第6話


 整理券番号の呼び出しがあり、僕とレオナルドは受付に足運ぶ。

 担当するNPCに個人経営店の詳細を教えて貰った。


 経営ノルマのようなものはない。

 商売報酬に関してはサブイベントでランキング形式ではない。

 個人経営店はギルドと連動可能。売上がギルドの貢献度に加算される。

 売上だけではなく生産も商売貢献に加算される。


 ただし、商売は行うこと。

 薬剤師は薬品、鍛冶師は武器、刺繡師は防具のみ。

 他の商品の販売は不可能。

 商売をしなかった場合、個人経営店の権利は剥奪され、工房もろとも土地は消滅する……


 薬剤師の強みは無人販売を行えることだろう。

 鍛冶師・刺繡師もアプリなどで商品受注を行えるようだが、オーダーメイドなど客個人の注文が多い衣類・武器関係で無人は厳しい。


「大した事ではなくて助かったよ。適当にそれっぽく商品を並べておけばいいからね」


 そういう訳で、僕は個人経営店兼工房を持った。

 レオナルドと共に立地へ移動。

 僕たちは建物内に姿を現したが、中は家具もなにもない。がらんどうな空間だった。インテリア等はプレイヤー個人に委ねられる。

 早速、建造物の設定を始め、道に隣接するように無人販売用の棚を設置。


 レオナルドは僕に呆れていた。


「マジで誰も来ない場所選びやがったな……」


「よっぽどの物好きじゃないと足を運ばないし、周囲にまだ個人の一軒家もない。これから誰が来た所で無人販売を貫く人見知りだと思われる。挨拶周りする必要はないってことさ」


「徹底しまくってて引くぞ? 俺でも分かるぜ。ホントに誰もこねーだろ」


 僕が選んだのは集会所や初期スポーン地点、掲示板、NPCの商店街といった人通りの多い場所から離れた所にある森林地帯。

 目立たないし、店内に誰も入れる予定はないが、見栄えだけは良くしておいた。

 クエスト報酬で貰ったマニーを使い。無人販売所に花の飾りと看板娘ならぬ看板兎を配置。


 店名を入れれば完成。

 無難でありきたりだが『ワンダーラビット』と名付けた。


 工房の設置はまだいい。まずは、必要なものを揃えなくては。

 先に倉庫として利用する箱を部屋の端に設置し、中身はレオナルドと共有する事にした。

 使い道のないアイテムを粗方整理し、何もない持ち物欄を眺め、レオナルドは不思議にも安堵の溜息をついているようだ。


 僕はレオナルドに説明する。


「MP回復の『魔力水』とステータス強化系の薬を作製しに行こうか。僕たちだけでもメインクエストに挑戦できるようにね。向かうのは『花畑エリア』だ。主に植物系の素材を入手する為だけのマルチエリア」


「マルチ?」


「マルチエリアは他プレイヤーと共有する特殊なフィールドと解釈して欲しい。僕たちが受注したメインクエストとは別だよ。メインクエストは受注したプレイヤーとそのパーティだけが参加する」


 レオナルドとパーティを組み、メニュー画面からエリア移動の欄にあるマルチエリアを選択。

 『花畑エリア』を押すと、エリアの説明が宙に表示された。


「通常のマルチエリアは最深部にいるボスを討伐して、スポーン地点にあるクリスタルに触れる事でステージクリアだけど。『花畑エリア』はボスはいないから、スポーン地点のクリスタルに触れるだけで問題ないよ」


「生産職の為のエリアってことか」


「うん」


 他にも鉱物系を入手する『鉱山エリア』。繊維系を入手する『草原エリア』がある。

 僕はついでに助言した。


「レオナルド。マルチエリアではPKプレイヤーキルが出来るんだけど……君の友達から聞いてはいるかな」


「意味は分かる。……え、素材集めんとこでも出来んのか?」


「勿論。まだする人はいないと思うけどね」


 こうして僕らが『花畑エリア』に移動し、スポーン地点に到着。僕らの背後には大き目な桜色のクリスタルが地面から少し浮かび、存在していた。

 小川が流れ、木々も生え、プレイヤー同士の混雑を招かないように、花畑も間隔を置いて配置されていた。

 サービス開始とあって、素材集めに来ているプレイヤーはそこそこ。


僕は一つ提案する。



「レオナルド。『ソウルターゲット』の練習をしながらやろうか。折角だから僕が撮影するよ」


「撮影って……」


 レオナルドはギョッとしてるが、僕はVR機器本体に搭載されている撮影機能を立ち上げた。


「映像で取るとスローで見直せられるだろう?」


「お、おう。そう、だな」


 見られながらの特訓に緊張してるのか、レオナルドの動きは最初ぎこちなかった。

 段々と調子を得た頃。

 レオナルドと僕で検証した結果、『ソウルターゲット』の詳細な効果が判明していく。



・分裂させた魂を早く飛ばす事を意識すれば、速度が上がる。

・分裂させた魂は、本体と重なってしまうと消滅する。

・分裂させた魂が残す、薄っすら見える魂の軌道に合わせて本体は移動する。

・『ソウルターゲット』の浮遊中はスタミナ消費しない。

・本体の重量も作用する。所持アイテム数が多いと浮遊具合と速度に支障が発生する。


 アイテムを持ちたがらないレオナルドのスタイルに合っている技だった。

 しかし、やはり問題は細かい切り返し。

 魂の軌道でルートが定まっている。

 まるで電車のレールと同じ仕組み。突然の割り込みや機転の良さが困難になる。


 一度『ソウルターゲット』を解除する事で、軌道のリセットは可能なのだが。

 空を浮遊していた場合、真っ逆さまに落下しながら切り返しをするようでは対人戦では遅い。

 いや……対人戦でなくとも、空中戦では重要な部分。


 レオナルドが僕に聞く。


「そういや、カサブランカの奴がなんか言ってたじゃん。なんだっけ」


「………」


 僕としては彼女の話題は懲り懲りだ。レオナルドも悪気はないんだろうが……

 指摘だけは一人前だ。僕は苛立ちを抑えて息を吐く。

 それから、レオナルドに指示する。


「ジャンプして攻撃してごらん」


「ジャンプ攻撃?」


「そう、少しの間だけ体が宙に留まるから」


 僕が撮影機能でレオナルドの行動を収めて、彼に映像を見せてやった。


「攻撃がヒットしてコンボに繋がらなければ、こうやって一時的に留まるんだ。『ソウルターゲット』を解除、それから空中攻撃をしながら再び『ソウルターゲット』を発動」


「理屈は分かるけど難しいなぁ」


「できるようになったら面白いだろうね。移動に体力を必要としないのも大きい。攻撃時のスタミナ消費だけで済むし、VITに入れる必要はない。攻撃速度を良くする為にAGIとSTRに適度に振り分ければいい」


「……へ~」


 レオナルドが関心して映像を眺めていると、僕は視線を感じた。

 周囲を見渡すと、後からやって来ただろうプレイヤーが僕らに視線を向けている。

 僕が会釈する。

 向こうも慌てて会釈を返した。

 人目を気にしているのだろうか。僕はレオナルドに呼び掛け『花畑エリア』から離れる事にした。


 それからレオナルドと共にメインクエストを受注し、実際の戦闘を行った。


 大鎌では『子泣き爺』のような固さのある敵を斬るのは適さない。必要ないアイテムを詰め込んだ僕――薬剤師の武器・バスケットの打撃は効く。

 情報によると、『子泣き爺』以外に『塗壁』が出現するようで、これらの対処は薬で強化した僕自身が対処する事に決めた。


 隅々まで探索しクエストをクリアしていくと時間の経過は早い。

 明日の事も考え、僕たちはログアウトした。レオナルドは僕と一緒に二面ボス挑戦を約束してくれた。

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