察。その内、一匹?が唐突に口から音を発した。
「かっぷけーき」
レオナルドが『正解』を言えた鳥頭にカップケーキを与えると、そいつは嬉しそうに体を揺らす。
次にエクレアを手に持つレオナルド。
別の鳥頭が「えくれあ」と音を発して、ソイツにエクレアは渡された。
ボス戦では喋りが出来なかった『クックロビン隊』は、言葉を覚えてきているようだ。
……もしかしなくても、例のイベントをクリアしたボスキャラがマイルームや店に現れるようになる。
そんな仕様なんだろう。
だが、僕も面白そうに彼らの相手するレオナルドに指摘した。
「それ作ったの、僕だからね」
「あ、わ、わかってる! 今度素材取りに行くから……」
◆
~フレンドチャット~
※最新のメッセージ100件まで表示します。
<レオナルド>
[ムサシ、大丈夫か]
<レオナルド>
[いや、大丈夫じゃないのは分かってるけど]
<レオナルド>
[SNSで調べたら逆刃鎌の件で俺が特定されてちまったみたいだ…]
<レオナルド>
[動画の声が一緒だって。そういうの調べる奴いるんだな]
<レオナルド>
[怖ぇよ、こんなんで分かるなんてさ]
<レオナルド>
[それより、俺のせいでアカウント停止しちまったのは謝る]
<レオナルド>
[本当にごめん]
<レオナルド>
[色々見たんだけどさ]
<レオナルド>
[やっぱり動画にムサシが出てるだけの方がいいみたいだな]
<レオナルド>
[俺のこと嫌いって奴、結構いるんだよ]
<レオナルド>
[ちょっとくらいならともかく、結構多い]
<ムサシ>
【どうでもいい】
<レオナルド>
[え?]
<ムサシ>
【赤の他人が勝手に騒いでるだけだ】
<ムサシ>
【どうでもいい】
<レオナルド>
[いや、お前のファンなんだって騒いでるの]
<レオナルド>
[ファンを無視するのは良くないって]
<レオナルド>
[うーん]
<レオナルド>
[アンチは無視しろって奴かもしんねーけどさ]
<レオナルド>
[俺を動画に出すのは止めるとか、どうだ?]
<レオナルド>
[皆、お前が活躍してる動画が好きなんだよ]
<ムサシ>
【どうでもいい】
<レオナルド>
[俺のこと、気使ってくれてるのか?]
<レオナルド>
[俺は大丈夫だよ]
<ムサシ>
【だろうな】
<ムサシ>
【だが、どうでもいい】
<ムサシ>
【私は連中に媚びを売る為に、動画を投稿していない】
<ムサシ>
【私は生き続ける為に、動画を投稿し続けている】
<ムサシ>
【糞の様な世界だ】
<ムサシ>
【何もしなければ誰の目にも触れられず、誰にも理解されずに埋もれる】
<ムサシ>
【誰かの役に立とうと有名になっても、興味のない奴は無関心だ】
<ムサシ>
【誰かを楽しませようとしても、気に食わない奴にとっては不愉快だ】
<ムサシ>
【何故、切り裂きジャックは人を殺しておいて、今なお、その名が息づいているのだろうな】
<ムサシ>
【何故、過去の偉人は散々人を殺しておきながら、英雄扱いされるのだろうな】
<ムサシ>
【時代が違うだけか?】
<レオナルド>
[カッコイイから?]
<レオナルド>
[皆、普通に生きてないじゃん]
<レオナルド>
[上手く言えないけどさ]
<レオナルド>
[魅了てかカリスマって才能の一つなんだろうな]
<ムサシ>
【奴らが永遠に生き続けるように】
<ムサシ>
【私は永遠に生き続けられると思うか?】
<レオナルド>
[それがムサシの夢?]
<レオナルド>
[永遠に生きるかぁ]
<レオナルド>
[俺って必要?]
<レオナルド>
[強いムサシとして生きたいなら、俺は必要ないと思うんだよ]
<レオナルド>
[多分、邪魔]
<ムサシ>
【人が死ぬときは、誰からも忘れ去られた時だ】
<ムサシ>
【もう一度問うが】
<ムサシ>
【私は永遠になれるか?】
<レオナルド>
[あ、悪い。そういう意味か]
<レオナルド>
[ムサシ、普通に喋った方がいい]
<レオナルド>
[普通っていうか素の喋り?]
<ムサシ>
【私が喋って何が楽しい?】
<レオナルド>
[んー、この前だけど]
<レオナルド>
[俺が悩んでた時、忘年会の一発芸でも考えているのか?って聞いてきたじゃん]
<レオナルド>
[ああいうの。面白おかしいって奴?]
<レオナルド>
[いい意味で]
<レオナルド>
[あ!俺の一個人の意見だからな、真に受けるなよ?]
<レオナルド>
[俺、役に立ってる?]
<ムサシ>
【一つ言えるのは】
<ムサシ>
【お前のような人間はそうそう居ない】
<ムサシ>
【顔が分からなくても、区別がつく】
<レオナルド>
[そっか]
<レオナルド>
[分かった、もうこの話やめよう]
<レオナルド>
[ムサシ、イベント参加するか?]
<ムサシ>
【する】
<レオナルド>
[どんな感じなんだろうなぁ]
<レオナルド>
[バトルロイヤルの時みたいに、皆一緒?]
<レオナルド>
[そうだ、イベントで俺とルイスが着る服、画像で送るから]
<レオナルド>
[服なら大丈夫なんだよな、ムサシ]
<ムサシ>
【野次馬で分かりそうだがな】
<レオナルド>
[あー……かもな]
<レオナルド>
[でも一応、送っておく]
≪レオナルドさん から 画像データ が 送られてきました≫
<レオナルド>
[明日、思いっきり楽しもうぜ]
<レオナルド>
[それじゃあ、おやすみ]
<ムサシ>
【おやすみ】
◆
ムサシとのチャットログを見せ終えたレオナルドは、慌ててイベント衣装を僕に渡す。
「これ、ミナトさんから引き取って来たぜ。こっちは俺のな」
レオナルドも自身の衣装を手元に出現させた。
本来購入する予定だった、重量補正と攻撃速度をアップのスキルが付与されている『白金の鎧』。
ミナトに頼んで購入して貰い。
彼は、レオナルドのイベント衣装に合わせて鎧に青のアクセントを付けてくれたらしい。
『白金の鎧』は全身装備のものではなく、上半身の胴部分と肩当から肘当までのもの。
鎧の下に薄いライトブルーのフード付きのコート。
イベントに合わせ注文が殺到しただろう『アリスドレス』の余り生地だと分かる色合いだ。
青薔薇が刺繡された白ズボン。
どことなく、アリスの雰囲気になる組み合わせは不思議と悪くない。
衣装に合わせた仮面も作って貰っていたが……意味はなさそうだ。
僕の衣装は、レオナルドとは対照的に赤コートに白ズボンには赤薔薇が刺繡されている。
お揃いで購入を依頼した僕の『白金の鎧』は赤のアクセントがある。
そして、兎の仮面。
衣装確認中、テーブルに置いておいたら、ジャバウォックが手に取り、面白半分に被っていた。
僕は一息吐いて、完成された衣装を飽きるまで眺めるレオナルドに言う。
「やっぱり、イベントには参加するんだね」
「お、おう」
一旦、イベント衣装をしまってレオナルドは真剣に言う。
「ルイスは無理しなくていい。でも俺は……やっぱり、参加しねぇと」
僕らの傍らで『クックロビン隊』は内容を理解できないようで首をかしげていて。
ジャバウォックは、兎の仮面をいじるのに夢中だ。
メリーは怪訝そうな表情をしていて、一番ダラダラしていたバンダースナッチが唐突な質問をぶつける。
「んだよ。好きな女が参加するから行くのか?」
コイツは余計な事を口出した訳じゃないんだろう。
レオナルドが参加する姿勢を崩さない理由を、適当に探っただけだ。
だが、無自覚だったレオナルドに指摘するのは『余計』だった。
僕も誤魔化そうとするが、レオナルドは素っ頓狂に「まさか!」と否定から入る。
「好きってアレだろ? 胸がドキドキするとか、結婚したいとか思う奴。いや~……カサブランカは違うって。好きっていうか、尊敬?憧れてるけど、結婚は別に。一緒にいたら命いくつあっても足りねぇよ」
……なんというか。
第三者から見れば実に分かりやすいとは、この事か。
レオナルドは間違いなく、明確な恋愛感情を抱かないタイプの人種だ。
しかし、彼は変に結びつけようとは捉えないだけで、何等かの切っ掛けでカサブランカに対する意識を高めてしまう恐れがある。
他人に口出すのは、どうかしているが。カサブランカだけは駄目だろう。
それに、レオナルドは他にも付け加える。
「別にいいやって、投げやりになっちまう諦めがちな自分は駄目だなって、ずっと思ってたんだよ。どうにかしたいって。今回は、ムサシとも約束したから……絶対に参加する」
問題はイベントの形式か。
バトルロイヤルと同じ、参加者一同が一か所に集められるのは最悪。
そのまま、全員でダンジョンなんて無理。無謀に近い。
……とにかく、僕は話題を逸らす。
「今日はどうする? レオナルド。昨日、計画した通りにあそこへ向かうかい」
ジャバウォックたちの前なので『マザーグース』の名は、あえて伏せて彼に確認する。
レオナルドも察して、複雑そうな表情で頭をかく。
「もうちょっと、考える時間が欲しい……行くには行くつもりなんだけど」
『マザーグース』のところには向かうが、奴をどう説得するべきか。踏ん切りがつかないのだろう。
僕はレオナルドに「分かったよ」と返事をした。
僕らの会話を聞いてメリーが興味津々に「どこに出かけるの?」と尋ねる。
レオナルドが適当に誤魔化す中、僕は改めて状況確認をした。
メニュー画面から『ワンダーラビット』の店内状況を開く。
キチンとジャバウォック以外のメリーとバンダースナッチ、クックロビン隊の位置情報が表示されている。同時に解説画面が自動的に開かれた。
<特別なお客様>
〇特殊イベントをクリアすると、クリア条件を満たしたプレイヤーのマイルーム、経営店、ギルドに『特別なお客様』が出現するようになります。
〇一定の好感度を上げるとプレイヤーから受け取った装飾品、衣服を身に着けてくれるかもしれません。
〇更に好感度を上げると特別な事が起きるかも……?
まあ、そんなシステムだろう。
昨日はクエスト終了後、何も起きなかった。
恐らくイベントをクリア後、翌日から出現するようになる仕様だろう。
店内にいるジャバウォックたちと他の妖怪達の好感度と満腹度が、画面脇で常に表示されている。
満腹度は新薬を食べられる具合として……
好感度は、あくまで
リジーの好感度が高いのは分かるが。
ジャバウォックとロンロンの好感度が高いのは、よく分からないな……
大体想像つくが、僕はレオナルドに自分のメニュー画面を開いて尋ねた。
「君の方の好感度は、どんな感じか見せてくれるかい?」
「おー、こんなんなってるんだ。ええっと」
レオナルドも自身のメニュー画面を開いてみると、案の定、好感度は………高めだ。
想像通り、ではなかったが。
クックロビン隊とボーデン、メリーの好感度は比較的高めで、バンダースナッチも自棄に高く。
僕とは対照的に、ジャバウォックとロンロンからの好感度は低めだ。
この二人の基準よりも理解に苦しむのは――スティンク。
……バグっているのか?
ちょっとした不具合でも発生しているんじゃないかと思った矢先。
メニュー画面を眺めていたレオナルドが気づく。
「ルイス! ほら、ここ」
レオナルドが指し示した箇所に視線を向け、僕は躊躇なく『工房』へ駆けて行った。
勝手に侵入してきた奴らの声が聞こえる。
「ここに入ったら、流石に怒られるわ……」
「作り置きした奴、一つや二つなくなったってバレやしねぇって!」
僕が工房を漁っていた『ボーデン』を睨みつけていると、奴はわざとらしい勢いで息を飲む。
奴と共にいるリジーは、僕を見るなり嬉しそうだ。
物の配置を無茶苦茶にされるのは、溜まったものじゃない。
反射的に僕は聞いてしまう。
「変に物を動かしてないだろうね。棚にあるのは順番通り並べているんだから」
「触ってねえ、触ってねえ!」
ボーデンが激しく否定していると、リジーが珍しく即座に豹変。
棚を確認する僕に訴える。
「嘘よ! コイツ、棚の中、ごちゃごちゃしたのよ! 私は触っちゃ駄目って注意したのに!!」
しがみ付いてくるリジーを穏便に引き離す一方。
ボーデンも負けじと反論した。
「リジーの方がベタベタあっちこっち触ってんぞ! 椅子に頬擦りしてたぜ!! 気持ち悪りぃ!!!」
「してねぇよ! ブサイク!!」
「あと服探してたぜ、服! 服探してどうするつもりだったんだろーなぁ!!」
「ないことベラベラ喋ってんじゃねぇぞ、このハゲ!」
棚を整理しながら、僕は最初に指摘するべき部分に憤る。
「二人とも。勝手に侵入しないでくれ。追い出したりしないんだから、今度から正面から入ってね」
素直に反省するかと思いきや。
リジーは、恥ずかしそうに体をくねらせ言い訳した。
「だってぇ……妖怪だから。ビックリさせたいの………駄目?」
なんだ、それは。
二人の騒ぎを聞きつけて、メリーやジャバウォックが店内から顔を覗かせている。
メリーに至っては驚きもせず、慣れた感じで話しかけた。
「アラ! 二人一緒なんて珍しいじゃない」
ボーデンもメリー達に驚き、リジーは僕から一旦距離を取る。
ジャバウォックは仮面をえらく気に入ったのか、頭につけている。
奴は店内に配置していた小物を手に、僕に突撃をかます。
いや、突撃というより突き刺してきてる。
「でゅくし! でゅくし!」
ああ、もう!
レオナルドがクックロビン隊を学習させる為に、菓子を与えてばかりだから。
自分も欲しいと駄々こねているんだろう。
ブチ切れそうな衝動を抑えながら、僕はジャバウォックの攻撃を手で防ぐ。
「今日の分を作るから席について待ってくれ!」
菓子の事だとメリー達も理解して。
ボーデンが「マジかよ!」、メリーは「やったー!」と喜び。
リジーも何か言いたげに僕に迫る中、ジャバウォックは子供らしい純粋無垢な表情で攻撃を止めない。
「でゅくし! でゅくし!」
「頼むから全員一旦出てくれ! レオナルド! レオナルド!!」
場を収める為に現れたのはレオナルドではなく、バンダースナッチだった。
「お前らなぁ……邪魔になるから向こうで待ってろ」
不思議とバンダースナッチの言葉には全員大人しく従う。
どやどや、仕方なしな態度を見せつつも、工房から退去した彼らを見届け、バンダースナッチは欠伸かいて僕にある事を伝える。
最初から、これが目的だったんだろう。
「作るなら全員分作ってくれ。さっき、スティンクも来たから」
「…………」
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