第15話 虎と雷鳴
「これが精霊……?」
こんなデカい動物、見たことない。物体として実在しているように見えるけど、光でちょっとだけ透けているようにも見える。どういう現象なんだろう。
「──────っ!!!」
開口一番、まるで突風が正面から吹いて来たかのような咆哮でおれらを威嚇してくる虎の精霊。
「アラケス! てめぇ何しに来やがった!」
虎の精霊は、社長よりもその後ろにいるおっさんに殴りかかった。おっさんは瞬時に黒龍の加護を展開して防御した。
……にも関わらず、凄まじい威力に耐えきれずおっさんは吹っ飛ばされた。
やべ、これおれもやられるのかな。
「痛ってぇな。相変わらずのご挨拶だこと」
おっさんはなんとか大丈夫そうだ。
「虎ちゃん、元気してた?」
社長は実の父親が殺されそうになっているのに見向きもせず、笑顔で精霊に話しかけていた。
「おう、元気だったぜヒスリー。また会えて嬉しいよ」
社長は精霊に抱きつき、精霊も社長にデレデレの様子だ。
「あのー、数秒前の出来事はなんだったんでしょうか……」
すると今度は、おれを睨みつけてきた。
「てめぇはヒスリーの何だぁ? ちょっかい出したら殺すぞああん?」
めっさガラ悪くないですか。精霊じゃねぇよ、悪霊だよこれもう。
「新しく仲間になったエレナだよ。どこかにエレナに合う精霊がいないかなぁと思って虎ちゃんに会いに来たの」
「精霊ねぇ……。心当たりならなくもないが」
さすが精霊。その界隈にはやっぱり詳しいのか。あんたや黒龍みたいな、強くてかっこいいやつ紹介してくれ。
「今はあるか知らないが、その昔、
……このデカい虎と鹿が引き分け?
信じられないけど、真剣な表情を見ると冗談ではなさそうだ。
「おもしれぇじゃねえか。どうだエレナ、行ってみるか?」
「あ、うん。そんな強い精霊なら嬉しいけど。その雷鳴の丘ってどこにあるの?」
「馴れ馴れしいぞ小僧、殺すぞ」
はい、もう何も言いません。
「そんなこと言わずに教えて、虎ちゃん」
「……わかったよ」
社長の言うことだけは聞いてくれる虎を見て、理不尽というものをおれは体感した。
「ここからだと南西の方角にある。馬なら2日ほど走れば着くだろう。ただし、必ずしも精霊となって今もこの世にいるとは限らんぞ。薄らとやつの気配を感じるって程度だからな」
情報としては十分だと思う。そもそも精霊なんているわけないのが当たり前なんだから、こんな貴重な手がかりには縋るほかない。とにかく自分の目で見てみよう。
「おっさん、社長、そこに行こう」
何だかんだで親切にしてくれた虎の精霊にお礼を行ってから、おれたちは霞の森を後にした。
帰り道に聞いた話だけど、あの虎は正確には"
社長が加護持ちになった経緯も気になるけど、それはまた今度でいいや。
そして再び馬車に乗り、目的地の雷鳴の丘を目指して出発した。
◇
2日後。恐らく雷鳴の丘と思われる場所に、おれたちはたどり着いた。
白虎の言ったとおり、本当に2日で到着した。それに、ここが雷鳴の丘であっているかどうかは、その光景を見れば一目瞭然だった。
「ここ、行って大丈夫なの……?」
何故かここら一帯だけ、雷が鳴り止まない。雨もすごいし。
例の鹿がいるかどうかはわからないけど、とりあえず行ってみることに。
「ヒスリー、全員を囲う防御結界を頼む」
「わかった」
この雷がいつおれたちに落ちてくるかわからない。おっさんはそう踏んだんだろうか。
おなじみ社長の白虎の力で、半球形の防御結界が張られた。
今回はさすがに危険すぎるため、運転手さんと馬達も一緒に行動することに。
しばらく歩いて探しまわっていると、突然雷が結界に直撃した。
地球が割れたかと思うくらい大きな音がしたけど、目視できないから最初は何が起きたかわからなかった。……雷なんて人間の目で追える速さじゃない。
社長の結界がおれたちを守ってくれたから助かった。
しばらく上り坂を登っていくと、少し開けた場所にやってきた。
この木々のない丘の上で、白虎と出会った時と同じように大きな光に包まれた。
「ようやくお出ましだ。ヒスリーはそのまま防御結界を継続。エレナ、まずは話しかけてみろ。どう対応してくるか様子見だ」
白虎の時は白と水色って感じだったけど、今回は白と紫っぽい光の色だった。おまけに雷を発してるし。
姿を現したのは、白虎の言うとおり鹿の姿をした精霊だった。
体格は一般的な鹿と同じだが、毛が白く、角が根元で折れている。
「忌々しい力だ。いつしかの龍と虎だな」
精霊は淡々とした様子でこちらにゆっくりと近づいてくる。
「鹿の精霊さ、ちょっと話というかお願いがあってきたんだけど、聞い───」
おれが話しかけていると、瞬く間に視界が白く染まった。
激しい衝撃音と同時に、結界が大きく揺らいだ。攻撃されたんだろうけど、ほとんど見えなかった。
「去れ。貴様らに用はない」
全然友好的じゃないな。こりゃ手強そうだ。
「こっちはお前に用があるんだ。話を聞いてくれないか?」
「……気に食わんな。どういう原理か知らんが、その力……間違いなく白虎のものだ。それに、そっちからは黒き龍の力を感じる。また私に挑んでこようとは愚かなやつらよ」
もう1発、雷が一直線に飛んできて、社長の結界が破壊された。
「なんて威力なの……」
社長は再度結界を展開し、それだけでは弱いと判断したおっさんが、黒龍の加護で結界を覆う盾を構築した。
……おっさんの加護は透けないから前が見えない。おれは結界の中で前に出た。
「おっさん、社長。おれだけ出してほしいんだ。あの精霊は2人の加護を嫌がってるように見えるからさ」
「危険すぎだ。あんなもん1発食らったら即死だぞ」
「多分そうだろうね。でもまぁ、そん時はそん時だよ。それに、何だかわからないけどあいつ、そんな悪い奴には見えないんだ」
おっさんと社長にとっては苦渋の決断だっただろうけど、結界を開けてくれた。
そしておれは正面から歩いて近づいていく。
結界から数メートル離れたその時だった。
後方から大きな雷の音が聞こえ、振り返るとまさかの地面にヒビが入っていて、崖が崩壊しようとしていた。
見ていなかったけど、多分今度は空からの落雷で地面を壊したんだと思う。
「社長!!」
「エレナ!!」
崩壊する崖と共に、みんなも落下していく。
めちゃくちゃ焦ったけど、落ちていく最中に社長が光の縄でみんなを掴み、結界も展開していたからきっと無事だと思う。
下の方は木々が生い茂っていて、途中から見えなくなった。
────1人取り残されたおれ。心細いけど、なんとかこの精霊の力が欲しい。
内心ビビりながらも、勇気を出して再び精霊の方へ近づいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます