第26話 鋼の5番隊

 おれは走って間合いを詰めるが、リーシャンはその場で構えたままだった。こいつ、カウンター狙いか?


 おれは初手、走る勢いを利用して回転蹴りを顔面に放つも、両腕でガードされた。間髪入れずに右ストレートを放つもかわされ、相手はかわした拍子におれの胸ぐらを掴んでグッと引き寄せてきた。


 引き寄せながら足を引っ掛け、おれはヘッドスライディングをするように転かされてしまった。


「くそっ!」


 すぐさま立ち上がりながら振り向くと、既に目の前に敵の蹴りが迫っていた。間一髪でガードを入れたが、蹴りの威力は凄まじく、ぶっ飛ばされてしまった。


「強えなぁ……総本部の兵士は」


 変則的な動きに、ムチのようにしなやかで威力のある蹴り。細かな体重移動や力の伝達がめちゃくちゃ上手いんだろうな。

 そんな、初めて見るタイプの強敵を前に、不思議と笑いが出てきてしまった。


「絶対負かす」


 リーシャンは追い打ちはかけて来ずに、再び待ち構えていた。


 おれは再びダッシュで詰め寄り、さっきの回し蹴りを思わせるフェイントから瞬時に重心を落とし、タックルをかました。


 倒した……と思ったけど、リーシャンは踏みとどまった。細身の割に体幹が強かった。


「噂と違うな」

「は? 何の話?」


 無口な野郎かと思ったら急に喋り出した。


「自警団フィストは圧倒的な戦闘力が自慢と聞いていたが……この程度ならわざわざ外部から応援をよこす必要があったんだろうか」


 悪気がなさそうに淡々と毒を吐くリーシャンに、おれのイラつきは一瞬で頂点にまで達した。


「エレナの顔見てみろよ。ありゃモロに挑発に乗ってんぜ」


 笑いながらなっちゃんと話すゼースさんの声が聞こえたが、そんな事は気にせずおれは正面から突っ込み、相手の顔面向けて跳び蹴りと、2、3発ジャブを打ったが下がってかわされた。


「逃げんな!」


 もどかしくて決めに行こうと、踏み込んで右ストレートを放つと次の瞬間、敵のカウンターを食らって意識が飛びそうになった。


「エレナ!!」


 なっちゃんの声が聞こえるってことはまだ意識があるってことだよな。でもぼーっとしてわけわかんねぇ。


「構えろエレナ!!」


 ゼースさんが何か言ってるな。……と思った瞬間には、敵の追い討ちが顔や身体に打ち込まれているのがわかった。

 殴られまくって最後には蹴り飛ばされ、おれはその勢いで地面を転がった。


「終わりです、隊長」


 地面が冷たい。体が痛ぇ。くっそイラつく。…………5番隊……強ぇんだな。


「エレナー、何寝たふりしてんの。師匠とやるときはもっとボコボコにやられてんでしょ」


 なっちゃんがそんなことを言う。師匠っておっさんのことか。確かに、おっさんと修行するときはもっと強い力でフルボッコにされてたな。


「でも痛いもんは痛いんだよ……マジで効いてるし……そんなすぐ立ち上がれるか!」


 そう言いながらなんだかんだ立ち上がるおれに向かって、なっちゃんは笑顔で拳を向けていた。ったく調子狂うなぁ。……でもなんかちょっと元気でたわ。


 そんなおれを見て、今度はリーシャンの方から距離を詰めてきた。とどめを刺そうって魂胆だな。


 凄いスピードで詰め寄ってきたと思ったら、小細工なしの真っ正面からのストレートを放ってきた。弱っているおれを早く仕留めたかったんだろうな。


 ────鈍い打撃音が響いた。


 相手の拳はおれの耳を掠めた程度で、逆におれがクロスカウンターで顔面に拳をめり込ませた。全身の力で拳を振り抜き、リーシャンをぶっ飛ばしてやった。


 鼻血を飛び散らせながら飛んでいく光景を見て、周りの兵士たちがざわついた。


「こっからが本番だ。かかってこい、5番隊」


 おれは追い討ちはかけずに、リーシャンが起き上がるのを待った。さっきおれがそうされたように、1回は同じようにしてあげるのが礼儀ってもんだと思って自分なりの筋を通した。


「いいぞエレナー! その調子でガンガン攻めてけ! 昔、アラケスのおっさんを初めて殴った時と一緒だー!」


 デカい声で助言してくれる先輩ゼースさん。


 おっさんを初めて殴ったとき………そうだったわ。今思えばおれの戦闘スタイルってあの時から決まってたじゃんか。


 相変わらずリーシャンはその場でおれが来るのを待ち構えている。


「その戦い方にもイラついてきたわ」


 おれは地面を強く蹴って前に出た。おれの得意な戦闘スタイルは至近距離で怒涛の速さで攻撃を畳み掛けることだ。


 右ストレート、左アッパー、右フック、左フック、右ボディ、右ローキック、右ハイキック、かかと落とし………その他いろいろ!


 相手が反撃する暇がないくらい猛スピードで攻撃を連打する。リーシャンは時々かわしつつ、ほとんどガードのみで防戦一方になっていた。さりげなくボディに攻撃を入れてくるのが上手いが、おれは気合いでゴリ押ししている。


「奥義、百連突き!」


 おおよそ百回にも渡る連続パンチで、ガードしている腕を剥がしにかかった。


 だけど、リーシャンの反応速度が早すぎて全て防がれるか、いなされるかでなかなか顔面に届かない。百連突きの最後の一撃をグッと押し込み、リーシャンを後ろに下がらせた。


 ───続けて奥義、閃光突きだ。


 地面がへこむ程に脚に力を込め、前方に強く跳んだ。超スピードのまま拳を前に突き出し、弓矢のように飛んでいく。

 おれがリーシャンに届くまで、コンマ数秒の話だが、リーシャンが不敵な笑みを浮かべたのがハッキリ見えた。


(ヤバい、なんか来る! )


 そう感じた時にはリーシャンは半身はんみで右手を突き出し、カウンターの掌底打ちを繰り出していた。


 超スピードはもう止められない。おれは咄嗟にヤツの手のひらが顔面に当たる寸前で体を回転させ、かわしながら裏拳でリーシャンの顎を殴り飛ばした。


 リーシャンは失神し、その場に倒れた。おれは無理やり空中で体を捻ったので、着地ができず勢いのまま地面に転がっていった。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」


 もう限界だ、立てない。最初から最後まで全力を出し続けて体力が底を尽きてしまった。兵士たちは間違いなくリーシャンが勝つと思ってただろうから、騒然としている。


「おうお前ら、リーシャンとエレナを運んでやれ!」


 勝負はついた。なんとか勝つことが出来たけど、正直次やったら勝てるかはわからない。鋼の5番隊、恐ろしいよまったく。

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