第5話

 ステージクリア後、とんだお祭り騒ぎになった。


 まだ誰も鳥の妖怪――クックロビン隊を突破できなかった為、先に脱落し、集会所に戻っていたパーティメンバーが喜んだ、僕たちは良い意味で目立ってしまった。


 周囲の雰囲気もあって、カサブランカとのいざこざを無かった事に、盗賊たち女性三人組は話しかけて来た他プレイヤーと話を盛り上げ。

 盾兵の老人からはリーダーの剣士をほめちぎる。

 手も足も出ずに脱落した武士と鍛冶師の初心者二人は、申し訳なく頭を下げていた。


 銃使いの女性はパーティのチャットに[お疲れ様でした]とメッセージを残して、パーティから離脱する。

 察していたが、寡黙で他人と関わり避けている人見知りだ。コミュニケーションが不得意でVRMMOをやる度胸は中々。

 ひょっとしなくとも、ソロプレイヤーかな?

 序盤は不安だから僕たちのパーティに入って、安全にレベル上げをした感じだろう。


「なぁなぁ! あのクソ鳥どうやって倒した!?」


 そして、誰もが聞いてくる事はコレだ。

 本当に考え無しだ。

 何も考えないでゲームをやっている。

 自分の力で攻略しなくても、他の誰かが攻略を発見すると思って、他人任せ。


 ……違うか。

 今時のゲームだから、ゲーム情報の内訳を深く考察しなくても、単純な構造だと思い込んでいる。

 僕がどう答えようかと悩んでいると、割り込んできたのはカサブランカだった。


「銃使いと弓使いのプレイヤーを保護しつつ、周囲の木々を切って視野を広くすればいいですよ」


 それを聞いたプレイヤー達は盲点だったようで、揃って関心を呻きをする。


「全部伐採すればいい奴?」


「いやでも、攻撃はどうすんだ? 挑発しても盾兵がすぐ落ちるんだよ」


 僕は回復薬や『挑発香水』の件に触れられたくはない。

 まだサービス開始早々で、僕というプレイヤー個人が注目されるなんて御免だ。

 カサブランカが余計な事を言う前に――すると、レオナルドが答えてくれた。


「回復し続ければいいんだ。コイツがずっとアイテム使い続けたお陰で、全員無事だった」


 薬剤師の連続でアイテムを使用し続ける特性。彼はあくまでソコを強調してくれて『挑発香水』の明言は避けてくれる。マジか~と野次馬たちは物量作戦に圧倒され、情報が伝達される。

 今頃、掲示板やSNSでも出回っているだろう。

 とにかく、僕たち自体が目立った結果にはならなかった……筈。


 野次馬たちが離れて行った後、カサブランカが話しかけて来た。


「失礼ですがイベントに参加する予定は? どうやらプレイヤー同士のバトルロイヤルなど開催されるようでして……あぁ、そこの貴方も」


 不快感を抑えて「ありません」と僕は答え。

 レオナルドは視線を泳がせ「わからない」と曖昧な返事をする。

 そこは否定して欲しかったのだけど……僕の不安を他所に、カサブランカは不敵に笑う。


「その時は、よろしくお願いします。私はこれで失礼します。午後の会議がありますので」


「会議?」


 レオナルドが素っ頓狂な声を漏らす。僕も正気を疑った。

 会社内でゲームをやって……仮にやっていたとしたら、彼女の立場はそれなりの地位があるとしか。

 彼女は淡々と手元に表示したメニュー画面をタッチ。ログアウトを選択し、瞬く間に彼女の姿は消え去った。


「オイ! 待ちやがれ!! あのヤロー!」


 遅れて怒声を上げたのは、格闘家の少女だった。

 VRMMOの界隈に身を置く彼女は、カサブランカは無視しておけないだろう。しかし、彼女は銃使いの女性と違って、チャットにメッセージも残さず立ち去った。


「挨拶もしないでパーティ抜ける奴いるかよ! ふざけんじゃねー!!」


 何事かと他のパーティメンバーも僕たちの所に近づいてくる。僕が状況を説明する。


「すみません。カサブランカさん、用事があるらしくログアウトしました」


 彼女の名を聞き、盗賊の女性がうんざりした様子だった。


「いいわよ、空気読めない奴って感じだったから」


 他のパーティメンバーも口々に言う。


「ヤバイ人? VRMMOのプロだったのかな??」


「で、でも敵倒してくれたよ……」


「驚いたぜ! あのねえちゃん、意外にやるじゃねえか。俺の方がかっこつかなかったもんだ!」


「フレンド登録もしたくなかったし、別に」


 まぁまぁ!とリーダーの剣士が場を収めて、改めて今回のボス戦はお疲れ様でしたと円満に解散する形となった。僕は透かさずレオナルドに声をかける。


「レオナルド、フレンド登録してくれるかい?」


「おぉ。いいぜ」


 メニュー画面のフレンド登録機能を操作しつつ、僕はレオナルドに聞く。


「君っていつログインできる?」


「あー……今日は大学ねぇだけだし、バイトとかあるんだよな」


 大学生か……個人情報は明かすのはよくないのに。


「木曜は休み、金曜は午後から暇。日曜も一応暇。バイトは忙しい時間帯だけだからな、基本は夜」


「うん、僕も普段は夜にやれる。ログインしてるかはフレンド一覧で確認できるから、ログイン出来たら僕にメッセージを送ってくれないかい」


「わかった」


 無事にレオナルドのフレンド登録が終わったところで。


「あ……えっと、いいか? 俺も」


 リーダーの剣士が僕に声をかけてきた。彼には興味なかったが、パーティを共にしたで挨拶代わりにフレンド登録をしておいた。彼がレオナルドともフレンド登録をしあったのは、少々嫌だった。


 あまり記憶する事を意識していなかったが、剣士の彼は――マーティンは、改めて僕らに礼を伝えたかったようだ。


「さっきは助かった! いい判断してたぜ、二人共。今度ギルド作ったら誘ってもいいか?」


「ありがとうございます。ですが、友達のギルドに所属する予定でして……」


「あちゃ~先客がいたか」


 レオナルドも「俺もダチがどうするか……」と返事をした。


 僕とレオナルドはマーティンと別れ、パーティから抜けると集会所から出た。

 誰も僕らに注目していないか、騒ぎは収まったか。僕が振り返って警戒していると、レオナルドが話しかけてくる。


「やっぱりお前、変わってるな」


「変わってる?」


 僕が伺うと、レオナルドは頭を酷くかく。


「お前みたいな奴、初めてなんだよ」


「……ふうん?」


「しょっちゅう喧嘩吹っ掛ける奴ってーのとは腐るほど付き合って来たつもりだけど。お前みたいに徹底的にトラブル回避する奴は、無い。逆に無い。……ああ、絶対ない」


 随分と周囲が荒れた環境にいるようだ。学校や地域によるか。

 僕が恵まれているだけで、レオナルドだけは違った。そんな運命の差。

 しかし、僕が争い事を避けまくっている……語弊がある。僕は少しばかり意地になった。


「確かに僕は争い事を避けているけど、それは普通のことなんだよ。レオナルド」


「そうか?」


「君は少しばかり常識の認識がズレているんだ。闘争そのものが愚かな行為だよ。自身の汚点を増やすだけさ。それにVRMMOはね、もう一つの現実社会と捉えるべきなんだ」


 VRMMOだからこその特徴。それはコミュニケーション。

 ギルドやフレンド等でメッセージチャットはあるが、VRMMOはアバターを通して現実に近いコミュニケーション能力が必要とされる。

 アバター越しだから問題ない人もいれば、銃使いの女性のような人見知りや礼儀のなってない非常識な人に優しくないと指摘されている。


 VRMMOは世間でいう『コミュ障』には不向きなジャンルだ。

 故に、ユーザーもゲーマーの人口数は低め、一般人が比較的多いとされている。


「君はVRMMOに不慣れだから知っておくといい。ここでの噂一つでも支障を来す事になる。分かったかい」


 レオナルドは初めて見る生物を観察するかのように僕へ視線を送っていた。





「俺達どこに向かってんだ?」


 レオナルドの質問に、僕は周囲を見回しながら答えた。


「『春エリア』の探索だよ。店の場所とか覚えた方がいいだろう? ジョブポイントでスキルを買うのもいいね」


「あぁ、変な妖精が言ってた」


 クエストを受注する集会所の他に、NPCが運営する武器と防具になる衣服を扱う販売店、砥石など基本的な消耗アイテムを購入できる雑貨店、例外で魔法使い専用の装備・箒を扱う店もあった。


 僕達は活用できそうなスキルを購入した。

 販売店を後にした僕たちが次に惹かれたのは、人々が群れ成して集中しているある場所。

 集会所並に相応の作りをする建物。

 近づいた僕たちに営業スマイルを貼り付けたNPCの一人が話しかけてくる。


「住民票の登録はただいま二十分前後の待ち時間となっております。整理券の発行はあちらです」


「住民票?」


 レオナルドが聞き返すと、流石はAI搭載のNPC、質問に対応してくれた。


「各層内では個人店や一軒家などを作製する事が可能です。一軒家を含めた自宅はマイルームのようなものと考えて下さい。自宅はアイテムを保管する『倉庫』機能があります。ゲームログイン場所を自宅に設定できる他、自宅からクエスト受注もできますよ!」


 これなら、人と会う事なくログインからクエストまで行える。

 業界もコミュニケーションを苦手とするユーザーのニーズに答えた取り組みに励んでいるようだ。

 NPCは空気を読んでか、こんな事もつけ加える。


「フレンドの方とシェアハウスも可能ですよ!」


 レオナルドは戸惑いながら僕に尋ねた。


「ルイスはどうする?」


「僕は買うつもりだよ。アイテム整理の倉庫は欲しいからね。――すみません。他のプレイヤーが勝手にあがりこんだりは出来ませんよね」


「はい。外から家の中は見えない仕様になっていますし、会話に関しても防音仕様となっております。他プレイヤーとの交流に関しては、自宅設定でお好みに。……あ! ちなみに立地の方は早い者勝ちです。お早めに購入した方がよろしいかと」


 それから、整理券を受け取り、詳細内容がメニュー画面を通して[土地購入]の情報に入り、ゲーム情報の欄にNEWの点滅がついた。



<土地購入について>

 〇各層内にある『市役所』の受付から土地購入を行えます。


 〇土地代+自宅・個人経営店建造を含め5000マニーで購入します。

  立地は先行順となっております。


 〇土地代 毎月2000マニーのお支払いをお願いします。

  支払われなかった場合、土地は自動的に剥奪され、建造物・庭等も消滅します。

  倉庫内のアイテム、家具・インテリアに使用したアイテム全て消滅します。



<個人経営店について>

 〇鍛冶師・刺繡師・薬剤師のプレイヤーは個人経営店を持つ事が可能です。

  個人経営店内でも自宅/マイルーム同様、倉庫機能があります。


 〇個人経営店内では『工房』が設置されます。

  一部の作製物は『工房』で放置製造が可能になります。

  『工房』で作製を行うと一時的にDEXが上昇し、作製の成功効率が良くなります。


 〇四半期別に売上・評価による獲得報酬があります。

 ※生産職の売上評価は第2四半期(7月)より開始されます。報酬内容に関しては後日追ってお知らせします。

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