第25話 偵察

 翌日。おれたちは、フィスト仕様の軍服を来て、軍の総本部、つまりは王城へ向かっていた。

 この黒の軍服を着ると、格好だけでもあの時憧れたおっさんに近づけた気がして、モチベーションが上がる。


 本物の軍服は緑と黄土色が混ざったような、迷彩服って感じだけど、おれたちの軍服は、素材や作りはまったく同じもので、上下ともに真っ黒でカッコいい。

 そんな黒尽くめのおれたち3人は、相変わらずの人混みをかき分けながら歩いていく。


 宿泊先から王の住む巨大な城まではそんなに時間はかからなかった。打ち合わせは明日だけど、ちょっと挨拶と見学をしようということでやってきたわけだ。


「近くで見るとすげぇ迫力っすね」

「ああ。でもおれは王家より、これを建てた人が一番すげぇと思うわ」


 ゼースさんの観点がちょっと面白かった。受付で、事前に社長から貰っていた紹介状を渡すと、すぐに入場許可を得ることが出来た。基本これがないと入れないらしい。


 ゼースさんは敷地内だけど城の中には入らずに、外の道を歩いて移動していた。見えてきたのは、城とは別のこれまた大きな建物。その足元には大きな広場、というより演習場が広がっていた。

 男たちの野太い声と、遠目で見える軍服を来た人たちの姿で、即座にそう理解することができた。


「あれは……7番隊と5番隊が訓練してんのか」


 まだそこそこ遠めだけど、よくそんなことがわかるな。しかも遠慮なしに中に入っていってるし。


「そういえばさ、ガーストンさんも5番隊とか言ってたけど、本部には何番隊とかそういうのがあるの?」

「ん? ああ、そうだよな。仕組みとか全然わかんねぇよな。ちょっと説明しとこうか」


 ゼースさんは立ち止まってしゃがむと、落ちていた木の棒で地面に絵を描き始めた。


「軍の相関図を書くとこうなる」


 国王

 国王補佐

 1番隊

 2番隊

 ……(中略)

 10番隊

 見習い


「こんな感じだな。ちなみに隊の数字がそのまま格付けになっててな。5番隊よりも4番隊、4番隊よりも3番隊、ってな感じで強さの序列が決まってんだ」

「なんかわかりやすくていいっすね。1番強いから1番隊ってわけか」

「ま、厳密に言うと、さらにその上の国王補佐と国王のほうが強いんだけとな」

「……マジすか?」

「1番隊の隊長よりも国王補佐のほうが強ぇ。国王補佐よりも国王のほうが強ぇ……なんて言われているが、実際どうなんだろうな。アイツが本気で戦っているところなんて見たことねぇからな」


 アイツっていうのは国王のことなんだろうな。

 それにしても国王が強いってイメージはなかったな。っていうか考えたこともなかった。か弱い王様を、兵士たちが守ってるもんかと思ってたわ。


「ロマーニとか、他の街ではそういうのないよね」


 なっちゃんが問う。


「そうだな。支部はその支部そのものが一つの隊、みたいな感じになってんな」


 なんとなく軍の組織形態がわかったところで、遠くからおれたちに向かって呼びかける声が聞こえた。

 演習場内の端っこでしゃがんでいたおれたちは立ち上がり、兵士たちのほうを見た。


「お前たち何をしている!! ここは関係者以外、立ち入り禁止だ!!」


 広い土地にも関わらず、余裕で聴き取れるほど声が通っていた。逆におれたちはそんなデカい声を出すことができないタイプなので、近づいて行くことにした。


 散らばって訓練している他の兵士たちも、動きを止めておれたちを物珍しそうに見てきた。


「邪魔しちまったな。とりあえず挨拶だけしとくか」

「はい」


 3人で近づいていくと、同じように兵士の1人も歩み寄ってくる。今、大声で呼んできた人だ。


「どちら様で?」


 隊の中でも上の人っぽいな。貫禄があって強そうな人だ。


「今度の任務で5番隊さんとご一緒させてもらう、自警団フィストっす。ちょっと挨拶で寄らせてもらいました」


 ゼースさんのその言葉に、相手はすぐに理解と納得をしてくれた。そして5番隊のガーストン隊長を呼んで来てくれた。


「おお、早速やってきたか」


 昨日とは打って変わって、軍服姿で風格のあるガーストン隊長。ほんとに隊長だったんだな。


「自己紹介なら昨日済ませたし、どうだ? せっかく来てもらったわけだし、ウチの兵たちと手合わせしてくれないか? 3人の実力も知っておきたいからな」

「いいっすよ全然」


 ゼースさんはためらうことなく承諾した。


「ハクト! リーシャン! ちょっと来てくれ!」


 ガーストン隊長は大きな声で、訓練中の兵士を呼んだ。駆け足でやってきたのは、銀髪のクールな感じの人と、黒髪で編み込んだ頭のスラッと背の高い人だった。


「こちら、今度のモノス戦に参加してくれる自警団フィストのゼース、エレナ、ナナだ」

「5番隊ハクトです」

「同じくリーシャンです」


 互いに軽く会釈をした。


「2人はこの5番隊でおれの次に強く、優秀な兵士だ。今回は1体1で力を見せてもらおう」

「面白ぇ。どういう組み合わせでやります?」

「ゼースとおれ。ハクトとナナ。リーシャンとエレナ。これでいこう」


 トントン拍子で組み合わせが決まっていった。最初はおれとリーシャンからやることに。気付けば他の兵士たちも訓練を止めて、おれたちを観ていた。


 ロマーニ支部でやったときは100人相手に勝てたけど、正直あっちは数人だけ強くて、他はそこまで強くなかった。

 だけど今、目の前にいるリーシャンという男はどうだろう。顔つきや立ち振る舞いを見る限り、強い人間のそれだ。


 パッと見、身長は180くらい、スラッとして縦長いタイプの体型。リーチが長いから間合いに注意だな。


「準備はいいっすよ、ガーストン隊長」

「おれも、いつでも行けます」


 戦闘用のグローブもしっかり着けて、お互いに見合う。もちろん訓練なので、精霊の加護は使わない。


「よし、それじゃあ行こうか。始め!!」


 5番隊、リーシャンとの力比べが始まった。とりあえず油断しないように全力をぶつけるだけだ。

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